日本アクセス「“ニューノーマル”に3方針で対応、AG研も強みに」/古澤慎介部長インタビュー

日本アクセス 古澤慎介業務用・デリカMD部長
――コロナ禍以降のデリカ市場の変化

コロナ禍によるさまざまな変化はまったく初めてのことで、当初はどう対応すれば良いかなかなか分からなかった。そのため、デリカ部門で4~5月は当社も前年割れとなったが、得意先に行けず、テレワークが実施される中でどういうやり方が良いか考えながら取り組み、6月以降は前年を上回っている。地域別では関東・近畿の大都市圏は前年並だが、他の地域は好調に推移している。その結果、4月~8月までで前年比2%増と前年をクリアしている。

SM(食品スーパー)デリカ市場を見ると、自治体が3密解消のため買い物を3日に1回程度に控えるよう要請したことなどもあり、買い物行動がまとめ買いに変化した。スーパーでも、客数減・客単価増の流れになっている。

デリカの場合、日持ちをせずまとめ買いに適さないため、来店頻度の減少がマイナス要因となっている。巣ごもりで家庭内調理が増えたことの影響もあるだろう。また、8月のお盆は帰省が少なくなったことで、地方では若干苦戦気味だった。

足元では、年末に向けて販促をどうするか計画しているところだが、9月のシルバーウィークでは予想以上に出かける人が多く、デリカの実績も良かった。Withコロナの中で感染状況を見ながらではあるが、計画を見直す必要もあるかもしれない。

――現在のデリカ部門の重点方針・施策

デリカ売場では感染症予防対策の中でバラ販売中心からパック入り・袋入り中心に変化しており、ニューノーマルへの対応が必要となっている。

方針としては、
〈1〉時代が求める新領域の開拓
〈2〉エリアが求める企画開発機能
〈3〉お客様が求めるイチオシ商品開発
――の3つのテーマを掲げている。

〈1〉では、コロナ禍の中で注目される健康ニーズの開拓を進めている。具体的にはたとえば、以前から取り組んでいるものであるが、スーパー大麦(バーリーマックス)による腸活、特に腸内細菌を育てる「育菌」という特徴にスポットを当てた提案を行っている。

中でも、バーリーマックスおにぎりはCVS(コンビニエンスストア)での累計販売数が1億個を突破した売れ筋となっている。同様のバーリーマックスの提案は有力スーパーのおにぎり、弁当などでも採用されている。

〈2〉では、デリカ売場を活性化するため、企画力・調達力を重視し、行事・催事を当社自身で作ろうという取り組みを進めている。

たとえば、日本唐揚協会様との取組みで、同協会が実施してきた「からあげグランプリ」において、2019年の第10回目から「スーパー惣菜部門」を東日本・中日本・西日本のエリア別で新設。全国200社近い応募から、各エリアで最高金賞1社・金賞8社を選出した。

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これをスーパー各社で販促に役立ててもらおうという取り組みで、2020年はテレビ局が入ったこともあり発信力が大きく、チェーンによっては前年比170%に伸長したところもあり、大変助かっているというお声も頂いている。

ほか、鶏が干支の10番目であることから、10月を「から揚げ強化月間」として、販促活動を行っている。実は、10月は祝日がなく販促がしづらい月であることから、盛り上げていこうという意図もある。

また、日本コナモン協会様との取り組みで、5月7日の「コナモンの日」に合わせてお好み焼き・たこ焼きの販促をしたり、7月の半夏生に合わせてタコを売ろうとたこ焼きの販促をしたり、8月の夏休みに合わせて「焼そば強化月間」として販促を行ったりと、当社の商品に限らず、全国でコナモンを盛り上げようという活動もしている。

〈3〉では、秋に向けてスイートポテトの提案を強化している。焼き芋は女性に好まれ、スーパーの青果売場では通年で売っているところで、角度を変えてこれも女性に好まれるスイーツとしてスイートポテトを取り上げている。これを日本全国、北海道から九州まで一斉に販売し、流行・ヒットを意識的に作ろうという取り組みを実施している。

――御社デリカ部門の強みや特徴は

最大の特徴は、アクセス業務用市場開発研究会(AG研)の取り組みではないか。2021年に10年目を迎えるAG研には現在、業務用メーカー様168社が参加しており、8つの分科会、全国7エリアでエリア分科会と15の分科会を立ち上げ、実売に繋がるよう底上げを図ろうとしている。

