値頃感見直されるプリン・ゼリー、カップ入りチルドデザートは1000億円市場を今後も維持か

各社のカップ入りチルドデザート
乳業メーカーなどが製造するカップ入りチルドデザート(プリン、ゼリー)市場の2019年度(2019年4月~2020年3月)は、本紙「食品産業新聞」推計で、ほぼ前年並みの1000億円前後で着地した。

コンビニスイーツや洋生菓子メーカーの手作り風デザートの台頭で、近年縮小傾向だったが、節約志向が強まる中、19年春はプリンの値上げがあり、ゼリーも夏の天候不順の影響を受けたものの、手作り風と比べた時の値頃感で顧客を引きつけ、市場規模を維持した。

足元はコロナウイルスに伴う巣ごもり、家庭内おやつ需要の拡大で3月はプリンの販売が伸び、食品ジャンル問わずストック型の賞味期限の長い商品が見直される中で、賞味期限15~20日間程度の日持ちするプリン類にも、若干の追い風は吹いている。買い置きできるということ以上に、節約志向が今後一段と強まる中で、値頃感があることに商機はあると見られ、もともと持っている価値(コストパフォーマンスの良さ)を磨き、今回の生活の変化、購買行動の変化をチャンスに変えられるか、各社の取り組みに注目だ。

「直近はコロナによる需要増が見られるが、市場の本質としては大きく伸張もしないが後退もせず、1000億円前後の市場を維持すると推測」(メーカー)。乳業メーカーなどのチルドプリン・ゼリーの市場は、モンテールなどのシュークリームや山崎製パンの2個入りケーキなど手作り風デザートや、コンビニエンスストア(CVS)オリジナルスイーツ、アイスクリームなどと競合し、縮小・停滞が続いていたが、2019年度は値上げ、天候不順、増税があったものの売り上げを落とすことなく、市場規模を維持した。市場構成比はプリンが最大。

近年の縮小要因としては、手作り風やオリジナル品の品揃えに力を入れるスーパーやCVSによって、売り場スペースが減ったこと、乳業各社がロングセラー商品へ経営資源を集中し、商品を減らしたことがあるが、これも数年経ち、通常の光景となった。

現状の売り場は、スーパーによっては手作り風デザートの棚と離れ、ヨーグルトの棚の延長線上に置かれて存在感があまり無い状態だったり、手作り風と同じ棚に並んでいてもパッケージによる訴求力が見劣りしていて、買い物客が素通りしていくなど、魅力に欠けた売り場になっている。

その中でもプリンは、新元号を機に昔を懐かしむ風潮が強まり、昭和の喫茶店風の素朴なプリン、硬めのプリンがトレンドとなる中、カテゴリー自体が注目され、乳業メーカーなどのプリンはシンプルで飽きの来ない風味設計と値頃感で、休校中の子供のおやつ需要、テレワーク中の大人のおやつ需要を取り込み、直近は売れ行きが良くなっている。

「プリンは今回をきっかけに、手作りもできる、シンプルで手軽なデザートとして、消費者に再認識されたように感じる。乳業メーカーならではの強みを生かした商品設計、例えば原料調達を活かし、素材感を訴求したものや、製造技術を活かし、層構成や食感を訴求する商品には、需要拡大のチャンスがあるとも考えられる」(メーカー)。

乳原料ではないが原料調達、製造技術を活かし、この春プリンで画期的な試みを行ったのが江崎グリコ。卵・乳を使用せず、豆乳やアーモンドペーストを使った「植物生まれのプッチンプリン」の発売だ。アーモンド原料の調達、製造の知見は、既存の飲料「アーモンド効果」を活用した。「発売前から反響があり、発売後は卵・乳アレルギーの人から『生まれて初めてプリンを食べた』などの声が寄せられ、新しいプリンとして楽しんでもらえているようだ」(江崎グリコ)。

ユーザーがオリジナルの「プッチンプリン」とカニバリ(競合)を起こすことなく、プリン市場に新規ユーザーを呼び込んだことは功績。需要自体はそれほど大きなものではないが、こうした意欲的な挑戦こそが市場を活気づけるには必要であり、近年定着しつつある植物性代替肉を例に見ても、植物性プリンの挑戦は意義深い。

停滞が続く市場といえどもカテゴリー別で見ると、2年前からチーズデザートの規模が一段と大きくなり、2019年度はコーヒーゼリーが伸長するなど、小さな動きはある。既存の商品の価値・問題点を改めて洗い出し、ユーザーの維持・呼び戻し、新規の呼び込みにつながるような、満足感・値頃感の改良や話題作り、ナチュラル志向に応える商品導入などができれば、市場停滞から脱出できそうだ。