日本で最も飲まれているコーヒー「ネスカフェ」、イノベーションでサステナブルな成長

イノベーションにより生活者の課題を解決(画像は「ネスカフェ」ブランドなど、ネスレ日本の製品)
「ネスカフェ」は、日本で最も飲まれているコーヒーである。杯数ベースでは、約4杯に1杯になる計算だ。1913年に日本で活動をスタートしたネスレ日本の看板商品であると同時に、日本のコーヒー文化に大きな影響を与え続けてきた。「ネスカフェ」が、日本をはじめ、世界中で愛されるロングセラーブランドになったのは、おいしさだけでなくサステナブル(持続可能)なコーヒーを目指しているためだ。特に日本では、伝統や歴史に甘んじることなく、イノベーションにより生活者の課題を解決する活動に取り組んでいる。

世界最大の食品・飲料企業であるネスレは、2006年のマネジメントリポートで、世界で初めてCSV(Creating Shared Value=共通価値の創造)を打ち出し、さらに2016年のCSV報告書において、「生活の質を高め、さらに健康な未来づくりに貢献します」というパーパス(Purpose=存在意義)を公表し、サステナブルの先進企業として、世界中から注目を集めている。

もともと、ネスレの創業者であるアンリ・ネスレは、約150年前に乳児用乳製品を開発。当時のヨーロッパで栄養不足による乳児の死亡率の高さを何とかしたいという思いから、母乳に代わる乳児用乳製品を作り子どもたちの命を救った。

1938年誕生の「ネスカフェ」も社会問題の解決を図る中で開発された。1930年代初頭、ブラジルでコーヒー豆が大豊作となり、価格が暴落。それを危惧した農家が大量にコーヒー豆を廃棄していた。ブラジル政府は、ネスレが液体のミルクを粉末にする乾燥技術に優れていたため、コーヒー豆を保存可能な粉末にできないかと相談し、研究を重ねて完成したのが「ネスカフェ」だ。これによりブラジルのコーヒー農家を救ったという。

ネスレは約150年前の創業時から、社会的な問題を解決することにより生活の質を高め、健康な未来づくりに貢献してきた。これがネスレのパーパスである。

そして、サステナブルな成長に向けて、3つの領域を定めて中長期的な目標に落とし込み、具体的な活動につなげている。

「個人と家族」の領域では、栄養・健康・ウエルネス戦略で人々のより健康で幸せな生活を実現させること、「コミュニティ」では、農業支援や地域開発への貢献、「地球」は、環境・サステナビリティと資源保護を重視している。2017年には41のコミットメントを設定した。これらの目標は、ネスレの2020年コミットメントの達成と、国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」の達成支援に向けた取り組みの指針になっている。今回は、世界から注目されている日本における「ネスカフェ」のCSVの取り組みを紹介する。

【個人と家族】
コーヒーは、単にカフェインが入った飲料ではない。味、香り、温度帯、抽出方法、アレンジレシピなど、さまざまな種類や飲み方が楽しめるため、世界で2番目に取引量の多い一次産品となっている。また、コーヒーは、リラックスしたり、目を覚ましたりできるほか、その魅力から人がつながり、人々が集う飲み物でもある。そのようなコーヒーの力を使って「ネスカフェ」で社会の課題に応えている。

「ネスカフェ アンバサダー」で人がつながる

「ネスカフェ アンバサダー」で人がつながる

 
〈オフィスで人と人をつなぐ〉
「ネスカフェ アンバサダー」プログラムは、職場の同僚の間につながりを生む取り組みである。現在では46万件(2019年10月時点)まで拡大している。これは、無料でコーヒーマシンを提供し、定期的にコーヒーの専用カートリッジを届けるサービスだ。
 
「ネスカフェ アンバサダー」プログラムでは、それぞれの職場にいる1人が代表でアンバサダー(大使)になり、コーヒーマシンの世話係とコーヒーの定期購入、代金回収を行っている。導入した職場では、おいしいコーヒーを手軽な価格で飲めるだけでなく、社員同士の会話の量が増えたと好評だ。プログラムは職場以外にも広がっており、あらゆる場所でコミュニティとしての一体感を、コーヒー1杯から生み出す活動となっている。
 
