「顧客の問題解決」からイノベーションを/ネスレ日本〈サステナビリティの取り組み〉

新・宅配サービス「MACHI ECO便」を展開
〈生活の質を高め、健康な未来づくりに貢献〉
ネスレは、1866年にスイスヴェヴェーで創業し、現在世界189カ国で製品販売をしている世界最大の食品飲料会社だ。2000以上の製品ブランドを持ち、32万3000人の社員が働く。売上高は約10兆2000億円(17年)にのぼる。

同社は、サステナブル先進企業としても知られ、07年マネジメントリポートでいち早くCSV(CreatingSharedValue=共通価値の創造)を発表。さらに17年発行のCSV報告書では、「生活の質を高め、さらに健康な未来づくりに貢献します」というパーパス(Purpose=存在意義)を公表した。日本でも「ネスカフェ アンバサダー」や新・宅配サービス「MACHI ECO便」の展開などCSVの実践が目立っている。

ネスレのCSVのグローバルと日本での取り組みを、ネスレ日本執行役員の嘉納未來コーポレートアフェアーズ統括部長に聞いた。

ネスレ日本 執行役員コーポレートアフェアーズ統括部長・嘉納未來氏

ネスレ日本 執行役員コーポレートアフェアーズ統括部長・嘉納未來氏

〈CSVは事業戦略〉
――ネスレがCSVに取り組む背景は

 
ネスレの創業者であるアンリ・ネスレは、約150年前に、乳児用乳製品を開発しました。当時のヨーロッパで、栄養不足による乳児の死亡率の高さを何とかしたいという思いから、アンリ・ネスレは母乳に代わる乳児用乳製品を作り、子どもたちの命を救いました。
 
ネスレの代表的なブランドの一つ「ネスカフェ」も社会問題を解決したものでした。1930年代初頭、ブラジルでコーヒー豆が大豊作となり、価格が暴落。それを危惧した農家が大量にコーヒー豆を廃棄していたという問題がありました。ブラジル政府は、ネスレが液体のミルクを粉末にする乾燥技術に優れていたため、コーヒー豆を保存可能な粉末にできないかと相談し、研究を重ねて完成したのが「ネスカフェ」です。この製品開発でブラジルのコーヒー農家を救いました。
 
乳児用乳製品も「ネスカフェ」も、当時の社会的な問題を解決することからスタートしています。ネスレは150年前の創業時から、常に社会的な問題を解決してきたことで、生活の質を高め、健康な未来づくりに貢献してきました。これこそがネスレのパーパスです。
 
CSVは、私たちの存在意義(パーパス)を実現していくための事業戦略です。事業を通じて社会的な問題を解決することが、私たちの使命・責任であり、同時にビジネスチャンスでもあります。事業活動から得られる経済的価値と同時に、社会的な問題も解決することで、社会的価値を生み出すことが重要だと考えます。
 
――どのようにCSVの取り組みを進めていますか
 
ネスレでは事業のポートフォリオに合わせて、社会に影響を及ぼす3つの領域を定義しています。
 
「個人と家族」では、栄養・健康・ウエルネス戦略で人々のより健康で幸せな生活を実現させること、「コミュニティ」では、農業支援や地域開発への貢献、「地球」では、環境・サステナビリティと資源の保護を重視しています。
 
この3つの領域については中長期的な目標に落とし込んでおり、さらに具体的な目標を策定しています。17年には41のコミットメントを設定しました。この目標は、国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」と結び付いています。
 
――具体的な取り組みは
 
「個人や家族」では、「ネスレ製品に含まれる糖類の削減」があります。現在、当社の研究で天然の原料のみを使用し、糖類の化学的構造を変える方法を発見しました。おいしさはそのままに菓子製品に含まれる糖類全体を最大40%まで削減できる可能性があります。
 
「ネスレヘルシーキッズプログラム」は、将来を担う子どもたちに、世界中で栄養の知識と適度な運動の大切さを教えているものです。日本でも11年から開始し、16年末までに延べ9300を超える小学校で、160万人以上の児童が参加しています。
 
「コミュニティ」では、「ネスレカカオプラン」があり、カカオ農家への技術支援や苗木提供により農家の収益性向上への貢献、児童労働の排除への取り組み、持続可能で高品質なカカオの調達などに取り組んでいます。「キットカット」は、100%認証済みの持続可能なカカオから調達した世界初の菓子ブランドです。
 
「地球」では、世界の取水量は30年までに供給量を40%上回ると予測されている中、ネスレでは、効率的な水の利用に取り組んでいます。世界で1ドルの売上高を上げるのに4.5Lの水を使っていましたが、10年間で3分の1の1.5Lに減りました。日本の製造工場では、2010年に対する製品1tあたりの直接取水量の削減率は2017年で55%減少しました。
 
――日本での取り組みは
 
「個人や家族」では、少人数世帯が増え、地域でコミュニティが減少し、職場でコミュニケーションが希薄化しています。この問題を解決するのが職場や地域コミュニティの活性化に貢献する「ネスカフェ アンバサダー」であり、離れて暮らす家族をつなぐ「ネスカフェ ゴールドブレンド バリスタi[アイ]」です。高齢者がいきいきと暮らせるよう神戸市と取り組む「介護予防カフェ」もあります。

話しかけるだけでつながるIoTサービス「ネスカフェコネクト」

話しかけるだけでつながるIoTサービス「ネスカフェコネクト」

また、日本は長寿国でありながら、健康寿命はあまり伸びていません。健康に関心が高い一方で、自分の不足しがちな栄養素がわかっていないのが現状です。
 
この問題へのソリューションが「ネスレ ウエルネスアンバサダー」です。自分に不足しがちな栄養がわかり、「抹茶」や「ミルク」「スムージー」でその栄養を補えるサービスです。

「ネスレ ウエルネスアンバサダー」

「ネスレ ウエルネスアンバサダー」

「コミュニティ」では、数年前から「働き方改革」に取り組んでいます。働く時間と場所を最大限自由化したフレキシブルな働き方と成果で評価する仕組みを導入すると共に、ワークライフバランスを推進し、労働生産性向上を実現しました。
 
「地球」では、二酸化炭素の排出量のさらなる削減に取り組むとともに、物流における人手不足という問題に対し、環境負荷の少ない、鉄道輸送や海運輸送への転換として「モーダルシフト」を推進しています。
 
――CSVの実践で重要なことはなんでしょうか
 
「顧客の問題解決」を第一に考えることが重要です。顧客を取り巻く新しい現実から生まれる顧客の問題は何なのか。まずは自分の身近な顧客を設定し、社会的な変化などを捉え、どんな問題があるかから考えるようにしています。特に顧客が気付いていない問題を発見することが難しいと思います。顧客が気づいていない問題解決がイノベーションにつながります。
 
CSVが組織や社員に根付くためには、トップマネジメントのコミットメントとリーダーシップはもちろん、社員一人ひとりの意識を変えていくことこそが重要だと思います。生活の質を高め、さらに健康な未来づくりに貢献していくというネスレの存在意義(パーパス)を実現していくための最も大きな原動力です。
 
〈食品産業新聞 2018年10月15日付より〉