〈コロナ禍に打ちかつ〉旭酒造「外食はこれまで以上に“ハレ”の機会に」原点回帰で品質本位の提案推進/桜井一宏社長インタビュー

旭酒造 代表取締役社長・桜井一宏氏
酒類業界でも認知度が高い日本酒「獺祭」を製造する旭酒造(山口県岩国市)。「新型コロナウイルス感染拡大で、2~3月に影響が徐々に現れ、4~5月の“緊急事態宣言”でガクンときた」と桜井一宏社長は話す。得意先料飲店が営業自粛を余儀なくされたためだ。苦しい状況だが同じく苦境に立たされている料飲店を支援すべく、7月から料飲店限定の「獺祭 純米大吟醸 夏仕込みしぼりたて」を発売した。日本酒業界と外食業界双方の盛り上げを図る桜井社長に、詳しい話を聞いた。

まずは「コロナ禍」の影響について聞いてみると、「6月に入ってからはある程度戻ってきているが、春はやはり料飲店の営業自粛が大きく影響した。輸出についてはアジア圏の回復が早かったが、欧米圏は鈍い印象。国内外ともに需要が回復するのは秋以降になるのではないかと考えている」と現状を説明する。

とはいえ、同社はかつて倒産寸前の危機から脱出したほか、平成30年7月豪雨でも大きな被害を受けながらも「獺祭 島耕作」を発売し、被災地に寄付するなどピンチを「乗り切る」以上のことをこなしてきた。

今回の事態も「“獺祭”最大の特徴でもある“美味しさ”をいかにしてレベルアップさせていくかということを考えている」と話す。具体的な策を2つ挙げており、1つは「適正な生産規模の追求」、もう1つは「クラフト獺祭」への取組みだ。

「感染拡大の影響が顕在化する以前から“今の製造数量は適正なのだろうか”と考えることがあった。工場をフル稼働すると4万6,000~7,000石製造することができるが、実際そのとおりにすると上槽やボトリングの現場に負担がかかってしまい、最良の状態での出荷が難しくなってしまう。また、現場で働くメンバーの労働環境も考えていかなければならない。今回の事態を機に“獺祭”をより良いものとするべく適正な生産規模を探っている」。

「クラフト獺祭」については「生産量にある程度余裕ができた中で、若手社員に“獺祭らしい獺祭”というテーマを与え、自らの手で“獺祭”を造ってもらっている。“獺祭らしい獺祭”とは甘みが特徴になるのか、のどごしなのか。はたまた香りなのか。取組む中で成功もあれば失敗もある。改めて真剣に、自分たちの力だけで“獺祭”に向き合ってもらう中で経験を積んでもらい、技術的な面ではもちろん“獺祭”に向き合うモチベーションを上げてもらいたいと考えている」と取組みの目的を説明する。

〈皆様に付き添い、寄り添い、ともにもがく〉
今後の市場の変化については「酒類の飲み方の動向も変化していくと考えている。テレワークを導入する会社も増加しているため、街に出る機会も外で飲む機会も減少するだろう。業界にとってはピンチにも思えるが、外食の機会がこれまで以上に特別な“ハレ”の機会になるのではと考えている。街に出た際“せっかくならいいものを口にしたい”という消費者は増えるはず。“獺祭”は“酔うための酒”ではなく“味わうための酒”。ピンチをチャンスにすべく、原点を大切にした提案を続けていく」という。

米国・ニューヨークに建設中の酒蔵については「現地は日本よりもコロナウイルス感染拡大の影響が大きく、工期を延長することとした。当局からは建築継続の許可は出ていたが、現地で作業に当たってもらう方の安全の確保や、資材の供給状況のことを考えると遅らせたほうが賢明だと判断した。事態が落ち着いてから、しっかりとスタートダッシュを切れる体制を整えたい」としている。

最後に「現在は大変厳しい状況だが、そういう時だからこそ前を向かねばならない。“ウィズコロナ”という時代はしばらく続くと思うが、“獺祭”はみなさまに付き添い、寄り添い、皆さんと共にもがいていくつもりだ。また、こうした時代ではあるが我慢するだけではなく、その中でも楽しみ、笑顔を提供できる存在となっていきたい」と話した。

〈酒類飲料日報2020年7月28日付〉