〈新春インタビュー2018〉食品産業センター理事長・村上秀徳氏 輸出と海外進出に重要性

〈パブコメ通し業界側の必要対策など訴求〉
食品産業センターの村上秀徳理事長は、17年の食品業界の大きな出来事として、加工食品の原料原産地表示制度が公布・施行されたこと、HACCP制度の義務化が決まり、年明けの通常国会で成立する見通しとなったこと、国際関係ではTPPがアメリカを除く11カ国で大筋合意、日EUのEPAが大枠合意したことなどを挙げた。そしてこれらについて食品産業センターはパブコメへの意見発表や提言などを通して、業界側の必要な対策などを求めていく。

――食品産業センターの概要について改めてお聞きします

当センターは食品産業のいろいろな分野を横断的にカバーしている団体であり、会員としては業種別団体や大手メーカーに加え、各県の食品産業協議会がある。協議会には地域の中小メーカーなども加入しており、日本の津々浦々まで食品産業の全体をカバーしている。したがって、食品産業の抱える様々な問題について対応し、行政に対しても必要なことをお願いしている。行政と業界の橋渡し役でもある。

――昨今の国際情勢から伺います

TPPについてはアメリカが離脱したが、他の11カ国で発効させようと、協議をしてきた。アメリカが心がわりした際に入れることが前提となっている。その結果、大筋合意に達した。

20項目でオリジナルTPPを凍結し、残り3項目もほぼ決まった。残りの紛争解決手続きが残っている。

アメリカとの関係をどうするかになるが、2国間の経済対話という枠組みが首脳同士で合意した。具体的なことは進んでいないが、10月の対話で日米両国は二国間の貿易事項に関しさらなる進展を達成するための作業を強化することを確認した。

日EUのEPAは7月に大枠合意した。TPPと異なる点は、加工食品に対する影響が大きい。乳製品だけでなく、菓子、パスタなどにも影響が懸念される。政府は7月に国内対策の基本方針でも触れられているが、11月には具体的にパスタ、菓子等の関税撤廃に関して国内措置の整合性確保の観点から小麦のマークアップ(政府管理費や国内産小麦の生産振興対策費など)の撤廃によるパスタ原料価格の引き下げを行うこととした。

これまでも国境措置の整合性に関して食品産業センターは要望書などを提出してきたが、はじめて文書に明記されたことは良かったと思っている。

また、日中韓FTAやRCEPはあまり進んでいない。日本政府としてはTPP11を先に決めたいという気持ちが強いようだ。

――国内の動きでは

農水省で食品産業戦略会議が開かれており、論点整理メモが出ている。付加価値向上、生産性向上、安定供給などについて議論された。食品産業は他産業に比べて生産性が低いとか働き方改革の必要性が指摘された。当センターとしては全体の動きを見ながら対応していく。最終とりまとめは新年になってからのようだ。

農水省は食品の輸出に非常に力を入れている。我々も協力している。17年9月までの輸出額は5.4%増であり、過去3年の2ケタ増に比べて低くなっている。

19年に1兆円という目標に対してはやや足らない状況だ。輸出に占める加工食品の割合は5割以上であり、順調に伸びているようだ。食品産業にとって国内市場の規模は徐々に小さくなっていくので、輸出ならびに海外進出が重要性を増している。当センターとしてはその点を念頭に置いて必要な支援をしていく。

〈中小企業への取り組みが課題〉
――HACCPについては

次期通常国会で法改正を行い、義務化することになっている。特に中小企業にとってはどのように取り組んでいくか大きな課題となる。基準Aと基準Bがあるが、中小企業は基準Bとなるだろう。そこで、各業界団体が手引書を作ることになっており、そのお手伝いを当センターが行う。厚労省が技術検討会を設置しており、こことやり取りをしながら、専門的に助言をしたり確認をしながら公表していく。

基準Aを採用する大手企業はすでに着々と進めているが、基準Bとなる中小企業の定義がはっきりしない。出荷金額で決めるのはむずかしいし、従業員数でも簡単でない。そうなると、各業界団体が手引書を作る段階で一定の線引きをする。業種によって納得できる線引きができれば良いと思っている。

HACCPというのは自主的に衛生管理を行うことが基本であり、中小企業が自分でできるのはこのレベルということをそれぞれの業界団体が示していくようになるのではないか。最終的には各企業が決めることで、無理をしても基準Aを取った方が商売上有利と判断するケースも出てくるだろう。

