CSVはパーパス実現への事業戦略、社会課題の解決が競争優位につながる/ネスレ日本〈サステナビリティの取り組み〉

「キットカット」は外袋を紙に変更しプラスチックごみの課題解決を図る(ネスレ日本)
世界190カ国で事業展開する世界最大の食品飲料企業のネスレは、サステナブル先進企業として知られ、2005年に世界に先駆けてCSV(Creating Shared Value=共通価値の創造)の概念を発表。そのコンセプトを、ハーバード大学のマイケル・ポーター教授が広めるなど、世の中に大きな影響を与えた。さらに2016年には、「生活の質を高め、さらに健康な未来づくりに貢献します」というパーパス(Pur-pose=存在意義)を明文化した。ネスレ日本は、少子化や1〜2人世帯が増加する成熟先進国として日本が直面する「新しい現実」に対し、製品やサービスを通じて顧客が抱える問題の解決を目指す。2019年は「キットカット」の外袋を紙に変更、プラスチックごみの課題解決を図る。

ネスレは、創業者のアンリ・ネスレが約150年前に乳児用乳製品を開発した。これは、当時のヨーロッパの栄養不足による乳児死亡率の高さを何とかしたいという思いから、乳児用乳製品を作り、子どもたちの命を救ったもの。社会的な問題を解決することからスタートした企業だ。

CSVはパーパスを実現するための事業戦略であると位置づけ、それは、社会的責任にとどまるものでなく、社会課題を解決することがビジネスチャンスになるため、競争優位につながるとしている。そのCSV実践に向けては、コンプライアンスの基盤、サステナビリティへのコミットメントがあってこそ可能となる。同社はCSVを通じて社会にプラスの影響を及ぼす3つの領域(「個人と家族」「コミュニティ」「地球」)を定義。「キットカット」を通じ、同社のCSVの活動を紹介する。

まず、「個人と家族」の領域では、「キットカット」が大切な人に、応援や感謝の気持ちを伝えるコミュニケーションツールになっていることが価値となっている。九州の方言「きっと勝っとぉ」に商品名が似ていることから話題になったことがきっかけで、2003年以降、受験生応援キャンペーンを開始。“頑張る人を応援する”ブランドとして対象が広がり、スポーツや仕事、被災地の支援にまで幅広く活用され、「キットカット」の価値観は根付いている。

「コミュニティ」では、カカオ農家の生活向上と品質向上を目指した「ネスレ カカオプラン」がある。これは、世界の人口が増え、チョコレートを楽しむ人も増える中、原材料であるカカオの木の高齢化や栽培知識の乏しい農家で高収穫が見込めないことが課題となり、品質の良いカカオが不足するおそれが背景にある。

〈「キットカット」でもCSV推進〉
ネスレは、おいしいチョコレートを提供し続けるために「ネスレ カカオプラン」として、農業従事者と彼らのコミュニティの生活向上を目指し、“より良い農業”“より良い生活”“より良いカカオ”の3つを柱に活動している。品質の高いカカオを買い続け、カカオ農家を社会的にも経済的にも豊かにするねらいだ。“より良い農業”では、カカオ農家に、病気に強く、良質なカカオがたくさん実る苗木を18年までに1,400万本以上を提供、そして効率的な栽培方法の勉強会などを実施。さらに、生活支援として、水環境や道路環境の整備、学校の建設や改修をサポートし、生活向上を助けている。児童労働の問題解決や女性の権利向上にもつながる活動だ。カカオ農家が社会的・経済的に豊かになり、持続可能な品質の高いカカオを生産することで、それを直接購入し、ネスレはおいしいチョコレートを生活者に提供する考え。

「ネスレ カカオプラン」はカカオ農家を社会的にも経済的にも豊かにするねらい

「ネスレ カカオプラン」はカカオ農家を社会的にも経済的にも豊かにするねらい

 
「地球」では、プラスチックごみの課題解決に向けて、「キットカット」の外袋を紙パッケージにした。これは、主力の大袋タイプ5品の外袋をプラスチックから紙パッケージに9月下旬から変更したもの。年間約380トンのプラスチック削減を見込んでいる。2022年までにすべてのキットカット製品のパッケージを100%リサイクル可能、またはリユース可能にすることを目指す。
 
そして、この紙パッケージを消費者にとっての価値として、日本伝統の想いや願いを伝える象徴の“折り鶴”を作って、大切な人に想いを伝えるというコミュニケーションを展開していることも特徴。受験生応援キャンペーンなど、「キットカット」ブランドに情緒的な価値があるからこそできる取り組みであり、消費者にプラスチックごみ問題を知ってもらい、考えるきっかけにしてもらうねらいだ。
 
「キットカット」を通じて、頑張る人を応援する、カカオ農家の生活向上、地球のプラスチックごみ問題の解決を通じ、CSVを推進してパーパスの実現を目指す。