ザート・トレーディングは、関連会社のザート商会の輸入部門とPRを担当するが、そればかりでなく、ザート商会が展開する直営・フランチャイズのレストラン経営の、いわばマーケティング会社だ。
ザート商会は、ドイツを中心としたヨーロッパからプレミアムビール、ワインなどの飲料や食材、装飾品、建築材料などを直輸入している。飲料やソーセージなどの食材は、冷蔵コンテナで輸送し全国百貨店に卸すとともに「フランツィスカーナー バー&グリル」などの直営・フランチャイズのレストラン経営を展開している。
ザート・トレーディングはそのうちフラッグシップの2店舗「フランツィスカーナー バー&グリル御茶の水」「同 六本木ヒルズ」をプロデュースし、都内12店舗の世界観を体現している。
能勢壬紀子氏は、夫の今里尚史氏がオーナーを務めるザート商会の専務だが、このほどザート・トレーディングの社長に就任した。「飲食の楽しみというのは、美味しい食事やワインはもちろんだが、それだけではなく、それとともにあった芸術だったり、音楽だったりする。総合芸術として店舗はある。絵画、石造、照明、アンティーク…その全てを空間として味わえることを狙っている。ワインサロンやドイツの文化を紹介するコミュニティづくりも手掛けている。あまり儲けにはならないけれど(笑)」。
能勢氏は「いわば文化の実験です」と表現するが、氏が一番気を付けていることが、「ヨーロッパの食文化をそのまま日本に導入しても根付かない」ということだ。事実、東京にドイツレストランはあるが、もっぱらその顧客はドイツ関係者、という例が少なくない。
「ヨーロッパの文化は、日本人の味覚や感性のフィルターを通して、咀嚼して、初めて一番大事な“感動”を届けることができる」。例えばシュペッツェレは日本人の舌には柔らかすぎて感じる。日本ではもっと歯ごたえがあるように提供すべき、といった具合だ。調味も「うまみ」に代表される日本人の繊細な味覚に合わせることが必要だ。
この発想は、実は能勢氏の大学の音楽学科の専攻で培われた。「神楽の研究です。中国から雅楽として渡ってきた音楽が各地方、集落単位で神社を中心に発展変遷していく様を、フィールドワークして採譜することから特徴づけました」。
河合楽器でピアノ教師をしていたこともあり「ブラームスもベートーベンも元は誰が弾いても同じ楽譜だけれど、やはり日本人には日本人の弾き方がよい」とも。
「子供の頃から枠にはまらない、はまれない(笑)。それがかえって今の仕事には役立っているのかも」。「アートとしての飲食」の追求はまさにライフワークと呼ぶにふさわしいものだ。(9/9)
能勢壬紀子(のせ・みきこ)
京都生まれ。大阪芸大主席全額免除特待生入学、音楽学部音楽学専攻。学生時代から河合楽器でピアノ教師、卒業後すぐ結婚、上京。河合楽器に入社。教師として働くうち教育に目覚め、学習塾数学教師に転向。25歳で独立し、高校受験塾を経営、独自の授業編成で好評を得る。31歳でザート商会をパートナーの今里氏と共に企業。グループの輸入の基盤を築く。10年、ザート・トレーディングを立ち上げ社長に就任。


