日本コカ・コーラ、スタートアップ3社とサステナビリティ分野で共創を加速、茶殻バイオ炭・センサー×AI節水・湿潤バイオマス発電でサプライチェーン課題に挑む

説明会には、田中副社長(左)のほか、スタートアップ企業代表者とサプライチェーン関係者が登壇
説明会には、田中副社長(左)のほか、スタートアップ企業代表者とサプライチェーン関係者が登壇

日本コカ・コーラは11月25日、スタートアップ企業との“共創”によるサステナビリティ領域の最新事例を紹介するメディア向け説明会を実施した。日本コカ・コーラと全国5社のボトリング会社などで構成されるコカ・コーラシステムは、ローカルの視点を大切にしながらサプライチェーンの幅広いパートナーと協働しているが、今回の説明会では、その中でもスタートアップの先進技術を取り入れた3つの取り組みを取り上げた。

同社は従来から水資源保全や容器の循環型設計、温室効果ガスの削減など、サステナビリティ活動を推進してきたが、日本コカ・コーラ社の田中美代子副社長は、「スタートアップの技術と、当社のスケールや検証環境を掛け合わせ、共創で突破していきたい」と語った。スタートアップは高度な技術を持つ一方で、大規模な実証の場や事業として効率的に成長させる手段が限られるケースも多いとした上で、「コカ・コーラシステムは国内外の事業基盤を生かし、その橋渡し役を担えると考えている」と述べた。

◆茶畑のソイルヘルス向上へ、TOWING社の高機能バイオ炭「宙炭」

TOWING社は茶かすの再資源化目指す、茶畑の土壌の健康状態向上へ
TOWING社は茶かすの再資源化目指す、茶畑の土壌の健康状態向上へ

1つ目の事例は、茶畑のソイルヘルス(土壌の健康状態)向上と、茶飲料製造工程で出る茶かすの再資源化を目指す取り組みである。名古屋大学発のアグリテックスタートアップ・TOWING(トーイング)社は、独自の土壌由来微生物群を選別・培養する技術を用いた高機能バイオ炭「宙炭(そらたん)」を開発しており、ソイルヘルス向上による肥料効率の改善や化学肥料削減、農地での炭素固定を通じた温室効果ガス(GHG)削減に取り組んでいる。

2025年2月からは、茶の生産・販売者である佐々木製茶の茶畑に「宙炭」を施用し、有効性を確認する実証実験を開始した。減化学肥料・有機転換の促進、茶葉の生育性向上、および農地での温室効果ガス排出量の削減を目指し、作物の生育ステージや継続投入による影響を評価していく予定。今後は、TOWINGが培ってきた知見も生かし、コカ・コーラボトラーズジャパンの工場から出た茶かすの炭化および宙炭化の検証も計画されている。

TOWING事業開発部執行役CSOの簗田勉氏は、茶園で生産した茶葉から茶飲料の残渣である茶かすを原料とした「宙炭」を茶園に戻すことで、資源循環を実現するとともに、農家の収益性向上につながると説明した。そして、「コカ・コーラシステムとの協業を通じて、茶飲料サプライチェーン全体の資源循環の可能性を確認し、今後は実現に向けた具体化を進めるとともに、茶飲料以外も含めたコカ・コーラへの横展開も展望している」と話した。

◆センサー×AIによる飲料製造設備の洗浄 Laminar社と節水・省エネを両立

Laminar社はセンサーとAIで飲料製造設備の洗浄状態を確認
Laminar社はセンサーとAIで飲料製造設備の洗浄状態を確認

2つ目の事例は、飲料製造設備の洗浄工程での節水である。コカ・コーラシステムでは、製造品種の変更や品質維持のため、製造ラインおよび設備を「クリーン・イン・プレース(CIP)」と呼ばれる方法で定期的かつ徹底的に洗浄している。CIPは大型産業用食洗機のようにタイマー制御で水や洗浄液を循環させる方式だが、製品の特性や条件にかかわらず一律の時間で洗浄を行うため、実際には洗浄が完了していても洗浄が続いてしまうケースがあり、より効率的なシステム構築が課題となっていた。

