ホーム > この人の出番

  • 新聞
  • 食品産業新聞
  • 日報
  • 大豆油糧日報
  • 米麦日報
  • 畜産日報
  • 酒類飲料日報
  • 冷食日報
  • 月刊誌
  • 米と流通
  • 麺業界
  • メニューアイディア
  • 出版物
  • その他出版物

この人の出番

高齢者の食事に統一基準を 日本女子大学 家政学部教授 農学博士 大越ひろ氏

人は加齢とともに食べる機能、すなわち摂食・嚥下(えんげ)機能が低下してくる。現在、摂食・嚥下機能に対応させて、食形態や物性を調整した段階的な食事の基準は、食事を提供するさまざまな場(老人ホーム等)で独自に作成され、利用されている。この食事の呼称で一番良く耳にするのは「介護食」だろう。

「介護食とはざっくり説明すれば、『高齢者の摂食・嚥下機能を考慮した食事』となるが、実はこの『介護食の定義はあってないようなもの」。

そう説明するのは日本女子大学家政学部教授で、日本摂食・嚥下リハビリテーション学会(以下、摂食・嚥下リハビリ学会)理事の大越ひろ氏だ。

介護食の他にも呼称はさまざまで、「ソフト食」「やわらか食」「とろみ食」と、ざっと挙げるだけでもこれだけあり、「高齢者の摂食・嚥下機能に考慮した食事」は、現場により多くの名称で呼ばれている。

そのうえ、それらの呼称の食事には明確な基準がなく、その基準に関してもさまざまなものが乱立しているのが現状だ。その基準の例を挙げると「ユニバーサルデザインフード」「嚥下食ピラミッド」などが有名だろう。

このような現状のなか、大越氏は新たな統一基準を設け、現場にさらに混乱を持ち込むのではなく、既存の統一基準案に互換性をもたせることを提唱する。そこで摂食・嚥下リハビリ学会ではそれら統一基準と互換性を持たせる表「嚥下食調整食5段階試案」を作成した。

「統一基準のないことが一般社会や多くの臨床家からわかりにくいという原因になっている。そして統一基準がないと、急性期の病院から介護老人保健施設や特別養護老人ホームなどへ転院する際、食事を提供される利用者の側から見ても、当然不利益と言えるだろう。転院する際、利用者の食事情報が伝わりづらく、もし転院先で、利用者に合わない食事が提供されてしまったら、誤嚥による事故、誤嚥性肺炎のリスクが大幅に上がるのは言うまでもない」と話す。

厚生労働省の統計によると日本の死亡率は、肺炎はここ10数年来死亡原因の第4位を占めている。さらに年齢別死亡率を見ると、65歳以上の高齢者の90%以上が肺炎で死亡している。この高齢者が罹患する肺炎の多くは誤嚥性肺炎と言われているのだ。

その他、窒息事故も高齢者施設では死亡につながるため、注意が必要な問題である。ここ数年、食物による窒息が原因の事故は毎年4,000例を超え、しかも増加傾向にあり、しかも高齢者の発生件数は約半数に及んでいる。

人は誰でも年をとる。だからこそ大越氏は、「高齢者の摂食・嚥下機能を考慮した食事を考えることとは現在の高齢者だけではなく、私たちの未来の食事を考えること。生きるための食で死にたいとは誰も思わない。私たちが高齢者になったとき、そして摂食・嚥下機能が低下したとき、何を食べたいかを考えてほしい」と語る。(2/2)

大越ひろ(おおごし・ひろ)
日本女子大学大学院家政学研究家食物栄養学専攻修了後、日本女子大学家政学部食物学科助手。1982年から関東学院女子短期大学家政科専任講師、助教授。1993年から日本女子大学家政学部食物学科助教授、現在教授。専門は調理化学。現在のテーマは高齢者の摂食機能に応じた食べやすい食事について。