船橋屋代表取締役社長・渡辺雅司氏

船橋屋代表取締役社長

渡辺雅司

わたなべ まさし

江戸文化二年(1805年)創業の船橋屋八代目当主。1964年2月16日生まれ、東京都出身。86年立教大経済学部卒、同年、三和銀行(現・三菱UFJ銀行)に入行。日比谷支店、銀座支店等を経て93年退職。同年、船橋屋入社。専務取締役を経て、2008年8月、代表取締役に就任。高校、大学ではテニス部に所属。自称“健康オタク”で、休日はもっぱらジム通い(3カ所)。瞑想歴は約15年。

1805年創業の船橋屋。くず餅の製造、販売を手がけ、渡辺氏は八代目当主となる。かつて吉川英治や芥川龍之介など文豪たちが通いつめた老舗の経営を引き継ぎ、今年で10年目を迎える。

渡辺氏は「いい物を作れば勝手に売れる時代は終わった。いい物を作り、その良さを自ら伝え、人の役に立つ社会的企業へと変わらなければならない」とし、旧態の「守る」から「攻める」経営へと舵を切り、さまざまな改革を進めてきた。

大学卒業後、銀行員として働いた経験から「経営の本質は目先の売り上げを伸ばすことではなく、長期的な事業育成と利益の追求だ」と悟り、船橋屋の社長就任後、新卒の定期採用を始めた。「経営では何よりも人財の育成が大切。船橋屋ブランドとは、船橋屋の社員そのもの」。

併せて組織体制を一新した。従来の縦割り事業に加え、社内横断型プロジェクトを発足。さらに、全社員の無記名投票による「リーダーズ総選挙」や社内広報誌の定期発行等、さまざまな施策を通して、社内の活性化を図ってきた。

収益性の強化にも取り組んでいる。まず、先代から続く悪しき商慣習を一新した。その上で、各作業にかける目標時間の設定や廃棄ロスの改善等を行い、「これまでグレーだったコストの可視化に努めた」という。2017年度売上高は18億円となり、10年前から約4億2000万円の大幅な増収となった。18年度は売上高20億円を見込む。

現在、売り上げの6割を占める看板商品「元祖くず餅」は、適度なやわらかさとしなやかな歯ざわりが特徴。厳選した小麦粉のデンプン質を約450日かけて乳酸発酵し、蒸し上げている。保存料を含め添加物を一切使わないため、消費期限はわずか2日と短いが、「この刹那の口福は、はかなさを尊重する日本人の価値観につながる」と胸を張る。

同社は、近年の乳酸菌ブームより一足早い2000年頃から乳酸発酵に着目。発酵中の小麦デンプンを抽出、解析し、その乳酸菌が「ラクトバチルス属パラカゼイ種」であることがわかった。200年以上、同社と共に歩んできた植物性乳酸菌だ。

これを培養して商標登録した「くず餅乳酸菌」を甘いシロップに混ぜたのが、今夏限定メニューの「くず餅乳酸菌 入りかき氷」。亀戸天神前本店など直営5店舗で6月1日から順次発売している。全6種。

今秋以降、「くず餅乳酸菌」を活用したサプリや甘酒、ゼリー飲料、化粧品を発売し、多方面へ認知拡大を図っていく。2028年までに“プロバイオティクス企業”として別会社を立ち上げる計画だ。

渡辺氏は今年2月、休暇でインドを訪れ、趣味の瞑想に浸った。「心を落ち着かせて『今・ここ・自分』に集中すれば、周りに流されず、物事を俯瞰していられる。今の自分が未来の自分をつくる」。

〈食品産業新聞 2018年6月4日付より〉