〈取引価格の改定も根本的解決ならず、実態に即した対策を求める声〉
世界的な需給バランスの悪化を受けて、ここ数年、国内の原皮業界は厳しい経営環境にさらされてきたが、今回の新型コロナウイルス感染症の影響で、靴やカーシート、家具などの原皮の海外需要はさらに悪化しており、これまでに経験したことがない未曽有の危機に陥っている。

万が一、と畜処理過程の出口部分を担う原皮事業がストップした場合、一連のと畜業務が回らなくなり、ひいては出荷者を含め畜産全体に影響しかねない問題となる。すでに地方の食肉センターでは、一部事業者が原皮の引取りを拒否する動きもあるなど、いまの厳しい経営環境が伺える。

こうした状況を受けて、東京食肉市場と大阪市食肉市場は3月16日と畜分から牛原皮価格を改定した。さらに、東京市場は6月15日と畜分から、大阪市場は6月22日と畜分から再び価格改定を行うことを発表している。今後も消費者に安定した食肉の供給を継続していくためには、原皮事業の継続は不可欠であり、関連業界の理解を得つつ、行政も含めた抜本的な対策・支援が求められる。

現状、国内で製造される牛原皮の5割近く、豚原皮では9割以上が海外に輸出されている。とくに牛原皮の輸出価格は、世界的な供給過剰と人工皮革との競合、そして新型コロナによる需要減少で、需給バランスが大きく崩れている。東京芝浦原皮協同組合(理事長=林英彦・(株)大津屋代表取締役社長)によると、牛原皮の輸出価格(FOB)は、2015年4月に1枚当たり8,716円だったものが、19年4月には2,385円、今年4月には1,628円(前年同月比32%安)と、5年間で8割も値下がりしている。

さらに、6月の速報値(ドルベース)では、和牛A級で5~10ドル(538~1,076円:1ドル107.63円で換算)、B級で3ドル以上(323円以上)で輸出されているという。豚原皮については、約1年前の底値から回復して、今年2~3月ごろまで採算ベースまで回復してきた。

4月も393円(前年同月比53.5%高)と損益分岐点ギリギリのラインを維持したものの、それ以降は値下がりに転じ、6月速報値ではA級2ドル前後(215円前後)、B級で1.2ドル前後(129円前後)まで下落している。

米国では、新型コロナの影響による工場の稼働停止により食肉価格は急騰したものの、牛原皮に至っては製品革の需要減少で価格の押上げ要因となっておらず、20年4月のHTS(ヘビーテキサスステア)価格は1枚当たり12.0ドル(前年同月比57%安)と、歴史的な最安値まで下落している。豚原皮も同様で、現地パッカーは皮はぎから湯はぎ方式にシフトしている関係で、市場全体の供給量は減少しているものの、それ以上に需要が落ちこんでいる状況という。

販売先であるタンナーも、新型コロナ以降、最大の消費地である中国をはじめアジア、欧州のタンナーの稼働率は低下している状況という。

国内牛タンナーも需要減によって稼働率が大きく低下しており、「5月、6月の稼働率は50~60%減と推測される」(東京芝浦原皮協同組合)という。タンナーの稼働率低下で国内原皮が余剰傾向となり、夏場を前に余剰在庫の安価な販売がさらなる値下げを生む、負の連鎖が始まりつつある状況となっている。

今年4月、国は新型コロナウイルス感染症に係る畜産支援対策として、「原皮需給安定緊急対策事業」(ALIC事業:20億6,800万円)を発表した。海外へ輸出できなくなった牛・豚原皮の対応として措置されたもので、
〈1〉一時保管
〈2〉ウエットブルー加工
〈3〉レンダリング処理・焼却処理
〈4〉焼却処理
――の4項目で助成措置が設けられている。

さらに、農水省の要請を受け、環境省は各自治体に対して原皮事業者が排出した原皮については、「事業系一般廃棄物」として処理するよう通知している。

とはいえ、原皮を保管するにしても、いまだ需要回復の目途が立たない状況下にあるほか、各地で滞留する原皮(とくに牛原皮)を加工処理できる国内のなめし業者が少ないなど、各項目で現場の実態からそぐわない点も多く、業界からはより利用し易い助成措置を求める声が強まっている。

東京芝浦原皮協同組合によると、牛の塩蔵原皮の加工処理・輸出には1枚当たり2,500~3,000円、豚塩蔵原皮は300円のコストがかかるため、現状では加工処理するほど赤字が生じている状況で、林理事長は「牛原皮は引取価格が0円であっても採算が合わない状態にあり、今後、廃業する事業者が出てくる恐れもある。未曽有の危機的状況にある」と厳しい現状を切実に訴える。

さらに、「いま日本の皮革製品のうち、原料から最終製品に至るまで国内で製造しているところはほぼ皆無に近く、ほとんどが一度、原皮を輸出し、東南アジアなどのなめし業者で処理されたうえで皮革を輸入している。それが新型コロナで寸断され、その影響が出ている。食肉と違い、原皮の場合は赤字が出ても引き受けざるを得ない。それがいま経営に重く響いている」と説明する。

日本畜産副産物協会の垣内利彦副会長も「我々原皮業界は、と畜解体を止めることがあってはならないと使命感で仕事をしている。それでもかなりの赤字を出しながら事業を継続している」と訴える。東京芝浦原皮協同組合の中根勇専務理事は、「原皮の保管・処理の一部分に助成措置を行うのではなく、国産皮革製品の消費を促進するなど、国内の皮革産業全体の振興に力を入れてもらいたい」と抜本的な対策・支援の必要性を指摘している。

〈畜産日報2020年6月11日付〉