〈インタビュー〉吉田文吾商店・吉田薫社長 災害による令和元年産大豆の影響は「多様な産地の活用で冷静な対応を」

吉田文吾商店・吉田薫社長
今年8月末から続いた九州北部の広範囲における大雨被害、さらに9月以降の台風被害により、大豆の主要産地に被害が発生した。大豆業界では令和元年産大豆の価格の上昇、仮に2年連続の不足傾向になった場合の需給のひっ迫が懸念されている。東京大豆卸商協同組合の専務理事も務める、吉田文吾商店の吉田薫社長は、産地・品種を限定せず、多様な産地の大豆の調達・活用を進めることが重要だと話す。

――度重なる災害で、収量への影響がどの程度になるか懸念されています

農水省が(JA全農と全集連を合わせた集荷・販売計画を)発表するまで詳細は分からず、あくまで予想の段階だが、九州フクユタカの主要産地の佐賀では、大雨被害が発生し、なかなか水はけできなかったほ場もあったことで、単収の低下を心配する声を聞いた。さらに台風19号により、作付面積の大きい宮城にも被害があった。いずれも、多くの豆腐製造事業者が、豆腐用としてメインで使用している品種の産地だ。

加えて、台風被害だけではなく、そもそも天候不順だったことで、茨城、栃木などでも収量が減少するという話もあり、東日本管内の大豆が、どの程度減ってしまうのか心配している。

(国産大豆の基礎需要が18万tと言われている中で)30年産(今年1月末現在の発表)は16万t台に下方修正された。このため、旧穀30年産を活用しながらコストを抑えていくのにも限界があるのではないか。

しかし、銘柄によって2万円台をつけた、25年産の異常事態を大豆業界の多くの方が経験している。この経験を生かし、12月に控えている令和元年産の初回入札に冷静に対応して頂きたい。

――具体的にどのような対応が望ましいでしょうか。

今年に限ったことではなく、今後も台風19号のような大規模な災害が発生する可能性が否めない中で、さまざまな産地の大豆を使っていく体制を考えていくことが重要ではないか。

当社においては、ミヤギシロメと、山形や新潟、栃木などで栽培されている里のほほえみを使っている豆腐事業者に対し、北海道産大豆のブレンドを提案している。これにより、不足が目に見えている令和元年産の宮城県産を抑えることができる。毎年安定的に供給してくれる北海道産をみんなで上手く使い、何とかこの1年を乗り切りたい。豆腐加工適正で課題がある品種もあるが、国産大豆の品質が平均的に向上していることも追い風だ。令和元年産においては、北海道産に問題はなく、加えて新潟、山形、秋田、青森県産は豊作の見込みだと聞いている。これらの産地・品種に目を向けることで、仮に集荷量が15~16万t台になってしまっても、どうにか回していけるのではないか。不足すれば価格が高騰するのは市場の原理と言えるが、何とか25年産の事態のような高騰を回避できるのでは。

〈産地を限定した表示はリスク、今後の災害発生リスク考えるべき〉
――大豆食品売場では国産使用商品が増え、着実に需要が増しています

豆腐売場では、大豆の産地まで記載した商品もある。差別化のための訴求だと思うが、災害などで該当産地に被害があった場合を考えるとリスクがあるのではないか。

――原料価格が上昇しても、末端の豆腐価格はなかなか値上げできない状況です

業界が淘汰の流れにあり、より価格競争が厳しい状況なのだろう。市場活性化策としては、やはり良い商品をより多く供給してもらい、豆腐の価値を出していくことではないか。

〈大豆油糧日報 2019年11月28日付〉