〈離れた場所でも“つながる”〉
2016年に発売された「ネスカフェ ゴールドブレンド バリスタi[アイ]」以降に発売されたマシンは、専用アプリにより、離れて暮らす家族をつなぐ機能が付加されている。
 
たとえば、地方に住む母親がコーヒーを淹れると、コーヒーマシンがインターネットでつながっているため、コーヒーを抽出したという知らせが子どもに届くもの。コーヒーを飲んでいることがわかると、母親の無事が確認でき、会話のきっかけにもなる。「ネスカフェ」が家族のつながりを生んでおり、利用者からは、孤独感を和らげるものとしても役に立つと好評だ。歴史の長いブランドでも、商品とサービスを組み合わせることにより、現代でも人々の生活に寄り添うものになるという好例だろう。
 
世界中で変革が次々と起こる中、生活者の期待度もどんどん進化している。受け継がれた伝統だけでは、破壊的な変革の中から生まれているニーズには対応できない。このような生活者の課題を解決するという考えをもとにブランドを育てることが、将来にわたりサステナブルなブランドであり続ける条件といえそうだ。
 

コーヒーで睡眠をサポート「ネスカフェ 睡眠カフェ」

コーヒーで睡眠をサポート「ネスカフェ 睡眠カフェ」

 
今年3月に「ネスカフェ 睡眠カフェ」が東京・大井町にオープンした。コーヒーの飲み分けを通じて新しい睡眠スタイルを提案する体験型カフェである。
 
日本人の睡眠不足や睡眠負債などの社会課題に同社が着目し、2017年から期間限定の店舗を出店したところ好評を得たため、常時営業に踏み切った。ビジネスパーソンや観光客、地域の人々が、日中に理想的な仮眠や良質な夜の睡眠を疑似体験できる場となり、多くの人が利用している。
 
コースは、「ナップコース」と「睡眠コース」があり、「ナップコース」では、仮眠前にカフェインを含む「ネスカフェ」のコーヒーが1杯提供され、レザーリクライニングチェアで仮眠ができる。目覚めた後のパフォーマンス維持のため、あえて入眠前にカフェインを含むコーヒーを飲んでから寝る手法の「コーヒーナップ」を体験できる。「睡眠コース」では、カフェインをほとんど含まないカフェインレスコーヒーが提供され、眠りの質を保てる。起床時は、カフェインを含むコーヒーで寝起きの体をリフレッシュできるという提案だ。
 
【コミュニティ】
「ネスカフェ」は、生産者の課題解決も取り組んでいる。2018年に、「ネスカフェ プラン」は17カ国で展開されており、2010年以来、1億8000万本以上のコーヒーの苗木を配り、サステナブルなコーヒー生産に投資を行っている。おいしいコーヒーの需要は世界中で伸びているが、気候変動で栽培できる耕作適地が減っていることもあり、需要に応える生産量の確保は簡単ではなくなってきている。「ネスカフェ」は、このような問題に対処し、高品質のコーヒーを将来にわたり継続的に届けるための活動に取り組んでいる。日本では、産官学連携で「メイド・イン・オキナワ」コーヒーを栽培する取り組みを推進している。
 

沖縄コーヒープロジェクト

沖縄コーヒープロジェクト

 
沖縄を拠点としたスポーツクラブの沖縄SVとネスレ日本は、沖縄県名護市、琉球大学と連携し、沖縄初となる大規模な国産コーヒーの栽培を目指す「沖縄コーヒープロジェクト」を2019年4月に立ち上げた。
 
同プロジェクトは、サッカー元日本代表の高原直泰氏が代表を務める沖縄SVが中心となり、国産コーヒー豆の栽培を本格的に行うもの。名護市が耕作放棄地を紹介し、ネスレ日本がコーヒー栽培のサポートを行い、琉球大学が土壌や気候影響などの助言を行う、産官学の支援体制で推進する活動だ。同プロジェクトを通じ、県内の一次産業における担い手の高齢化や後継者不足などの課題解決を目指すとともに、ネスレ日本では、ゆくゆくは安定的な生産量の確保やプレミアムコーヒーの発売につなげたい考えである。
 
