不二家「ソフトエクレア」と『やさしさに包まれたなら』──半世紀をつなぐ名曲とブランド【シティポップと食品産業】

1971年発売当時の「ソフトエクレア」
1971年発売当時の「ソフトエクレア」

“シティポップ”と呼ばれるジャンルが若い世代や海外の音楽ファンからの支持を集めている。明確な定義はないが、主に1970~80年代に制作された邦楽で、ロックやソウルなど洋楽の影響を強く受け、都会的なムードを醸すポップミュージックの総称として浸透している。演歌とも歌謡曲ともフォークソングとも異なるこれらの楽曲と、食品産業とのかかわりを辿る。

1971年、不二家はキャンディの新製品「ソフトエクレア」を発売した。バニラ、チョコレート、コーヒー味のクリームをキャラメル生地で包んだソフトキャンディで、子供から大人まで多くの人に愛された。そのファンベースづくりに多大な貢献をしたのが、“ユーミン”ことミュージシャンの松任谷由実さん(当時は荒井由実)だった。

「ソフトエクレア」のテレビCMが始まったのは1974年。当時はまだ珍しかったソフトキャンディの魅力を伝えるため、不二家はデビュー2年目の新進ミュージシャンで、当時20歳の大学生、荒井由実さんにCMソングの制作を依頼した。不二家のオーダーは、商品名を連呼する“コマソン”ではなく、ブランドの世界観を伝え、広げてくれるような楽曲だった。

荒井さんは自ら作詞・作曲を手掛けた30秒弱の短い楽曲を制作。「クリームをキャラメルがソフトに包んだ」という「ソフトエクレア」の製品特徴にちなみ、曲のタイトルは「やさしさに包まれたなら」となった。

「やさしさに包まれたならきっと、目に映るすべてのことは君のもの。」

一度聴いたら忘れられない荒井さんの歌声は、同社が一社提供していたラジオ番組「不二家・歌謡ベストテン」(ニッポン放送で1987年まで放送)などでも繰り返し放送された。同年4月20日、「やさしさに包まれたなら」はCM放映と時を同じくしてシングルレコードとして発売。歌詞は少しだけ手直しされ「目に映るすべてのことはメッセージ。」となった。

同年秋に発売された荒井さんの2枚目のアルバム『MISSLIM』にも「やさしさに包まれたなら -Embraced In Softness-」として収録。ユーミンはその後も継続的に「ソフトエクレア」のCMソングを担当。「ほっぺたにプレゼント」(1976~1979年)「まぶしい草野球」(1980年)などを提供し、「ソフトエクレア」の世界観の確立に大きな役割を果たした。

「やさしさに包まれたなら」はその後1989年、スタジオジブリの映画『魔女の宅急便』の挿入歌として採用され、再び脚光を浴びる。スタジオジブリのプロデューサーである鈴木敏夫氏の著書『鈴木敏夫のジブリ汗まみれ2』によれば、もともとスタジオジブリはユーミンに『魔女の宅急便』のためのオリジナルソングを依頼していたが、ユーミンはおよそ一年かかっても曲を完成できず悩んでいた。

鈴木氏は代々木競技場でユーミンのコンサートを鑑賞した翌日、映画の主題歌を決める会議に参加。同氏の記憶では「ルージュの伝言」と「やさしさに包まれたなら」を推したのは、高畑勲氏だったという。

現在の「ソフトエクレア」(2025年時点)
現在の「ソフトエクレア」(2025年時)

「ソフトエクレア」は1996年にいったん終売となったものの、根強いファンからのラブコールに答える形で2010年に復活し、発売から半世紀以上が経過した現在も販売され続けている。甘い香りと柔らかなくちどけのキャンディに触れるたび、ユーミンのあの唯一無二の歌声が蘇る。

【岸田林(きしだ・りん)】