福島・富岡町にベニマル営業再開

東京電力福島第1原発事故に伴う避難指示が、福島県浪江町、飯舘村、川俣町で3月31日に、富岡町で4月1日に解除された。住民の帰還を促すインフラ整備の一環として、国と県の要請で商業施設「さくらモールとみおか」が3月30日、富岡町に開業した。住民に不可欠な生鮮品を扱うsM(食品スーパー)の核店はヨークベニマル(福島県郡山市)。しかし、富岡町の当面の帰還予定者は約500人。同社の大高善興会長は「どうシュミレーションしても採算は合わないが、福島県の企業として地域に役立ちたい」と語るが、ローコスト運営に徹する一方で、店内加工も行い、厳しい状況下で顧客満足と経営の両立に挑戦している。

原発事故以来休業していたヨークベニマル富岡店の建物を町が買い取り、3分割してホームセンターのダイユーエイトが昨年11月に先行開業した。今回ベニマルとドラッグストアのツルハの開業で全館オープンした。ベニマルの売場面積は330坪に縮小し、同社の最小規模店になる。

居住制限区域でもコンビニ各社は先行出店しており、グループのセブン‐イレブンの販売情報を活用し、地域に約2万人いる復興工事従事者にも聞き取り調査を行い、人も売場も限られる店で扱う商品を決めた。

「復興従事者の酒とつまみと冷たい弁当の暮らしがわかった。新鮮な刺身、温かい食べ物の需要が高く、少しでも生活を楽しんでほしい」(同)とし、刺身と寿司、揚げ物は店内でつくる。一方、精肉は薄切りなど日常品に絞り込み、いわき市内の湯本南店でパッケージしたもの運びこむ。弁当はいわき市内の店舗併設のサテライトキッチンから毎日2便できたてを配送する。水産は刺身のフェースを大きく取るが、需要が少ない塩干は絞り込んだ。レジは6台すべてがセルフレジ。今使っている加工場は刺身と惣菜のみだが、将来住民が戻ってきた時、生鮮3品すべてで店内加工を行えるスペースも確保した。従業員は28人。「13人で回せるモデル。各部門に1人は配置できないので、全員がすべてをこなせるようトレーニングした」(同)という。

年商予定は4億円だが、「営業してみないとわからない。土日は地域にほとんど人がいなくなる。1億円ぐらい赤字が出るのではないか」(同)。渡邉利彦店長は、同社とイトーヨーカ堂が中国・北京でsMを展開していた王府井ヨーカ堂赴任の経験がある。「中国で必死に考えてきた人物。他の部門も精鋭を集めた。どうしたら黒字化できるか自分で考えるはず。当社は東日本大震災で170店のうち105店が被災して会社存続の危機に陥った。この時、従業員に自分の店は自分で守るという意識が生まれた。試練の中から学び取る。今回の店舗も成長のためには、いい経験」(同)という。

採算に乗せるには富岡町だけの商圏では難しい。開業セレモニーで高木陽介経済産業副大臣は、「双葉郡の生活を支える中核」と述べた。開店後は昨年6月に避難指示が解除されたが、地域にsMがない川内村の住民も多く訪れた。収益を出すには郡全体からの集客は不可欠。ただ、大高会長は、「自治体ごとにsMを誘致し、地域全体の復興のグランドデザインができていない」と指摘する。楢葉町には役場前駐車場に仮設の「ここなら商店街」があり、13年に地元sM「Vチェーン」が営業再開した。広野町も役場前に商業施設「ひろのてらす」を設け、昨年イオンがsMを出店した。

楢葉町は避難指示解除から1年半経つが、戻ってきた住民は1割に過ぎない。富岡町の帰還予定500人も「ほとんど70代。若い人が戻らない限り、10年後には人がいなくなる」(大高会長)という指摘もある。せっかくスーパーが出店しても、今の状況では共倒れになる可能性もある。