アサヒビール「2026年の生き残りに向けた号砲が鳴った」/専務取締役営業本部長兼経営創造本部長・濱田賢司氏インタビュー

アサヒビール専務取締役営業本部長兼経営創造本部長・濱田賢司氏
――2020年1~9月を振り返って。

我々は、今年に強い思いを持ち様々な準備をしてきた。2019年11月に変更した「スーパードライ」のブランドメッセージ「ビールがうまい、この瞬間がたまらない」を訴求した新CMを皮切りにし、鮮やかなピンク色の桜ラベル(スペシャルパッケージ)を花見の時期に投入。最盛期には東京五輪、そして10月には酒税改正を迎える流れで、ビールに集中し流れを変える準備を進めていたが、コロナの影響でやろうとしていたことが思うようにできなかった。

一方で新ジャンルは、3月17日に発売した「アサヒ ザ・リッチ」を中心に好調。偶然にも33年前の「スーパードライ」と発売日が同じで、当初年間販売目標を400万ケースとしていたが、お客様のご支持をいただき、5月には800万ケースに、10月には950万ケースに上方修正した。コロナ影響で店頭構築もできない時期もあり、多少の不安要素はあったが、好調を維持できている。9月の新ジャンル仮需でも十分な手ごたえを感じた。年内の950万ケースを達成し、来年に繋げていきたい。

機能系商品は、コロナ禍における健康意識の高まりを受けて、「スタイルフリー」「オフ」といったブランドは良いパフォーマンスを発揮することができた。

RTD(チューハイ・サワー類)は、今年から明確に戦い方を変更した。当社は下位メーカーであり、ブランドが乱立する収益性の悪い市場で戦うことはしない。差別性・独自価値をしっかり持ち、特徴のある商品を展開していく方針で、競合とは異なるポジションでお客様に楽しんでいただけるようにしたい。

そのような中で、セブンイレブンから先行発売した「ザ・レモンクラフト」は、10月20日から全CVS(コンビニエンスストア)に販路を広げ、全CVSでご採用いただいている。税抜き181円と高単価商品ではあるが、RTDの新たな飲用価値の創出に繋がればと考えている。

また「樽ハイ倶楽部 缶」も当初の年間販売目標100万箱を200万箱に上方修正した。業務用で強いNo.1商品を家庭で気軽に楽しめるという価値を提供している。他社と異なる切り口で勝負ができており、今年はひとつのきっかけが掴めたと感じている。来年はさらにこの流れを加速させたいと考えている。

ノンアル「ドライゼロ」も引き続き好調で、缶容器は前年比104%前後で推移。海外でもノンアルカテゴリーが伸長しており、来年も様々な提案をしていくので期待してほしい。

〈「ドライ」は工場できたてのうまさ訴求〉
――10月のビール減税について。

当社は10月30日に「工場できたてのうまさ実感パック」を発売。製造日を6缶パックの天面に印字をした商品で、「スーパードライ」にしかできない鮮度訴求と、“鮮度が良いビールはうまい”という体験をしてほしい。今後も月末金曜日に発売し、月末の週末は「スーパードライ」でという流れを作っていきたい。「工場できたて」とストレートな商品名とすることで、価値をより明確に伝えることができると考えており、単に数を追う商品ではなく、「スーパードライ」のブランドエクイティを高める存在として期待している。

生活防衛意識の高まりなどにより新ジャンル構成比が高まっていた中で、10月のビール減税を迎えた。ハレの日に強いビールの需要が消えてしまった中での減税となり、業界としても大きな影響を受けたが、当社は一喜一憂するのではなく、中長期的視点でポートフォリオを整備していく。2026年の生き残りに向けた号砲が、本年10月に鳴ったと捉えている。

10月に入り樽容器もエリアによって、前年並みへ近づいてきているところもある。GO TO EATなどで回復傾向は見えている。少しずつ戻りつつあるが、感染予防は我々で協力はできても、感染拡大はコントロールできないため予断は許せない状況だ。

――新ジャンルの今後は。

「アサヒ ザ・リッチ」は、年末以降も様々な取り組みを準備している。さらにトライアルを獲得していきたい。デザインも高級感があり、巣籠り消費にもマッチした。本当の勝負は2年目。ここでしっかりと売り上げを伸ばすことが、ブランドとして生き残れるかの判断材料となる。

「クリアアサヒ」は、嵐を起用した共同販促「HELLO NEW DREAM. PROJECT」に参画し、12月1日からデザイン缶を発売する。一定規模のブランドとして実績を残しており、2026年に向けて主力ブランドとして取り組んでいく。

――2026年時の「スーパードライ」、思い描く姿は。

2026年までの税率一本化のスタートを切った。本当に強いブランドしか生き残れない戦いが始まった。2026年になって税率が一本化となっても、店頭でのビールと新ジャンルとの価格差は残るものと想定され、戦いは容易ではない。そのような中でも圧倒的にお客様から家庭用・業務用問わずに選ばれ続けるブランドでありたいと考えている。

ビール類全体のボリュームが増加することは想定しづらいが、「スーパードライ」支持層、ファンの拡大を行っていきたい。世界で最も売れている日本のビールとしてブランドをリファインしつつ、新しい価値をつけていく。「スーパードライ」のブランド価値をお客様に訴求していくことを我々自身が飽きずにやり続けることが何より大切だ。

ビールは、人と集うハレの日には欠かせないものであり、我々自身が暗くならず、明るく元気に前向きに取り組んでいきたい。

〈酒類飲料日報2020年11月9日付〉