新社長インタビュー 伝統に新しい技術を融合させ新たな価値創造、「百黙」は年明けに新ラインアップ投入-菊正宗酒造・嘉納治郎右衞門氏

灘の清酒メーカーでは今年に入って40代前半の若い社長就任が相次いだ。菊正宗酒造では32年ぶりに新社長の誕生となった。「伝統を重視する考えを自ら体現するため」に、代々当主が受け継いできた名跡「治郎右衞門(じろえもん)」を45年ぶりに襲名した嘉納治郎右衞門社長は、「若年層、女性層、海外など新しい需要層が拡大し、日本酒業界は大きな転換期となっている。ブームという短命で終わらせず、需要拡大していくように、大手の一角を担うものとして盛り上げたい」と意気込みを語る。自身がプロデュースした新ブランド「百黙」や海外展開について話を聞いた。

–まずは抱負について

近年の日本酒業界は若年層、女性層、海外など、新しい需要層が拡大しており、大きな変化を感じている。業界の大きな転換期となり、ブームの火種が出てきている。ブームという短命で終わらせず、需要拡大していけるように、大手の一角を担うメーカーとして盛り上げたい。

当社は本年で358年目を迎える。経営ビジョンとして、「伝統と革新による新たな価値創造」を掲げている。生?造りという江戸時代から継承してきた技術が核であり背骨だ。そして、研究所や製造現場の人間が積み重ねてきた知識や技術の太いベースがある。今後も伝統に新しい技術を融合させ、新たな価値創造を行っていきたい。伝統と革新は相反するイメージだが、革新を続ければ伝統になり、伝統を積み重ねて革新が生まれてくるので、この2つは切り離せないキーワードだ。

–130年ぶりの新ブランド「百黙」について

時代の変化が早く、一つのブランドだけでは新しいニーズをカバーすることが難しい時代になった。往年のファンの満足度を高めながら、新しいファンも迎え入れるために「百黙」を立ち上げた。「菊正宗」ブランドではカバーできないニーズの部分は、新しいブランドでカバーしていく。マリアージュでいうと、「菊正宗」は料理を引き立てる名脇役である。対して「百黙」は、料理もお酒も主役のダブル主演の共演を楽しんでもらう。食の楽しみ方は変化しており、ワイン文化が根付いてくると、マリアージュやペアリングなど、料理とお酒の相乗効果を楽しむお客様が増えてきた。「百黙」は、そのように楽しんでもらうことをコンセプトに立ち上げた。和食に限らず、世界の食とマリアージュしていけるお酒にしたい。

今後の予定としては、1品ではブランドとして感じてもらいにくいため、ラインアップの拡充を考えている。ブランドの枠組みとしては、兵庫県吉川町の山田錦を使用する。当社は、約90年の歴史を有する嘉納会という契約農家にお米を生産していただいている。嘉納会の全量特A地区の山田錦を用いて、地元の宮水で仕込む。灘の酒の最も重要な米と水にこだわり、かつ純米酒以上の規格でものづくりを行っていきたい。

具体的な新酒質については現在テストを繰り返しており、年明けには新しいラインアップを投入する予定である。引き続き地元の兵庫県限定販売は続けていくが、海外は国を絞って米国、欧州、アジアの3拠点に案内していくことを計画している。

–純米酒以上の規格とするのは

純米酒のニーズが高まっている。従来のヘビーユーザーには、本醸造は燗にするとおいしいという理解も高い。「菊正宗」ブランドはそれを体現した酒造りを行っているが、新しい需要層が広がる中で、アルコールを添加した本醸造や普通酒、晩酌や燗酒といった日常的なお酒の楽しみ方はハードルが高くなっている。(続きは本紙で)