杢谷正樹氏にインタビューしようと思い付いたのは、オーガニックEXPO&ナチュラルEXPOの記者会見の中で、杢谷氏の「消費者のレベルが下がっている」という発言が気になったからである。
このインタビューで判明したその心は、「日本人が農業や漁業の現場から離れてしまい、自分で食品を判断する力が低下している上に、さらに“期限表示(95年に製造年月日表示から期限表示に移行した)”などによって、判断力が著しく低下してきている」という見方である。
ある食品が腐っているのか、或いは食べられるのか。それは自分の体験に基づいて色を見たり、臭いを嗅いだりして判断すべき重要なことなのに、期限表示、つまり経験ではなく、与えられた情報によって判断するようになっている現状。それは、杢谷氏によると、「生きる能力の低下」であるという。
依るべき経験を踏まえて、自分が食べる物について判断していくことが、「生きる基本」であると主張しており、経験が少ないままで、期限表示に頼っている状態が続くと、「いずれ、腐っているかどうかすら分からなくなってしまう」と警鐘を鳴らしている。
これは、NPO法人全日本健康自然食品協会の趣旨にもつながっている。この協会は、地域の伝統的な食生活を育むことが、健康的な生活の礎だと考えている。
従って、一般に“健康食品”と捉えられているサプリメントのように、摂取すれば、劇的に健康になるという考えとは対極にある。団体名にも、健康と自然が入っているように、自然と健康はセットという考え方なのである。
この全健協は、1980年に設立された。杢谷氏の父親もその活動の中心的メンバーであった。そして、同協会が特定非営利活動法人として02年に認証を受けた時に、杢谷氏が初代理事長となった。
杢谷家の家業は、江戸時代から続く醤油屋で、4歳の頃、小豆島から醤油流通の拠点であった広島県尾道市に移転した。
折りしも、スーパーが台頭してきた流通革命の時代、大量生産・大量廃棄の潮流の中で、アミノ酸等を使わず、従来のように天然丸大豆を使った醤油を造り続け、自然食派の人々に認められてきた。それが、この協会の基礎となったのである。
杢谷氏が代表取締役を務める株式会社純正食品マルシマでは、可能な限り農薬や化学肥料、食品添加物等を排除した原料を使い、加工では可能な限り伝統的な製法を守るという方針で、醤油、味噌、きな粉などを製造しているという。
脳はとかく刺激を求める傾向があるし、身体を差し置いて進化する面があるが、もの言わぬ内臓の側は、逆に保守的なものである。身体は簡単には進化できないし、化学物質を含め、新しい物質は処理できないこともある。
だから、食は風土に根差した伝統的なものが身体にいいのである。少なくとも、リスクが低いことは間違いない。我々の先祖はそれで生きてきたのだから。健康で長生きしたければ、伝統食、自然食を基本に据えることである。(10/9)
杢谷正樹(もくたに・まさき)
1959年、香川県小豆島生まれ。83年に明治大学商学部卒業後、家業(純正食品マルシマ)に就く。現在は代表取締役。趣味は旅行。地域の違いを体験することが興味深いという。