そこで着目したのが、米国スタートアップ・Laminar(ラミナー)社の技術である。同社の分光センサーは工場の配管に容易に設置でき、流れている液体の固有の化学的性質を瞬時に判別する。配管内部の様子をリアルタイムで確認してCIPサイクルの各工程を監視し、専用AIによる機械学習モデルで解析することで、洗浄のステップや水・洗浄液の使用量を動的に判断し、使用資源の削減と高い衛生状態の維持を両立することが可能となる。

コカ・コーラ カンパニーは、このような技術を製造現場に取り入れることを視野に、2025年9月にフランスの原液工場でパイロット試験を開始し、約10%の節水効果を確認。今後は世界各地の工場への展開を予定している。日本国内でも研究開発センターのテストラインやボトリングパートナーの工場で実証を進めており、原液を製造する守山工場では、2026年に設備導入に向けた準備を行い、2027年に導入および実証実験を予定している。

Laminar社のチーフテクニカルオフィサー兼共同創業者のDavid Lu氏は、「飲料業界は大量の水と熱を使う一方で、衛生・品質に対する要求水準も非常に高い」とした上で、現場のデータをAIで解析することにより要件を満たしながら資源のムダを減らせる点を強調。グローバルに製造拠点を持つコカ・コーラシステムとの協業を通じて、世界の飲料工場への展開も視野に入れている。

◆工場から排出される植物性残渣由来のバイオマス発電、ライノフラックス社の実証実験が始動

ライノフラックス社は植物性残渣由来のバイオマス発電を行う、水分を多く含む湿潤原料でも可能という
ライノフラックス社は植物性残渣由来のバイオマス発電を行う、水分を多く含む湿潤原料でも可能という


3つ目の事例は、工場から排出される植物性残渣を活用したバイオマス発電である。コカ・コーラボトラーズジャパンでは、茶かすやコーヒーかすを肥料や飼料としてリサイクルする取り組みをすでに行っているが、より高付加価値な形で再資源化し、製造プロセスへ還流させることが課題となっていた。

そこで協業するのが、次世代型バイオマス発電技術を開発する京都大学発のエネルギー企業、ライノフラックス社である。同社が持つ「湿式ケミカルルーピング技術」は、従来再利用が難しいとされていた、水分を多く含む湿潤原料由来のバイオマスから効率的に発電できることが強み。飲料製造工程で発生する茶かすやコーヒーかすの処理に適している。また、発電設備はコンパクトな設計のため製造工場敷地内に設置が可能で、残渣の運搬コスト削減にもつながる。

コカ・コーラボトラーズジャパンは2025年から京都工場で、茶かすやコーヒーかす由来のバイオマスからクリーン電力と高純度CO2の回収を目指す実証実験を開始した。ライノフラックス社代表取締役CEOの間澤敦氏は、「飲料工場のように一定の品質とボリュームで植物由来残渣が継続的に発生する現場は技術検証に適している」とし、日本コカ・コーラおよびボトラー各社との協業を通じて、「残渣から電力をつくる」仕組みを国内外の食品工場へ広げていきたい考えを示している。

◆「サステナビリティは共創、革新的な技術を世界へ広げる」

説明会の最後に田中副社長は、「日本には秀逸な技術を持つスタートアップが多いが、社会実装の段階で壁に突き当たることも多い」と述べ、「大規模な実証と長期的なパートナーシップを通じて、その壁を一つひとつ取り除く役割を果たしたい」と話した。

また、「サステナビリティは競争ではなく共創だと考えている。今回の3件に限らず、日本で生まれた革新的な技術をコカ・コーラのネットワークを通じて世界に広げるような取り組みを、今後も各領域で増やしていきたい」と述べ、サプライヤーやパートナーと共にバリューチェーン全体で先進のイノベーションも積極的に活かしながら環境負荷の低減や資源の有効活用に取り組んでいく姿勢を示した。

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昭和26年(1951年)3月1日
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