繁栄した元禄期に江戸っ子は「新川は 上戸の建てた 蔵ばかり」と川柳を詠んだ。現在でも東京都中央区新川・日本橋一帯は、歴史ある酒問屋が集中し、酒類業の中心地である。かつて灘や伏見の銘酒を載せた樽廻船が到着した川は今は埋め立てられているが、町のそこかしこにその名残を留めている。
大坂(上方)の銘酒は江戸では「下り酒」と呼ばれ、上等品として扱われた。関東近辺のお酒は「下ってこない」ものとして一段低くみられた。これが「くだらない」の語源と言われている。
酒類業の神様を祀る神社もある新川に、キリンビールが新社屋を竣工したのが1995年。ビールが過去最高の消費量を記録した次の年であった。ちなみにアサヒビールにトップシェアを渡す3年前である。そのキリンビールが14年の時を経て、今年8月31日から、前の本社ビルがあった原宿に本社を戻すことになった。
キリンは持ち株会社制に移行して2年。ホールディングス社はじめグループ統括機能は新川に残すが、キリンビバレッジも来年2月に同じ原宿本社ビルに入り、グループシナジー発揮を目指す。
酒類の消費量は96年をピークとして右肩下がりに下がってきた。他方、清涼飲料の消費量は年々増加した。キリンビールが新川を離れるのは単なる偶然とはいえ、ひとつの時代の区切りを感じさせる。(7/13)


