去る2月27日、J-PAO(日本プロ農業総合支援機構)が都内で開催した「トップマネジメントセミナー」の席上、髙木勇樹氏(元農林水産事務次官)は「農業政策への注文」と題して講演した。
講演が始まる直前、J-PAO事務局が髙木氏を紹介するに、「浪人」という単語を用いた。果たして講演が始まると、髙木氏はこれを真っ先に否定してみせた。「あれは嘘です。だって私は立派にJ-PAOの副理事長ですから。これを浪人というなら、世の中の人はみんな浪人になってしまいます。ちゃんとやってますよ」。
しかしJ-PAO事務局の表現も、無理からぬ側面がある。何故なら昨年10月をもって退いた農林公庫(現・日本公庫)の総裁職は、退官後初の再就職先で、次官経験者が一度の再就職で「あがり」とは誰も考えない。だが事実として、未だそうした意味での再就職は停止中だ。
この点、本紙では過日、本人に質している。「別に積極的に申し出たわけではないが、現役(官僚)に対し、もはや(自身の)面倒は見てもらわなくて結構と伝えてある」というから、浪人どころか今後まったく「次はどこか?」の可能性がなくなったことになる。
例えば都市農山漁村交流活性化機構理事長に就いているが、これは非常勤。またJ-PAO副理事長は以前からだが、昨年末は請われてJBAC(日本ブランド農業事業協同組合)顧問に就いた。それから、かつて日経調(日本経済調査協議会)瀬戸委員会(瀬戸雄三委員長=当時アサヒビール会長)のメンバーだったからか、アサヒビール顧問の肩書きもある。
「私のモットーは生涯現役、生涯探求心」で、「ライフワークは農業・農村・食料問題」を自負している髙木氏だから、「現役に疎ましがられても、今後とも積極的に提言、情報の受発信を行っていく」と胸を張る。講演依頼も引きも切らず、「月に2回はどこかで話している」ほど「好評」だそうな。もっとも常駐職がないため、「今は第1秘書が携帯で、第2秘書が家内」とも。
さて、この日の講演では、今後の農政改革の方向として、「農地抜本改革を核とした農業経営総合支援緊急措置法の制定」と「総合的・戦略的穀物政策の構築」からなる、独自の政策展開を提案した。去る2月27日、J-PAOが都内で行った「トップマネジメントセミナー」の席上講演で明らかにしたもの。このなかで髙木氏は、「モノごと、用途ごと、国産・輸入別対策から総合的・戦略的穀物政策への転換」に伴い、財源として「食管特会(食料安定供給特別会計)の廃止、〝穀物特別会計〟の創設」を提言している。
ちょっと現役の官僚には発想しづらいアイデアだ。「官僚としての矜持を持ちながら在野で提言を繰り返す『出家』官僚」を自認する髙木氏ならではの発想と言えるかもしれない。(3/19)
髙木勇樹(たかぎ・ゆうき)
1943年群馬県生まれ。東大法卒。66年農林省(当時)入省。畜産局長、大臣官房長、食糧庁長官などを経て98年農林水産事務次官。歴代次官の間で「最も仕事ができた次官」との評が定着している。退官後、農林中金総合研究所理事長、農林漁業金融公庫(当時)総裁などを務めた。現職は07年の組織発足時から。様々な場面で農政提言を展開。


