天狗缶詰は昨年11月、新社長に伊藤圭太郎氏が就任し、約半年が経過した。伊藤社長から見れば2代目に祖父、3代目に父(長男)、4代目は4男の伊藤嘉彦前社長(現会長)と引継がれ、自分が5代目の任に当たるという生粋の血族経営だ。
ところが、就任した時期が「最悪の状況」だった。売上高は2008年9月期の107億円から、前期は9%減の98億円に、今期はさらに96億円を見込む状況となった。経常利益も2億2000万円から3700万円に落込んだ。
要因はまず2年前に、同社マッシュルームで健康被害が発生したことで信用を落とし、白鳥工場は稼働率が50%と激減。続く09年に鳥インフルエンザによりウズラ卵の納入が50%に激減、「需要はあったが原料が工場に入らず消化できなかった」と伊藤社長は悔やむ。2工場の赤字のダブルパンチで押し潰れそうになった。
追い打ちをかけたのが09年4月に起きた協力工場の食品偽装問題。四国の同メーカーとは約10億円の取引関係で、栗や筍を仕入れていたが、筍の産地偽装が事件となった。天狗缶詰を通して販売した食品は国産だったものの、自社ブランド品に中国原料を混ぜていた。このため栗まで新生工場産は販売減となり、一気に売り上げは落ち込んだ。
伊藤社長の就任は、まさにトリプル苦を乗り越えようとする矢先の交代だった。しかし、同社の既定路線であったため、「自分のスタイルを全面に出せばいい」と就任した。それは「真摯に向き合う」という理念だ。正しいことをやっていれば必ず結果が着いてくる。「まじめにやると損する時代だが、湧き上がる問題に真正面からぶつかろう。目先の利益にこだわらず相手の利益(取引先・最終利用者)を考えた行動を」と考え、きちんとやれば利益も回り戻ってくるという信念だ。
「特にマッシュルーム事件以来、コンプライアンス活動を推進している」ときっぱり。例えば今年2月、天狗ブランドとして中国からミカン缶詰を仕入れていたが、自社工場内でたまたま針の混入を見つけた。知らないで通せば頬かむりもできた。しかし、伊藤社長は周りを説得し、保健所に届け、自主回収を実行した。
「お客様の中には逆に面倒くさいことを、とお叱りもあった。納入停止で損もしたがコンプライアンスに則り理念を貫いた。すると、これが逆にお客様の信頼を得て、4月から出荷が伸び、ミカン販売が増大した」と安堵し、嬉しそうに話す。
この経営理念を基に、今年度は「稼働率の落ちた白鳥工場の復権」「国産マッシュルームを大きく販売」の2点に注力する。特にマッシュルームは、中国の原料を止め、インドネシア産を国内で袋詰め加工し、国産とともに伸ばし、将来1000トン体制まで大きくするのが目標だ。今期の売上高は96億円を見込むも、来期は100億円の大台に乗せるのが目標でもある。「三河工場はウズラ卵の原料が増加し、100%稼働率に戻ったので利益も戻る」と期待している。
伊藤社長には、大きな夢がある。それは「最後の缶詰屋になる」こと。「缶詰業界は淘汰が進むが、当社は缶詰屋として100億から102億、次は104億円と小さな売り上げアップで生き残る」と企業像を捉える。(6/17)
伊藤圭太郎(いとう・けいたろう)
1968年生まれ、愛知県出身。91年中央大学商学部商学士。93年米国ロサリー大学経営学修士。97年天狗缶詰入社。06年同社常務、09年同社社長。趣味はゴルフ、歴史ものの読書。


