【米穀VIEW988】漂流する米政策 Ⅵ 平成30年産に向けて⑱髙木勇樹氏に訊く〈2〉 いずれ政府米にとって変わる飼料用米の備蓄機能

髙木勇樹氏(元・農林水産事務次官、元・農林公庫総裁、現・日本プロ農業総合支援機構理事長)
毎度お馴染み「ご意見番」の一人である農林水産アナリストの髙木勇樹氏(元・農林水産事務次官、元・農林公庫総裁、現・日本プロ農業総合支援機構理事長)に訊くシリーズ。「いわゆる減反廃止」初年度、平成30年産を、産地が多様化するきっかけになればと期待を寄せる一方、課題も指摘する。それは制度的な枠組み、特に飼料用米制度の先行き不透明さだ。2回目はその続きから。

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――すでに官邸や財務省が財政負担の巨大さを指摘していますが。

髙木 それはそうだ。財務省の立場からすれば財政のモノサシがあって、農水省には農水省のモノサシがある。それは当然のことだ。で、どちらが政治的に受け容れられるかと言えば、今のところ農水省的なモノサシのほうが、実現されている高米価のほうが、生産者に対しては説明しやすいので、政治的には支持されていると言える。いや、政治的バックアップがあると言うべきか。

前述した真の意味での飼料用米の定着は、何よりも現場の大規模経営者たちの言わば「現場力」によって実現されていくべきものだと考えている。そうした道筋に至っていくのではないかと。もう少し言えば、「いわゆる減反廃止」初年度である平成30年産を契機に、そうした「現場力」が試される転機に入ったのではないかと思うのだ。少なくとも私自身は「現場力」に期待したいし、それこそが政策の枠組みを変える力に繋がるのではないか。いや、それ以外に変える大きな力はないと言うべきか。

日本の場合、畜産地帯と稲作地帯が距離的に離れているので、今まではなかなか稲作農家が、というか飼料穀物生産農家が、畜産と結びつこうにも飼料メーカーを介してしか難しかったわけだが、今後の道筋のなかには、直接的な結びつきということも出て来るのではないか。畜産側も規模拡大が進んでいることでもあるし。

もう40年以上前になるが、私が畜産(流通飼料)を担当していた頃、「自家配合」がかなり大きな一つのムーブメントになった。この先、飼料用米なり飼料穀物なりが安定的に生産され供給される体制が、コストも含めて実現されれば、畜産農家側にもそうした刺激を与えるはずだ。畜産側にしてみれば差別化という点でメリットがあるし、飼料穀物生産農家側からすれば安定的な需要にあたるのだから。

また他産業で開発された技術、AIやIoTといったものが、農業へ相当なスピードで入っていく。それを受け容れる農業経営者が一つの基盤になりつつあると思う。経営体として一定のレベルに達しつつある。特に畜産はそうだし、あえて稲作農家と言わず穀物生産農家も、そうしたレベルに達するはず。私がおつきあいしているような方々を見ると、可能性が非常に高いと思う。そうしたものを受け容れ、自らのものにし、経営のなかで活かしていく能力を、皆さんお持ちであるということだ。逆にそこのところは、今の制度の枠組みが全く対応できていない部分。振興策をとるにせよ規制をかけるにせよ、それは一定のレベルまで達しないと、政策当局は行動を起こせない。現場の対応は、それほどスピードが早いという証左だ。

――それもあって先ほど現場に期待したいと?

髙木 そう、現場力。期待したいというより、恐らくそうなっていくだろうと考えている。

――先ほどの飼料用米に備蓄機能を持たせるというお話(関連記事)ですが、目の前ではまさしく備蓄機能を備えた政府米が、産地交付金から除かれてしまったがために不人気ですが?

髙木 その考えは、今までの枠組みの話。

飼料用米が定着し、最終的に備蓄機能を持つのであれば、政府米で備蓄しなくとも別に構わないのではないか。政府米だって、何事もなければ最終的にはエサ処理するわけだ。今は最初から飼料用米として作っているが、何かあれば主食へ回すことも可能ではないか。これは、飼料用米という政策が登場した際、私自身が主張していたことでもある。そもそも一つの穀物品目を、主食用と飼料用に分けている国などどこにもない。それは価格差が小さいことが前提になっているが、そこの価格差を埋めるために助成がある。今は大きいが、飼料用米側のコストが下がってくれば、助成水準を下げることも可能だろう。そうなったとき、政府米の備蓄運営コストと同等くらいになれば…。徐々に飼料用米が定着していって、それなりのコストで生産でき、財政負担がさほど大きくなくなれば、政府はそれ(飼料用米に備蓄機能あり)を強調しだすのではないか。

――言ってみれば民間備蓄?

髙木 そう、備蓄なんですよと。交付金の支出根拠は、備蓄であれば、本来国民が負担すべきものですよと説明できる。そうなって来ると思う。それこそが「定着」だと私は思っている。それが達成されるのが5年後なのか10年後なのかは分からないが、もっと早いかもしれない。

別に飼料用、備蓄用に限らず、用途はいくらでもある。岡野さん(聞き手=「米麦日報」編集長)も先日、米麦日報で「『業務用米』って何?」って書いていたけど、確かにその通りで、単に中食・外食が使う米だから便宜上「業務用」と呼んでいるだけであって、別に質の悪い米を使っているわけではない。むしろ有名銘柄を使っているケースのほうが多い。もちろん、そうでない米も使えるわけだが。片や「主食用」というと、「家庭用」と同義語のような扱いを受けているようだが、しかしここが最も需要が縮小している用途だ。そこへ血道をあげて、以前私は「知事のオモチャ」と表現したが、そんな割に合わないことをやっていても仕方ない。もっと真の意味で、稲作(穀物)農家が儲かる道は、まさしく「需要に見合った(用途の)米を生産する」ことにあるのではないか。

だから今回の「いわゆる減反廃止」を契機に、真の意味での「需要に見合った米づくり」ないしは穀物づくりのスタートラインに立ったということではないかと私は思っている。今後も政策的な変遷はあると思うが、「現場力」は、それを乗り越えていくことだろう。今までの10年、20年と、これからの10年はスピードが全く違う。技術進化のスピードも違うし、日本社会の変化のスピードも違う。現実に人口が減少局面に入り始めたこともあるが、減っているだけでなく人口の年齢構成が大きく変わりつつある。そこを乗り越える技術的な革新が登場してきているし、それを使いこなす人たちも出て来ている。

〈米麦日報 2018年6月4日付より〉

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