セブン-イレブン1号店、1974年5月15日開業 日本の食卓と流通を変えた「常識破り」の挑戦【食品産業あの日あの時】

1974年5月、東京・豊洲に「セブン‐イレブン豊洲店」が オープン
1974年5月、東京・豊洲に「セブン‐イレブン豊洲店」が オープン

2026年5月18日、セブン&アイ・ホールディングス名誉顧問の鈴木敏文氏が心不全のため逝去した。93歳だった。

鈴木氏がヨーカ堂(現イトーヨーカ堂)に入社したのは1963年(昭和38年)。東京五輪(1964年)を翌年に控え、開局間もないフジテレビで白黒のアニメーション『鉄腕アトム』の放送が始まった年だ。

「朝日新聞」の報道によれば鈴木氏は当時勤務していた東京出版販売(現・トーハン)でテレビ番組のプロダクションを立ち上げるためのスポンサーを探しており、営業に行ったヨーカ堂から「うちに来てやればいい」と言われたことから転職したという。東京出版販売在籍時は広報誌の制作に携わっており、流通や食の分野は門外漢だった。

ヨーカ堂で新規事業の企画を任された鈴木氏は米国サウスランド社と提携し、1973年11月にヨークセブン(現セブン-イレブン・ジャパン)を設立した。周囲から「アメリカとは違い、日本でコンビニエンスストアはうまくいかない」と反対される中、鈴木氏は「みんなが反対することをやれば必ず成功する。みんなが反対するのは、我々しか思いつかないことだから、チャンスだ」と語り、自らの信念を貫いたという(『セブン-イレブン 50周年記念サイト』)。

1974年5月15日の午前7時、東京都江東区豊洲に、セブン-イレブン1号店となる豊洲店をオープンさせた(『セブン-イレブン 50周年記念サイト』)。1号店オーナーとなった山本憲司氏は、「最初は何が売れるのかもわからなくて、本部と相談しながらこれを売ってみよう、あれを売ってみようと試してみる。お客様の様子を見ながら試行錯誤を繰り返し、商品が売れていく毎日は喜びに満ちていました」と当時を振り返っている(『51年目の結論。今選ぶとしても、やっぱり私はセブン-イレブン』)。

開業当初は名前の通り朝7時から夜11時までの営業だったが、深夜や早朝に働く人の増加といった社会の変化に対応するため、1975年には福島県の虎丸店で24時間営業を開始した(『セブン-イレブン 50周年記念サイト』)。翌1976年11月1日からは「セブン-イレブンいい気分♪ あいててよかった」というキャッチフレーズのテレビCMが放送開始された。このころ100店舗を少し超えた程度だった店舗数は、4年後の1980年には1,000店舗を超えた。

コンビニは急速に日本の社会に浸透し、都市部の若者の食と職の受け皿となった。まだテレビの24時間放送が無い時代、夜遅くに街角に灯る店の明かりに救われた思いをした人も多いだろう。

セブン-イレブンが日本の食文化、そして食品産業に与えた最大の影響の一つが「おにぎり」だ。1978年、同社は食べる直前に自分で海苔を巻く「パリッコフィルム」方式の手巻きおにぎりを考案、発売した。当時おにぎりと言えば、ご飯を握った後に海苔を巻いた「直巻き」がほとんどであった(『セブン-イレブン 50周年記念サイト』)。

セブン&アイ・ホールディングス名誉顧問の鈴木敏文氏
セブン&アイ・ホールディングス名誉顧問 鈴木敏文氏

鈴木氏は後年、「『売れるはずがない』と多くの人から言われたし、反対を押し切って発売してみても、実際に最初の頃は、1日に1店舗当たり2~3個しか売れなかった」と回想している(『デイリー新潮』)。しかし、パリパリの食感は徐々に支持を集め、おにぎりは家庭で「作るもの」から店舗で「買うもの」へと劇的な変化を遂げた。

1983年には、「手巻おにぎり ツナマヨネーズ」を発売。開発担当者の子どもがご飯にマヨネーズをかけていたことから着想を得たという(『セブン-イレブンのイノベーションの歴史』など)。現在では国民食ともいえるこの“邪道”な組み合わせも、トップの「売れるかどうかはお客様が決める」という思想のもとで世に出た大ヒット商品である。

鈴木氏の「常識破り」は商品開発にとどまらず、流通・納品ルールをも変革した。1号店オープン当初、店舗には牛乳、パン、飲料、菓子など各メーカーから1日約70台の納品トラックが来ていた。これに対し、1976年から異なるメーカーの商品を同じトラックに載せる「共同配送」を開始。流通業界の常識を覆す発想と実行力は「門外漢」ならではの強さもあった(『セブン-イレブン 50周年記念サイト』など)。

一方で徹底した効率化や鮮度の追求は、メーカー側に負担を強いる面もあった。チェーン側の力が強まるにつれ、賞味期限の新しい商品よりも古い商品が後に納品される状態を極端に嫌う「鮮度逆転」防止のルールなど、独自の厳しい商慣習が定着した。こうした運用は、過剰な物流負荷やフードロスの遠因ともいわれた。

時代を経て、現在こうした納品ルールの見直しも進んでいる。セブン-イレブン・ジャパンは2026年7月15日納品分から、ソフトドリンクにおける「鮮度逆転」緩和の取り組みを開始する。納品期限内であれば約1カ月の鮮度逆転納品にも対応することで、飲料メーカーの輸送トラックを年間約3000台削減できる見込みだという。

食品業界の商慣習や消費者の固定観念を次々と打ち破りながら、時には自らが作り上げた常識すらも見直して進化を続けるセブン-イレブンの半世紀。その原動力となった鈴木氏の徹底した消費者目線と即断即決の哲学は、これからも私たちの食と生活を支えるインフラの中で生き続けていくはずだ。

【岸田林(きしだ・りん)】