またHACCPの義務化に伴って食品衛生規則などをいくつか見直していく。そのために食品衛生法改正懇談会が開催されており、当センターから花沢専務が参加している。内容としては、現在の営業許可業種以外の事業者に対する営業届出制度の創設、食品用器具・容器包装に安全性を評価した物質だけを使用可能とする仕組み(ポジティブブイスト制度)の導入、職員の自主回収を行う場合の情報把握の仕組みなどを検討している。

基本的にはあまり規制強化にならないようにしてもらう必要がある。例えばリコール情報の把握では、ある程度の基準を示すなどの運用にしてもらうと、食品ロスの削減にもつながるのではないか。

〈原料原産地表示制度が複雑〉
――機能性食品表示については

制度が始まって1年半が経過したが、たくさんの食品の届け出が行われた。必ずしもすべてが販売されているわけではないが、この制度を活用することは、各社の製品開発において大きな意味を持っている。大事に育てていきたい。

――原料原産地表示が決まりました

9月1日に食品表示基準を改正する内閣府令が公布・施行された。これを受けて、消費者庁は各地で説明会を行っている。農水省でもマニュアルを作って1月から全国10会場でセミナーを開く予定だ。

こうしたことからも分かるように、この制度は複雑で難しい。当センターでは16年11月に中間とりまとめが公表されたことを受け、農相などに要請書を出している。また17年3月の食品表示部会で複数の委員から「製造地表示」「大括り表示」などが消費者の誤認を招くとの意見が出されたことから、当センターは課題の多い制度と指摘し、包材切り替えや原料使用実績の調査など事業者の負担を考え、最低5年間の経過措置期間が必要との意見を表明した。これについては22年3月末まで措置期間となり、実質4年半となった。

この他にもパブリックコメントに提出するなどの活動を行っている。また今後、何か問題点が明らかになれば、政府に意見をしていく。

また遺伝子組み換え食品の表示制度も検討されているが、毎年、表示の規制が改定されることについて、食品産業としては非常にこまったことであり、全体的な考えとして意見を申し上げている。

遺伝子組み換えの表示についてはTPP法案の審議の中で、政府が検討会の設置を約束した。すでに6回の検討会が行われた。意見の方向性としては、表示対象は現状を踏襲することになりそうだ。しかし、消費者団体からは反対意見が出ているようであり、予断を許さない状況だ。

11月の6回目の検討会では「不分別」について検討された。表現が分かりにくいということで見直すべきとの方向性で一致したが、IPハンドリングという区分を残すためにも、「遺伝子組換え不分別」というカテゴリーを残すべきという意見が大勢を占めた。また混入率、いわゆる閾値については現状の5%水準と、「遺伝子組み換えでない」という表現をどうするかという問題が残っている。今後の議論になるが、必要があれば、当センターでも意見を述べていきたい。

遺伝子組換え表示は十数年間実施している制度であり、変えることによる影響は大きい。また一般消費者はあまり気にしていないようだが、業界としては消費者の情報ニーズを提供していくことは必要であり、それとのバランスをしっかり取ることが必要だろう。

ただ、根本的な問題として、遺伝子組み替え食品は科学的に安全だと証明された原料を使っているということ。この科学的合理性と経済的な合理性を踏まえて、消費者ニーズに応えていくことが重要だと思う。

――裁量型課徴金制度については

公取委は裁量型課徴金制度の在り方を検討している。内容は調査に協力の度合いに応じて課徴金の額を増減するもので、公取委にある程度の裁量を与える。欧米やアジアの一部で採用されている。これを我が国でも採用するとすれば、調査のやり方や弁護士の既得権問題などへの対応も必要になるという意見が出ている。

また、流通取引慣行ガイドラインなどについても見直しが行われている。当センターでも取引慣行調査を10年以上行っており、これらを参考にして対応していきたい。

――環境問題では

食品の廃棄ロスの横流し問題やCO2削減などはある程度方向性が明らかになっていた。その中で、容器包装リサイクル法の見直し問題がある。再商品化、特に材料リサイクルについて3R推進小委員会の報告書では、社会的コストを削減するよう競争が働くように述べているが、逆に入札制度が競争を阻害し、コストをアップする結果になっている。そこで、食品産業センターとしては関連39団体と共同で経産省と環境庁に制度の見直しを含めた問題提起の要望書を提出した。内容としては、再商品化コストの透明化と上限価格の引き下げ、材料リサイクルにおける最低価格の撤廃などである。

〈食品産業新聞 2018年1月1日付より〉