「キリン 世界のKitchenから」が今夏は「ソルティライチ」に集中する理由

キリンビバレッジ「ソルティライチ」
2020年に発売10年目となる「キリン 世界のKitchenから ソルティライチ」は、飲用者からの味覚評価が高く、“おいしい熱中症対策飲料”として知られ、2019年は過去最高出荷を達成した。熱中症対策商品として確固たるポジションを築いているが、キリンビバレッジの担当者は、「大切な家族を想う気持ちから生まれたブランドで、真夏以外にも飲用意向が高いことが特徴です」とし、単に夏の水分補給のための飲料ではないことを強調する。

そもそも、「世界のKitchenから」ブランドは、世界中の家庭をキリンの担当者が取材し、出会った素材や調理法、掛け合わせなど自家製の知恵をヒントに、自由な発想でおいしさを創り出し、届けることをモットーとしている。そのため、熱中症対策だけにこだわるブランドではない。

ただ、同ブランドが今春から「ソルティライチ」以外の商品を販売しなくなったことがWEBニュースなどで話題になった。その背景には、コロナ禍で新商品の発売を見送る業界全体の傾向もあるだろう。しかし、それ以上に「世界のKitchenから」ブランドのストーリーを体現するような「ソルティライチ」に集中投資することで、ブランド力そのものを高めるねらいがあるとみられる。また、夏以外の飲用意向が高まっていることも追い風だ。

スポーツドリンクは、2010年に過去最高の生産量183万3900klを記録した後は、やや市場が停滞しており、2019年は142万2400klとなり、2010年比で約22%減少した。しかし、熱中症対策への関心の高まりから水分補給ニーズが上昇し、2018年実績は前年を5.5%上回っている(全国清涼飲料連合会調べ)。現在では、各社が熱中症対策飲料の新商品や既存品のスペック変更を行うなど、競争が激化するカテゴリーだ。

そのような競争の中で、「キリン 世界のKitchenから ソルティライチ」(500mlPET/1.5LPET/300gパウチ)は4月28日にリニューアルを行った。中味は、果汁バランスを変更してライチ感を高めている。だが、今年最も注力しているポイントは、パッケージや広告展開を通じ、大切な家族への想いを込めた、ブランドとしてのストーリーを伝えることだという。パッケージ正面に、タイのキッチンの写真と開発ストーリーを配したことが、その意気込みを物語っている。

「ソルティライチ」は、暑い国のタイの家庭で出会った、フルーツを塩に漬け込むという果物で涼を取る知恵を活かした冷製スイーツ「ローイゲーオ」をヒントに誕生したドリンクである。キリンは商品化にあたり、旬の手摘みライチのやさしい甘みと香りを、平釜製法の沖縄海塩で引き出して作り上げた。

そのような誕生の背景から、“家族への想い”を強化することと、真夏だけでない商品にいっそう進化させることを目指している。キリンビバレッジ社マーケティング部の橘美佳さんは、「“おいしい熱中症対策”のポジションはそのままに、家族への想いから生まれたストーリーをお伝えしていく。それにより、他とは一線を画す商品としてお客様に共感していただき、長い季節買っていただける商品を目指したい」と話した。

また、希釈タイプの「ソルティライチベース」(500mlPET)は、市場が拡大している濃縮飲料市場の商品で、コロナ禍でも売り上げを伸ばしている。容器は店頭でしっかり認知されるように、紙からペットボトルへ変更した。手軽に作れることに加え、炭酸や牛乳などいろいろなアレンジができることも魅力だ。橘さんは、「個人的な好みでは豆乳と合わせるのがおすすめです」とする。

「世界のKitchenから」ブランドの存在意義(ブランドパーパス)は、「やさしさに満ちた世界中の台所から知恵と工夫を伝承し、おいしさの可能性を広げる」ことだという。“真夏の水分補給”の枠を超え、商品を手にした時に、海外や日本の“家族のやさしさ”を感じられるようなブランドになることができるか。「ソルティライチ」の果たす役割が大きくなりそうだ。