【最終コーナーに向けて】ビール4社の営業トップに聞く〈4〉サントリービール執行役員経営企画本部長・大塚徳明氏

サントリービール・大塚執行役員
〈主力3ブランド全てで前年超え、嗜好の変化にスピーディーに対応〉
――1~9月のビール類市場を振り返って。

総市場は1~6月は前年を下回っていたが、7月が長梅雨の影響で厳しく、8月は天候も回復して盛り返し、9月が増税前の需要前倒しがあった。結果、1~9月でほぼ前年並みとみている。そのなか、当社のビール類は前年同期比で104%と、市場を上回った。ビール本体は、特に業務用市況が厳しいなか「ザ・プレミアム・モルツ」(以下、プレモル)は103%と過去最高レベルの出荷となった。「金麦」ブランドも「同 ゴールド・ラガー」が後押しして、過去最高の出荷量となった。ノンアルコールビアテイストは、市場は若干のマイナスで踊り場ともみえるが、当社は104%となった。年初から、この3つの主力ブランドを強化していくという方針で進めてきたが、それぞれで昨年を上回り、結果がついてきていると考える。

――「プレモル」は神泡キャンペーンを継続しています。

ビール本体の市場が厳しいなか、ビール本来のおいしさって何だろうと突き詰めた結果、大切なのはやはりおいしい状態で飲んでもらうことだ。〈神泡〉は、クリーミーでおいしい泡を料飲店でも家庭でも実現する。家庭用のサーバーは定着し、認知度も高いが、日常的に使用している方を増やす余地がまだあるとみている。長いレンジで考えており、一過性ではない、〈神泡〉の実体験を勧めるプロモーションを引き続き継続する。

これは業界全体の課題だと思うが、全体として料飲店で提供されるビールの質に課題がある。提供時品質にこだわっていけば、まだまだビール本体にはチャンスがある。来年は減税という追い風もあるが、ビールの値段が少し下がったから需要を喚起できる、という簡単な話ではない。減税はひとつのきっかけに過ぎず、むしろ“質”にこだわった仕事ができるかが重要だ。「プレミアム超達人店」は現在、1万5,000店だが、もう一段引き上げていきたい。

また、「プレモル」はどちらかというと東京・大阪・名古屋といった大都市に強いが、今年は札幌や松山をはじめ地方都市で、地元のメディアと連動して、例えば駅前の立地で〈神泡〉を体験し理解してもらうイベントを行った。新幹線の東京・名古屋間や、全日空のハワイ便など、いわば“非日常”の空間でも〈神泡〉体験をしてもらったが、こちらも大いに注目を集める企画となった。

家庭用のサーバーは春に“洗浄いらず”の新型を投入したが、今後も進化させていく。当社は技術陣が「おいしさを引き立てるのは泡」と言い続けてきた。早くから樽生品質セミナーなど業務用で“クリーミーな泡”にこだわってきた。その成果をいま家庭用サーバーで展開しており、グラスでビールを楽しむ贅沢な時間を味わってもらいたい。この秋にはサーバーは、金色の秋限定モデルを投入した。「プレモル」と「〈香る〉エール」各12缶パック購入でもれなくプレゼントする。

「〈香る〉エール」も入れて、2つでひとつの「プレモル」であるという定番訴求を行っている。香りが華やかなエールタイプが、意外にグリルした肉に合うと評判だ。女性・若年層に接点を拡大していきたい。

――「金麦」ブランドも過去最高です。

1~9月で「金麦」ブランド計で116%だ。「糖質75%オフ」は103%と前年を超えて推移している。競合の「コク系」ブランドが市場を活性化したこともあり、当社の「金麦 ゴールド・ラガー」は計画680万ケースに対して1~9月で602万ケースと順調に進んでいる。計画達成は固いとみている。「金麦」「糖質75%オフ」「ゴールド・ラガー」の3つでひとつのブランドとして展開している。食卓にのぼるブランドのNo.1を目指しており、「家庭で飲むビール類」で想起率は一番だ。この秋も日清食品と共同開発した「チ金麦鍋専用チキンラーメン」1袋(非売品)が付いた3商品×2=6缶パックを発売した。専用のチキンラーメンということで人気が高いので、大いに期待している。

来年は新ジャンルの増税があるので、値段は上がる。いきおい消費者の取捨選択は厳しくなるので、各社の競争が激しくなっていくが、コアユーザーをどれだけ作れるかが生命線だ。年末までにも負けないように取り組んでいく。

〈お酒の潜在的魅力を示した9月の仮需〉
――「オールフリー」はいかがですか。

ノンアル市場は思ったより伸びていないのは、新ジャンルが盛り返していることの裏返しだろう。7月に発売した「からだを想うオールフリー」は想定以上のピッチできている。今までは「飲めない場所」「飲めない時間」という、いわばネガティブな飲用理由だったが、健康訴求の「からだを想う~」を発売してから「こういうのを待っていた」というお声を頂いている。

ノンアルビールは日本では2,000万ケース規模。ヨーロッパと比べて、まだまだ低い水準だ。ポテンシャルはあるし、ビールと互換性があるというのもポイントだ。ノンアルビールがビール本体の需要の入り口にもなると考えている。市場活性化のひとつの基軸になりうる。

――氷を入れるビールなど新しい提案もある。

9月の仮需は、それだけお酒は楽しい・飲みたい・買いたい、という潜在的需要があるということを示した。あらゆるところから需要の入り口をつくっていきたい。

「アイスドラフト」の取り扱い店舗は9月までで約900店だが、手応えを感じている。料飲店では、チューハイやハイボールのように氷が入った飲料が人気を得ており、ビールも“氷を入れてすっきり楽しむ”ということに抵抗が少なくなってきた。加えて、料飲店では例えばかぼすを搾って入れるなどの独自のメニューを作成している。いつまでもぬるくならない・飲み口がいいといったポイントが受け入れられ、チューハイ感覚でもある。いまの若年層は「冷たい」「清涼感」「すっきり」「レスビター(苦くない)」といったことがフィットしている。「氷が入っていないものこそ特殊」といった感じさえある。それだけ年代の嗜好の変化は進んだ。

そのほかにも、山﨑蒸溜所の樽で熟成した 「~ザ・プレミアム・モルツ~ マスターズドリ-ム」など、高付加価値・価格帯のビール市場形成にも取り組んでいる。

――第4四半期のポイントは。

「プレモル」「金麦」「オールフリー」の3つを軸に取り組みを強化する。消費者はより厳しい選択の目を持ってくる。それに耐えられるイノベーションを弛まず続ける。次に、家庭では日常の食卓に、料飲店ではブランドを支持してもらえるようなプロモーションを仕掛けていく。年末までもう一段ステージを上げることで、来年への準備期間としたい。

〈プロフィール〉
大塚徳明(おおつか・のりあき)1967年生まれ、一橋大商卒、90年サントリー入社、2007年ビール事業部企画部長、10年サントリービア&スピリッツ首都圏営業本部営業企画部長、13年サントリー食品インターナショナル執行役員食品事業本部企画部長、17年サントリーBWS執行役員経営企画部長、18年サントリービール執行役員経営企画本部長。

〈酒類飲料日報 2019年10月31日付〉