〈SMデリカで1,000億円目標、「中食」に横串をさす組織も検討〉
また、前述のようにスーパー店頭では買い物の頻度が減っており、デリカではメーカーの売上も減少傾向にある。そこでAG研の取り組みメーカーで新しいキャンペーンを組むなど、売上を上げる工夫をしている。さらに商品開発を一緒にする中で、当社先行販売の商品を作ってもらったりもしている。

AG研では、実売で10億円という目標を掲げており、2021年1月に展示会を開催する前提で動き始めている。継続は力なりということで、9年間続けてきた初午いなり、分科会のメニュー開発を引き続き実施していく。次の初午いなりは、アレンジいなりをテーマに開発を進める。

――市場の変化への対応は

当社オリジナルの水産フライ(イカフライ、アジフライ等)は、実は当社デリカ部門でも最も売っている商品だが、バラ売りができない中でパック売りに移行している。ただ、そのままパックに入れても芸がなく、見栄えも良くないので、パック売り向けにこれら水産フライを使ったかんたんアレンジメニューを開発・提案している。

また、デリカ売場は“2こぶラクダ”と言うように、12時・17時のピークに向けて11時・16時に売場を完成させるのが一般的だったが、コロナ禍で密を避ける買物行動の中で、ピークを避ける傾向もあって来店時間が分散するようになっている。たとえば開店直後の9時の売場で機会ロスをなくそうという中で、いち早く比較的手間がかからない丼メニューの強化提案を行ったことが実績の回復にも繋がった。

――コロナ禍の中での商談等

商談が対面でできず、オンラインで実施するようになかったが、デリカの場合は加工食品と違い調理が必要で、サンプルを送るだけでは済まない。ある営業マンの成功事例から、朝に調理をして得意先に持参して受付に預け、ご担当者が受け取った時点でオンライン商談をするという方法を全社的に共有して実施した。

これに限らず、売れ筋商品などの成功事例の横展開は、以前からスピーディに行っており、スーパー店頭で恵方巻、お盆、クリスマス等の催事メニューがどうなっているか、価格がどうかといった情報も、即座に調査し当日中には得意先バイヤー様に発信できる体制になっている。我々は製造小売業を標榜しており、五感に訴える部分などはマーケティングだけではうまくできない部分もある。そういう意味では、情報発信にはかなり力を入れている。

また、今年は総合展示会「フードコンベンション」が中止となったが、代替としてWeb上でのWebフードコンベンションを西日本エリアから実施している。リアル展示会と異なり、香り・味が分からないという欠点はあるが、日本アクセスの社としての惣菜事業をアピールし、その分、それで伝わらない部分はエリアごとのセールスに努力してもらっている。

――中長期的な目標・方向性

定量的には、SMデリカの売上高が現在850億円ほどのところ、1,000億円という目標を掲げている。その根拠は、惣菜総市場10兆円のうち、SM・GMS(総合スーパー)の惣菜市場が2兆2,000億円ほどとされるが、その仕入れ値1兆円のうち10%を当社でやらせていただくという計算だ。

とはいえ、デリカは帳合を取ればよいというものではなく、得意先と一緒になって商品を作り、育てていかねばならない。そういう意味で、150億円増は容易ではない。

また「中食」を取り巻く環境は大きく変化している。我々はSMデリカを中心に取り組んできたが、たとえば外食営業部門の中で注目されているテイクアウト、CVSのカウンター周り、弁当・おにぎり・サンドイッチも「中食」だ。これらを含めた「中食」に横串を刺せる組織体制を検討している。

――現在の課題

コロナ禍の中で新たな業務も発生しており、一番の課題は人材確保だろう。人材教育は重視しており、当社は惣菜管理士の企業別有資格者数が全体でも3位と、卸の中では非常に多くなっている。とはいえ、座学だけではなく実践も伴わねばならないが、現状難しい面もある。

以前は新入社員を1カ月間、得意先の惣菜部門にご協力をいただき、現場での仕事を経験させていた。自分が作ったものをお客様が手にとって買っていただくという経験はとても重要で、それにより商品に対するさまざまな意識が芽生える。現在はテストキッチンで調理を教えているが、現場での研修は難しくなっている。これも人材育成面での課題だろう。

〈冷食日報2020年10月29日付〉