信州ハムがハムソー生産管理をiPadとFileMakerを活用したシステムに刷新

信州ハム(宮坂正晴社長)はこのほど、ハム・ソーセージ製造の生産管理を、20年以上前に導入したシステムから、iPad約50台とFileMakerを活用したシステムに刷新、工場の効率化に成功した。新システムでは、生産工場に配備されたiPadから各工程の詳細なデータがリアルタイムで収集される。蓄積されたデータは自動的に集計、分析され生産現場の歩留、原価管理などが把握できる。21日にAppleの100%子会社であるファイルメーカー社がビジネス導入事例として発表したもの。

信州ハムでは、製品の原材料である生肉の入荷・解凍から製造、包装、そして箱詰めして出荷するという全行程のうち、生肉の段階から包装までをFileMakerベースの生産管理システムで管理する。iOSアプリのFileMaker GoをインストールしたiPad Air約50台が工場内に配備されている。FileMaker Goは、Wi-Fiを通じてFileMakerサーバーに接続し、このサーバーは外部事業者のクラウド上で稼働している。工場内では工程ごとにiPadが配置され、作業や計量が済むたびにデータを入力する。データは常にリアルタイムでサーバーに送られ一元管理する。生産管理の事務所では、製造の進捗が工程ごとにひと目でわかるように70インチの巨大モニターで表示している。最新状況の把握や遅れなどのトラブルにもリアルタイムで対応が可能となっている。なお、生肉や水、調味液などを使用するため、iPadは防水ケースに入れられ、各工程の機器のそばに設置されている。

システムの開発は、信州ハム・サービスが行い、2015年5月にロースハム製造のプロトタイプ作成を開始、10月にはiPadを利用するための工場内Wi-Fiの工事を完了し現場テストを始めた。その後、ベーコン製造のプロトタイプの追加を経て、2016年10月にハムとベーコンのシステムが本格稼働、2017年2月にソーセージのシステムも本格稼働となり、新生産管理システムが揃った。また、システムの開発は外部会社への発注ではなく、内製化し生産現場を経験した社員自らが構築し、現場の目線でシステムを構築・修正したのが大きな特徴となっている。

ハムソー生産をはじめ、製造業にとって歩留は、コストや生産計画、製造管理と改善、販売戦略など、多くの局面に関わる重要な数値。信州ハムの以前のシステムで把握できるのは、原材料と完成品から割り出した歩留のみだった。例えば、ハムにする予定だった原材料を別の製品に回したり、仮にどこか特定の工場で歩留に影響を及ぼす事案があっても、それらを厳密には記録しきれていなかった。新生産管理システムでは、必ず全ての工程でデータを記録してから次の工程に進むので、工程ごとの歩留が正確にわかる。しかも、以前には歩留が分かるまで数日から1カ月かかったが、現在はリアルタイムでわかるため、計画が立てやすく、もし問題が発生してもすぐに対処できる。

宮坂社長は、「重要な数値を自分でシステムに入力することで、現場の参加意識やモチベーションが向上したと思う。システムを改善して欲しいという現場からの声に迅速に対応できるのも内製化(プログラミングなどの内製化)の大きなメリット」と話す。さらに、「現在は包装までの管理だが、今後は出荷先の小売店まで追跡できるようにしたいと思っている。より確実に店頭まで追跡できるトレーサビリティを確立して、お客様に安全な食品をお届けしたい」としている。また、包装部門からは資材の在庫管理の要望、営業部門からは出荷先管理の要望が出されているという。さらに商品開発室からは製品レシピを一元管理したいとの声が上がっている。