サッポロビール「黒ラベル」好調 若年層の支持拡大、停滞するビール市場でひと際“輝く星”に

「サッポロ生ビール 黒ラベル」
2019年1~8月累計のビール市場(発泡酒・第3のビール・ノンアルコールビールを含まない)は、前年同期比5%程度のマイナスとみられる。特に平年の最大ボリューム月である7月が、梅雨明けの遅れがたたって11%減と大打撃を受けた。飲酒人口の減少で予測されていることとはいえ、ビール業界にとって深刻な状況が続く。そんななか、一人“気を吐く”ビールメーカーがある。“ビール回帰”を鮮明にしているサッポロビールは、1~7月で「黒ラベル」缶が2%増、「サッポロラガー(赤星)」が11%増、「サッポロクラシック」が13%増と“異常値”ともいえる数字を叩き出している。2015年と2018年を比較すると、ビール総需要は9.9%減っているのに、同社は2.4%伸ばしているのだ。

そのけん引役がサッポロビールの基軸ブランドである「黒ラベル」だ。2015年から18年まで4年連続で売上アップを果たしている。その秘密を「黒ラベル」マーケティング担当のブランド戦略部サッポロブランド第1グループシニアマネージャーの田邊稔博氏に聞いた。

「黒ラベル」マーケティング担当の田邊氏

「黒ラベル」マーケティング担当の田邊氏

「サッポロ生ビール黒ラベル」は、2019年4月1日、42歳の誕生日を迎えた。生ビール時代の先駆け的商品として、1977年に「サッポロびん生」の名で誕生。年々、改良を重ね、今年の1月下旬製造分からは生ビールの重要な要素である“泡”を、より白く美しくするため、製造方法をさらに工夫した。
 
2018年の「黒ラベル」缶は2014年比で1.4倍の実績だ。どうしてこんなに「黒ラベル」は好調なのだろうか。
 
「発売した当初の目的は“工場で飲む生ビールのおいしさを家庭でも”でした。その思いは今も全く変わっていません。今は料飲店で“完璧な生ビール”を体験してもらうことで、家庭用にもつなげていくというマーケティングをとっています」と田邊氏。
 
「今日的には、ターゲットを若年層、特に20~30代に置いているのが、大きな特徴です。彼らに響くプロモーションを意識しています。実際、20代では、ブランド別売上金額が2位という調査結果も出ています」。
 
田邊氏は「黒ラベルが他のブランドと大きく違うのは機能価値ではなく情緒価値を前面に出すようにしていること。味の特長や、製法の特長も謳っているが、機能価値よりも情緒価値を訴える方が強い」と語る。
 
「黒ラベル」の世界観を体現しているのがご存知、テレビCM「大人エレベーター」だ。2010年から放映しており、2019年で10年目になる。
 
「大人の雰囲気、世界観を訴求しています。黒ラベルを飲むことが“大人への憧れ”につながったり、“大人になった瞬間に立ち会う”というものです。WEB上でスキップされることが少ないという結果もあり、お客様から支持されていると考えています」。
 
次にパッケージデザインだ。「なかなか気が付きにくいと思いますが、デザインはちょっとずつ変えているのです。今年3月にもリニューアルを行い、デザインをよりシンプルにしました。黒ラベルのシンボルである黒丸に金星を基として、少しづつデザインを変えています」。
 
次に業務用と家庭用の連動だ。「完璧な生ビール」のリアル体験イベントを全国の主要都市で積極展開している。今年の夏も、全国5都市で「パーフェクト黒ラベル」を楽しめる体験型スタンディングバー「パーフェクトデイズ」を開催した。 加えて、銀座に通年型のアンテナショップ「サッポロ生ビール黒ラベル THE BAR〈ザ・バー〉」をオープン。銀座は同社がビヤホール文化をスタートさせたゆかりの地で「立地にはこだわりました」(田邊氏)。年間保管料500円で銀座にマイグラスを置けるという「大人のステイタス」をくすぐるバーだ。

銀座「サッポロ生ビール黒ラベル THE BAR〈ザ・バー〉」には年間保管料500円でマイグラスを置ける

銀座「サッポロ生ビール黒ラベル THE BAR〈ザ・バー〉」には年間保管料500円でマイグラスを置ける

これらはパーフェクトな「黒ラベル」を「美味しい」と実感した顧客に家庭でも「黒ラベル」を購入してもらう、という作戦だ。
 
また、この4月からポスターとPOPを刷新した。「他メーカーと異なり、黒ラベルの世界感をより訴求するために、黒ラベルのキーカラーである黒を基調としたポスターを展開しています」(田邊氏)。これもまた、業務用・家庭用のマーケットブリッジを創造する施策だ。

黒ラベルのキーカラーである黒を基調としたポスターを展開

黒ラベルのキーカラーである黒を基調としたポスターを展開

〈2015年、西日本で大躍進始まる〉
西日本には近畿圏本部、中四国本部、九州本部の3本部があるが、このエリアでの伸びが「黒ラベル」の躍進を支えている。なにしろ、西日本ではすでに50カ月以上連続で前年同月の販売数量を上回っているのだ。
 
大躍進のきっかけは「ひょんなことだった」と語る田邊氏は、近畿圏本部で5年間の営業を経て、2014年当時、リテールサポートの職についていた。近畿圏のエリア戦略を立案中にデータとにらめっこしているうちにあることに気が付いた。当時ノーマークできていた「黒ラベル」がCVS(コンビニエンスストア)では「ヱビス」の1.2倍売れている。
 
各社、同じ価格・同じフェース数で販売されているCVS業態で売れているのであれば、「実力」だ。田邊氏は、営業担当者の力を借り、SM(食品スーパー)チェーンに提案して、試験的に店頭をつくったところ、これが本当に売れた。
 
そこからは怒とうの展開だ。近畿圏本部の営業部署が一丸となって、課題と改革のあぶり出しにかかった。様々な提案が飛び交ったが、大きくはカテゴリーとして「社内意識」「得意先意識」「消費者意識」の3つに分かれたという。最終的に9つの具体的方針を打ち出した。「結局は私たちの“売る”意識を変えることを起点として、お得意先、お客様の黒ラベルへの認識を変えていく、このことに尽きました」と田邊氏。
 
近畿圏のお客様に「もっと黒ラベルのおいしさを知ってもらいたい」という営業担当者の思いが具現化したのが梅田での「THE PERFECT BEER GARDEN 2015」だ。「ビアガーデンに得意先をお連れし、“完璧な生ビール”を体験してもらう。すると、理解も深まり、認識が変わりました。店頭の販促計画も通るようになり、社員のモチベーションは高まりました。2015年からの快進撃により“近畿圏本部で3年で箱数を倍にする”と言っていたが、そうなっています」。
 
田邊氏は、「始まっているけど、始まりはこれからだという感触もある。まだまだ伸びしろはあると考えており、これからも積極的にマーケティングを行っていきます」と語った。