〈シグナル〉水を飲むサッカー

中学時代、サッカー部で「練習中に水を飲むな」と教わった。のどが渇けばコーチの目を盗み、ボールを拾いに行くふりをして給水した。今では信じがたいが、水分を取ることは、どこか弱さのように扱われていた。

その記憶がある世代にとっては、開催中のFIFAワールドカップで試合中にハイドレーションブレイクが設けられている光景は、隔世の感がある。選手が水分を摂り、体を冷やし、息を整える。試合のリズムを変えるとの見方もあるが、酷暑下で選手を守る仕組みは競技運営に欠かせないものになっている。

日本でも、暑さへの向き合い方は変わっている。Jリーグは2023年夏に飲水タイムを暫定運用し、2024年6月からは日本サッカー協会の熱中症対策ガイドラインを適用した。暑さ指数に応じた給水や身体冷却が、試合運営に組み込まれている。

2024年に鹿島アントラーズの小泉文明社長を取材した際、「気候変動を意識しなければ、そもそもスポーツ自体が非常に危ない行為になってしまう」という指摘が印象に残った。

水分補給は、単に「のどを潤す」ためだけのものではなくなっている。暑さから体を守り、汗で失われる水分や電解質を補う。飲料に求められる役割は確実に広がっている。かつて隠れて水を口にしていた時代から、世界最高峰のピッチで堂々と水分を摂る時代へ。サッカーの変化は、飲料の価値が社会の安全や健康とより深く結びついていくシグナルでもある。