日本水産「技術を活かし得意先の課題解決に繋がる商品を投入」/金澤建支業務用食品部長インタビュー

日本水産・金澤建支業務用食品部長
――2021年度の業務用食品事業の振り返り

当社単体(国内)で、業務用調理冷食が前年比19.6%増439億円、約半数が業務用の農産冷食が6.2%増98億円と伸長した。調理冷食の伸びが大きいのは昨年7月、子会社だったデルマール社を吸収合併したことが押し上げたが、それを除いても2ケタ近い伸びとなった。業界共通だと思うが売上は外食ルートで苦戦が続く一方で、中食惣菜・宅配ルートで伸長した。一方、収益面では原料コストや原油価格の高騰に加え、フレート・物流費の上昇に為替の円安が輪をかけて大変苦戦した。

カテゴリー別では、多くのものが前年を上回ったが、特に主力の水産揚げ物、国産中華、鶏加工品が好調で、母数は少ないが米飯も良かった。農産品では主力の枝豆が不調だったが、それ以外のものは伸長した。一方、スナックはコロナ禍でイベントが減ったことと、生産子会社・北九州ニッスイで昨年7月に火災があり、大学いもが作れなかったことでマイナスとなった。

前期の市場を見ると、一般外食は前年同期からは改善したが、一昨年の2019年度比では6~7割に留まるだろう。ファストフード(FF)は一年を通じて好調だったが、ファミリーレストラン(FR)は下期、チェーンによっては回復したが一昨年比では8~9割ほどだろう。

給食市場は、学校・老健施設向けは堅調推移が続いたが、事業所給食はテレワークの浸透などで前年を多少下回ったと見ている。

中食市場では、量販惣菜は堅調推移だったが、下期にやや減速感もあった。また、GMS(総合スーパー)よりもSM(スーパーマーケット)の方が好調だった。

当社の売上も好調な中食での採用が押し上げた。特に水産揚げ物――アジフライ、カキフライ、白身フライ、エビフライといった商品では、コロナ禍以降、感染拡大防止の観点からバラ販売からパック販売への売場の変化があった。また、食用油の価格高騰や調理現場での人手不足もあり、そこへの対応としてオペレーションの簡素化、油調時の油節約、パック販売時の経時耐性の強化など、変化に対応した商品を提案したことが採用増にも繋がった。

また、堅調な老健施設市場でも人手不足が課題となっており、素材品に近い簡便調理品の品揃えを強化し、対応を進めた。

――足元の市場環境について

3月以降、コロナ禍の状況が改善したこともあり、外食市場は上向きだ。各チェーンの月次実績も良くなっており、5月にはコロナ前を上回る所も出ている。また、各種スポーツイベントの人数制限解除・緩和もあり、いわゆる「レジャー食」の市場が急速に回復してきている。

反面、量販惣菜では、SMは前年を割るわけではなく堅調だが、やや来店客が減少しているようだ。一方、GMSは人の動きとともに好調になってきている。

また、給食は引き続き堅調。生協宅配は人が外に出ることによる影響がややあるが、冷食のニーズが高止まりし、2019年度と比較するとはるかに需要が大きくなっている。

――ここまでの値上げの状況

ご存知の通り、原材料価格の上昇が急激で、すり身、卵白、麺の主原料の小麦などあらゆるものが値上がりしている上、為替は1ドル135円を付けたところだが、どこまで円安が進むか分からず、直接的にも間接的にも影響が出ている。

当社では2月1日から値上げを実施しており、業務用食品部門では、得意先に値上げの背景をご理解いただけていることで、ここまでは問題なく進んでいる。ただ、その後も原料価格・為替などの状況が悪化しており、やむを得ず上昇分を転嫁させていただく形で8月1日から再度値上げすることを発表している。

――今期の方針

コロナ禍以降の変化にどう対応するかということになるが、外食がテイクアウト/デリバリーで中食を取り込み、中食もメニューの高品位化などで外食を取り込むような形になっている。さらに業務用/家庭用、水産/食品、フローズンチルド/チルドと市場全体でも、当社内でも、業態・カテゴリーの垣根が無くなっており、こうした変化を見据えていかなければならない。

〈来年1月「ニッスイ」に、技術で食の持つ力高めたい〉
商品面では、各業態・市場に向けて、当社の技術力・開発力を活かした商品を多く投入し、課題解決に貢献していきたい。どの業態向けでも言えることだが、業務用市場では人手不足が引き続き課題となっており、オペレーション負荷軽減に貢献する商品を継続的に投入する。そして惣菜売場向けでは、引き続き経時耐性の向上、賞味期限の延長、フローズンチルド商品の強化といった売場のニーズに合わせた対応を継続していく。また、老健施設・受託給食市場は堅調市場で、こちらでも減塩や高タンパクなどニーズを踏まえた商品開発・投入を進める。

こうしたニーズの高いテーマでの取り組みをしっかり行い、得意先がご採用いただけることでメリットを享受できることを軸足に商品開発に取り組む。

また、国内自社工場製品の拡大を目指したいが、1つ具体的な商品として今春新商品「本格中華 特大肉シューマイ」を拡売する。中から肉があふれるような手作り感のある見た目と、1個約50g のボリュームにこだわった本格的な肉シューマイで、ここまで形状・味とも非常に高い評価を受けている。これを中食だけでなく、回復する外食市場に向けても案内を強化していく。

そして大きな課題として、足元のコストアップにどう対応していくかが挙げられ、全社を挙げてさまざまなコストダウン策に取り組んでいる。生産性向上の手法としてはアイテム数削減による1アイテム当たりの生産数量を増やすことが挙げられる。得意先のご要望とのバランスの中で、適切なアイテム数削減は継続的に行っていく。
 
――中長期的な方向性について

既に発表した通り、来年1月に社名を「ニッスイ」に一新することとし、既にブランドタグラインを「まだ見ぬ、食の力を。」と定め、全社的な取り組みを進めていく。業務用においても、技術を向上させていくことで、「食の持つ力」を高め、得意先のメリットになる商品を提供していきたい。

〈冷食日報2022年6月21日付〉