【米穀VIEW893】漂流する米政策 Ⅴ 第3次安倍内閣「信任」⑥

毎度お馴染み「ご意見番」の一人である農林水産アナリストの髙木勇樹氏(元・農林水産事務次官、元・農林漁業金融公庫総裁、現・日本プロ農業総合支援機構理事長)に訊くシリーズ。今回は、いわゆる農協改革、食料・農業・農村基本計画など幅広い問題をめぐってインタビューした。

–今月3日、農協法等改正案が閣議決定されました。
髙木 私は以前から、戦後農政の根幹たる「米」というか国が需給をコントロールする食糧管理制度、農地解放の成果を維持する事を目的とした耕作者主義の「農地」制度、農地解放で生まれた600万の弱い農業者の協同組織たる「農業協同組合」制度、この米・農地・農協の3つは、三位一体の関係にあるのであって、根っこは同じ、どれか1つだけいじってもダメなのだということを主張し続けてきた。本来であれば3つ同時が良かったが、ともかくも最後の1つ、農協問題に手をかけ、ようやく三位一体が軌道に乗った、いや、乗りかかった事実は、長年そのような提言・発信をしてきた私からすると、非常に意義深いものと考えている。
中身はまだまだこれからだろうが、3つの問題の根っこがつながっていることが分かる恰好になった、農協問題の〝本質〟に触れたことが大きい。「農業者の協同組織」という農協法の目的、原点を大きく乖離している実態があったのに、今まで議論の対象になることすらなかった。今回それが真正面から議論の対象となったことは非常に意義深い。
乖離しているとは、例えば准組合員が過半を大きく上回りつつある実態だ。食管時代からの米の問題、農地の問題と絡んで、そのような実態が生まれた。稲作農家がどんどん兼業化していき、土地持ち非農家になり、農村地域でも混住化が進んできた。准組合員が増えてくるのは必然だ。ところが過半を超えた准組合員は、義務だけ負わされ権利がほとんどない。農協法が制定された当初は、「農業者の協同組織」だから、准組合員は例外中の例外という扱い。したがって当時はさほど権利を認める必要はないという構図だった。それが今や過半を超えているにもかかわらず、その権利が無視されている実態は明らかにおかしい。今回は利用制限程度の表面的な話にとどまっているが、本質的な問題なのだから、その程度でとどまるはずがなく、今後さらに議論の対象となるのは避けられない。
そのように農協法の原則と実態が乖離している矛盾を正すことを、初めて真正面から論議した。その矛盾をただちに徹底して正そうとすれば、現実に対して大きな混乱を招きかねない。だから一挙には無理という事情もよく分かる。だが本質論なのだから、いずれ解決しなければ、農協問題は終わらない。
ただ冒頭申し上げたように、三位一体の軌道に乗りかかっている点は、私からすると大きな意味があることで、これが1つの時代の区切りのように見えるのは確かだ。個人的には、私が今まで提言・発信し続けてきた通りになった意味でも大きな区切り。だから私自身、そろそろ提言・発信よりも、自ら内省し、自分のこれまでを整理し、その軌跡を次代に残す作業をきちんとやらなければならないという心境になってきた。そうした意味から個人的にも今回のことは1つの大きなエポックメイキングだと考えている。
–次に食料・農業・農村基本計画ですが。
髙木 基本計画は今回が4回目で、私が(事務)次官だった時が1回目、つまり食料・農業・農村基本法を作りあげ、それに基づいて策定した最初の基本計画の時だった。4回目の今回の議論の中身を全て承知しているわけではないが、1回目の時の「真摯な議論」と、非常によく似た議論が展開されていた印象だ。
1回目は、それまでの農業基本法を廃止し、「食料の安定供給の確保」、「多面的機能の発揮」、「農業の持続的発展」、「農村の振興」の4つの基本理念を掲げる新たな基本法を作り、それに基づき基本計画を作る、つまり白地に絵を描くようなものだった。その意味で「真摯な議論」にならざるを得なかったとも言える。例えば食料自給率をめぐっても当時、熱く語られた。

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