現地調査報告と団体要請をもとに議論、肉用子牛見直しなど節目の畜産・酪農対策委員会

〈生産者からは補給金制度の適正価格、マルキンに県外輸送費の生産コスト含の声〉
自民党は12月10日午後、畜産・酪農対策委員会(赤澤亮正委員長)を開き、委員長らが7~10日にかけて行った、北海道と南九州の現地調査の概要を報告、また畜産物価格と関連政策決定へ向けた各団体からの要請を聞いた上で議論を行った。

現地視察報告では「畜産クラスターの使い勝手向上」「肉用子牛生産者補給金制度について適正な価格設定」「老朽化した家畜排せつ物処理施設への支援」などの意見が挙がっている。また他の地域では、肉用牛肥育農家において、「県外出荷、県外からの素牛購入の輸送費を牛マルキンの生産コストに含めることができないか」との声も挙がっている。野村哲郎農林部会長は会議の冒頭「牛マルキンでは今年度は単年度予算として9割補てんだが、30日からは法律で担保される。肉用子牛補給金制度も見直す。節目の畜産・酪農対策委員会になる。また牛精液、受精卵の海外持ち出しに対し、法律を作るとの話も出ている。委員会で検討していきたい」とあいさつした。

各団体要請では全国農業協同組合中央会の金原壽英畜産委員長は、繁殖経営などで生産基盤の弱体化が深刻で、中小規模、家族経営が多いため、きめ細かい支援が必要になるとした。TPP発効に伴う肉用子牛生産者補給金制度の見直しにおける、新たな保証基準価格は、価格が低迷した場合でも繁殖農家が十分な所得を確保し、再生産を行える水準の確保を要請した。糞尿処理施設の老朽化が進んでおり、規模拡大の足かせや、離農のきっかけにならないように、新たな支援も要請した。

全国肉牛事業協同組合の山氏徹理事長は、肉用牛生産基盤の弱体化が危惧されており〈1〉肉用子牛保証基準価格等の適切な設定〈2〉農業競争力強化プログラム等の着実な実施〈3〉牛マルキンの財源確保と安定的な運用〈4〉経営継続のための金融面における取組の推進――を要請した。また敷料のオガクズの高騰を指摘。原料不足、価格高騰により全国的に調達が困難なため、中小製材工場で木材の調達が容易にでき、敷料であるオガクズの安定的な価格・流通を要請した。

日本養豚協会の松村昌雄会長代行は〈1〉養豚チェックオフの法制化〈2〉TAGにおいてTPPの合意内容を超えないこと〈3〉アフリカ豚コレラの水際防疫の徹底、豚コレラの感染拡大防止、野生イノシシの感染防止を含めた徹底対策〈4〉TPP発効後に施行される豚マルキン制度に関し、掛け金等の具体的なスキームの提示〈5〉日本独自の高品質な豚肉生産を維持・強化するため、家畜改良増殖目標に即した種豚の育種、改良対策の強化――を要請した。農水省の富田郁稔畜産部長は前回会合で議論された、輸出検査を受けずに中国に持ち出された牛受精卵について、人工授精用精液、受精卵の生産・流通について説明した。

黒毛和種の凍結精液・受精卵の生産・利用状況について17年度は、精液は59カ所で製造され、188万本が販売され、受精卵は200カ所で製造、推計10万3,000個が販売されているとした。家畜の遺伝資源の流出防止の対応としては、団体主導による輸出自粛の取組みを展開し、07年からは精液証明書の裏面に譲渡及び、譲受の欄を設け、流通管理を厳格化していると説明した。

葉梨康弘議員(衆・茨城3区)は「暑熱対策では、乳牛以外で暑さの影響が出ているかどうか。エビデンスの収集が来年への課題になる」と述べた。高橋ひなこ議員(衆・岩手1区)は「岩手県では小規模、家族経営が多い。今は子牛価格が高いが、下がった時を考えて価格を決定してほしい」と述べた。竹部新議員(衆・北海道12区)は「畜産クラスターは申請してから時間がかかる。手続の簡素化を進めてほしい」と話した。上月良祐議員(参・茨城)は「小規模酪農を守ることを念頭に置いてほしい。中小企業は守るものである。使い勝手については、書類も負担にならないようにしてほしい」と話した。

山下雄平議員(参・佐賀)は「畜産飼料について、国産飼料生産増大を長期的視点で考えられないか。一方で輸入飼料の価格が下がった場合、国産メリットが少ないとの声も聞く。予算での対処は難しいので、食品表示で対応できないのか。例えばフランスでは畜産物は飼料の明記を検討していると聞いた。消費者が買う段階で分かれば、高くても売れるのではないか。食品表示における飼料表示・食品表示は消費者庁担当なると思うが、農水省でも考えられないか」と話した。渡辺猛之議員(参・岐阜)は「豚コレラは1、2例目ではずさんな管理も見られる。3例目は万全な体制を取っていたつもりだ。原因究明と、万全な対策を図っていきたい」と話した。

富田畜産部長は、畜産クラスターについて「機械の更新と言わないでほしい。10~20年使用した機械を入れ替えれば、当然生産効率は上がる。機能向上になる。畜産クラスターは構造改革を進めることで、予算を付けている。規模拡大要件は原則論としてつけられている。使い勝手をよくするために、中山間枠など作っている。少しでも使い勝手を良くする努力はしている。現場の意見を聞きながら、何ができるかを考えたい」と説明した。家畜糞尿処理については、法律に伴う大きな変革がないなかで、大きな支援は難しいとした。

牛受精卵については「現在は衛生条件が結んでいないが、過去には米国などと結んでいた。研究用として輸出され、その後商業用として生体、精液が輸出された経緯がある。米国から豪州に渡り、豪州産WAGYUを作ったのが事実関係になる。現在は衛生条件を結んでいる国はなく、今回の持ち出しが氷山の一角がどうかは分からない。厳正に対処し、調査していきたい」と話した。

農水省・消費安全局の小川良介大臣官房審議会は「岐阜県では検査に戸惑ったこともあり、検査方法や農場監視方法などを指導している。野生イノシシ対策も指導している。4例目はイノシシ用猟犬の育成あるいは愛玩用の飼養施設で、その意味では農場での発生は1例目のみになる。1~4例目はいずれも調査区域内であり、危機意識を持って対応している」と述べた。アフリカ豚コレラについては水際対策として、機内アナウンスや、靴底消毒の実施、中国発生省からの便全てで、携行品の探知犬検査を実施していると説明した。

〈畜産日報 2018年12月12日付より〉