同年4月には名護市の沖縄SVコーヒーファームで、コーヒーの苗木約240本が約3000平方メートルの畑に植えられた。2020年4月までに最大1万本の苗木の移植を追加で予定しており、その際の収穫されるコーヒー豆は約7,000kg(約40万杯)になる予定。2019年4月に植えた苗木が順調に生育すれば2022年には約200kgのコーヒー豆(約1万杯)を収穫できる。
 
全国に流通する規模にはまだ時間がかかるが、コーヒーの需要が世界的に高まる中、沖縄県産のコーヒーは特産品になる可能性を秘めている。沖縄のコーヒー農園での収穫体験や農園で収穫されたコーヒーを現地で提供する観光農園としての取り組みなども含め、様々な可能性を検討中だ。
 
未来の特産品候補として、「メイド・イン・オキナワ」コーヒーへの注目は高まりそうだ。
 
【地球】
グローバルのネスレは2018年4月に、商品の包装材料を2025年までに100%リサイクル可能、あるいはリユース可能にする―と発表している。ネスレ日本は、2019年秋から「キットカット」大袋製品の外袋を紙化にすることで注目を集めたが、「ネスカフェ」の環境への取り組みも着実に進行している。日本では、2023年までに100%リサイクル可能、あるいはリユース可能にするという高い目標を掲げている。
 

環境に配慮した「紙」の詰め替え容器(左=バリスタ、右=缶)

環境に配慮した「紙」の詰め替え容器(左=バリスタ、右=瓶)

 
〈23年までに100%リサイクル〉
「ネスカフェ」の容器は、昔はガラス瓶のジャーが中心だった。だが、このガラス瓶をごみとして処分するのが、分別回収の手間も含め顧客の課題だった。そこで2008年に導入したのが「ネスカフェ チャージ」であり、現在の「ネスカフェ エコ&システムパック」の前身にあたる。
 
“燃えるごみ”として廃棄できることを念頭に、紙容器を中心とした筒状のパッケージで、ジャーに移し替えて、空のガラス瓶を再利用できる提案だ。ガラス瓶の廃棄に対して日本の生活者が抱えていた問題の解決を、企業の戦略として取り組んだものである。ただ、導入時は、まだ接続部などにプラスチックも使用していた。その当時はプラスチックを“燃えるごみ”としてとらえていた地域も多かったためである。
 
だが、プラスチックを“燃えないゴミ”とする自治体も広がる中で、同社はプラスチック部分を徐々に減らしていき、2012年には漏斗部分まで紙製にすることを実現した。
 

ネスカフェ エコ&システムパック 改良の歴史

ネスカフェ エコ&システムパック 改良の歴史

 
2009年に登場した「ネスカフェ ゴールドブレンド バリスタ」のカートリッジにも使用できる「ネスカフェ エコ&システムパック」へ名前を変えた。現在では、「ネスカフェ レギュラーソリュブルコーヒー」の販売量の約3割をこの容器が占めるという。
 
また、環境配慮への取り組みでは、オフィスで展開する「ネスカフェ アンバサダー」においても、現在のユーザーの主流は、マグカップの使用で、脱プラスチックをオフィスの中でも実現している。
 
さらに、同社の展開する「ネスカフェ 原宿」や「ネスカフェ サテライト」でのテイクアウトや「カフェ・イン・ショップ」「ネスカフェ スタンド」など家庭外でのドリンク提供においては、カップ、蓋、ストロー、マドラーは全て紙製に切り替えているという(コールドのフタのみPET素材を使用)。
 
同社は、国内製造の「ネスカフェ」製品のコミットメントとして、2023年までに100%リサイクル可能、あるいはリユース可能にするーと2019年8月に発表している。
 
ネスレの決意は、商品パッケージの「グッドフード、グッドライフ」に表れている。その約束を果たすことで、常に生活者に寄り添うサステナブルなブランドであり続け、おいしく、健康的に食べてもらい、コミュニティや社会に貢献するとともに、競争力のあるリターンを株主に提供し続ける。このアプローチは、150年にわたり成功しており、今後のサステナブルな成長のカギにもなるだろう。
 
〈食品産業新聞 2019年12月9日付より〉