大関 日本酒は食文化のひとつ、「人と人とをつなげて、心と体を温める」/長部訓子社長インタビュー

大関 長部社長
コロナ禍で常態が変化を迫られ、人々の嗜好や価値観も変容している。時代の転換期にある今、社長就任から5年目を迎えた大関の長部訓子社長に、業界の課題、日本酒の魅力、今日における「ワンカップ大関」の価値、そしてこれからの時代に向けて大関が目指す姿について聞いた。

――社長就任5年目の今、感じられている変化などは。

あっという間に4年が過ぎたという印象。3年を経た頃から、社内や急速な市場の変化など、現実的な課題と向き合う日々を過ごしているが、2020年以降のコロナ禍で、更に時代が大きく変わろうとしている。これまで目指すべきとされていたことに大きな疑問符が付いた。大関も社会やお客様にとっての価値を見直さなくてはと感じている。また、コロナ感染防止に絡み、飲食店や飲酒に対して幾分偏った対策や報道があると感じている。

――業界の現状と今後の展望について。

人口減少や嗜好の変化があり、日本酒飲用者の国内人口は減少が見込まれる。しかし、日本酒は日本人が生んだ素晴らしい食文化のひとつ。認知と評価を上げるために、業界全体で取り組むべきと考える。

近年、輸出や海外における日本酒の認知向上に対して関係省庁が注力しているが、国内飲用の振興にももっと目を向けてほしい。小さな蔵が酒造技術を向上させながら継続していけるよう、現実的な補助金制度の仕組みも必要とされている。

――国内での愛飲者拡大に向けて必要なことは。

時間軸の長い話になるが、子どもの頃から味覚をきちんと育むことが大切ではないか。日本酒の価値は、食文化の一部というところにある。料理から、食器、酒器、部屋に飾られている花や庭まで、周囲の雰囲気や空気感全てが和食文化を形成しており、日本酒を飲む背景になっている。味噌や漬物などの発酵食品をはじめとする和食の一皿を日常の食卓に加えて、日本酒に親しんでもらいたい。

最近はアルコールが悪のように扱われがちだが、お酒は本来、人と人とをつなげて、心と体を温めるもの。「酒道」という言葉を大関では大事にしているが、一気飲みするような飲み方ではなく、適量を嗜みながら愉しんで飲むものだという発信が必要だと思う。

〈商品以上の価値秘める「ワンカップ」、新しいカタチを「協働」で〉
――今日における「ワンカップ大関」とは。

若者向けのスタイリッシュかつ機能的な商品として誕生し、57年目。今では多様化している小容量酒類の元祖的なアイコンにもなっていると自負している。発売以来、密閉性と飲み口の良さを追求した容器設計や酒質の改良など、見えない更新と研鑽も重ねてきた。ワンカップの歴史と共にあった苦労や喜びと共に近年の社風も作られてきた部分が大きいと思う。

ただし今、当時若者だった愛飲者も高齢化してきている。大きなイノベーティブなヒット商品ゆえの反動を正しく受け止め、今を当たり前に思わず次に進まねばならない。ワンカップには単なる商品以上の価値がある。何かを象徴するアイコンのようでもあるし、表現媒体にもなり得る。大きな可能性を秘めていると感じる。

――新年度方針は。

2021年10月で310周年の節目の年。コロナ禍だけでなく長い歴史の中で大きな転換期にある。ここを乗り越えるにはやはり人が基盤と考え、新年度の会社方針の中に「協働」と、かつてあまりなかった「互いに感謝の心を忘れず強い組織力を築く」という一文を入れた。

「協働」という言葉は深い。「働く」という文字は人が動くと書き、何かのプラスになる言動で結果を出すこと。先駆けてきた歴史や社風、培われた醸造技術に感謝しつつ、強みを生かした新しいカタチを協働で生み出したい。

〈酒類飲料日報2021年6月16日付〉