〈新春インタビュー2018〉キッコーマン代表取締役社長・堀切功章氏 次の100周年目指し常に挑戦の姿勢

〈食文化の国際交流実現へ施策強化〉
国内事業では収益力の向上、海外では成長の継続――。今年3月終了する中計での基本政策であり、18年4月からの次期中計でも基本方針は変わらない。また昨年に100周年を迎えたが、次の100周年を目指し、常に挑戦の姿勢を崩さない。国内事業は「いつでも新鮮」シリーズはバラエティ化でさらなる価値創造を目指す。堀切功章社長に昨年の概況と今年の抱負などを語ってもらった。

〈中計最終年度、目標達成の見込み〉
――昨年を振り返っていかがですか

日本経済の概況は、世界経済の回復を追い風として輸出と設備投資の伸びに支えられて、緩やかに拡大している、一方で個人消費は依然として力強さを欠いている。酒類食品業界においては少子高齢化や人口減少の進行により、厳しい経営環境にあると認識している。

このような環境にあって、当社のこれまでの国内事業の売り上げは前年を上回って推移している。醤油はいつでも新鮮シリーズが生醤油のおいしさと容器の使いやすさが消費者の評価をいただき好調。豆乳も健康志向の高まりの中で好調に伸ばしている。つゆ類、肉用調味料、デルモンテ飲料なども順調。営業利益については、増収効果や原材料等のコスト対策に加えて、体質改善が順調に進み、大幅な増益となった。

また、海外事業の売り上げ、営業利益は各地域、各事業とも順調に推移している。今年度は中計の最終年度だが、目標達成できる見込みだ。

――今年の方針について

18年度の国内事業は収益構造の変革が引き続いて課題となる。醤油事業は業界のトップとして、市場を活性化する革新的な商品・サービスの提供を常に心がけていく。つゆ類については構造改革を粘り強く進め、利益に貢献できる事業構造にしていきたい。たれ類はさらなるシェアアップを目指していく。簡便調味料の素「うちのごはん」は常に改善と新たな挑戦が必要であり、潜在需要を捉え、課題解決型の価値創造を積極的に行っていく。

また、デルモンテはニッチな分野で高いシェアがとれるような商品開発を行っていく。豆乳は健康イメージのさらなる訴求と調理用など飲用以外の利用も進め、豆乳の可能性を広げていく。本みりんはマンジョウブランドを育成し、シェアのさらなる向上に努める。ワインは高品質、高付加価値の商品に特化していくことで収益性の向上を目指していく。

海外事業においては成長の継続が課題となる。醤油事業では、北米は他社との差別化を図るとともに、新たな需要創造に取り組む。欧州では既存の市場の深耕や東欧、南欧などの開拓を進め、今後も2ケタ成長を続けられるよう努力する。一方、アジアは新興国ならではのビジネスモデルを考え、早期に2ケタ成長の達成を目指していく。

食料品卸売事業では拠点確保、インフラ整備や人材の採用・育成などの体制づくりを進めていく。

さて来る2020年には東京でオリンピック、パラリンピックが開催される。当社は豊かな食の提案を通じて日本の皆さま、そして世界中の皆様の心と体の健康を応援したいという思いから東京2020オフィシャルパートナーの契約を締結した。パートナーの権利を最大限に活用して醤油、つゆ、たれ、本みりんなどの契約カテゴリーのシェアをさらに伸ばしてきたい。

また当社は全日本空手道連盟とオフィシャルスポンサー契約を締結している。空手は日本発祥の競技であり、現在では世界各国で人気が高い。日本の食文化を世界に発信する当社の姿勢と親和性が高いスポーツだと考えている。空手は東京オリンピックの正式競技に採用され、さらに注目を集めている空手を応援することで、当社商品の販売促進にもつなげていきたい。

2020年にかけて日本への外国人旅行者の数はさらに増加することが予想される。食文化の国際交流の実現に向けた当社ならではの施策を一層強化していきます。

また、17年は当社が株式会社として設立されて100周年となった年だった。次の100年の発展に向けて18年度も国内外でキッコーマングループの総合力を生かして新たなビジネスチャンスに挑戦し実りある1年にしたいと思っている。

〈学んだことを次の100年へ生かす〉
――100周年の思いは

100年はあくまで通過点であると思っている。この100何を学び、次の100年に向かってどう生かしていくかが大事だろう。そういう意味では大正6年(1917年)に八家が合同して当社が設立したが、各々の家がそれぞれに長い歴史を持って事業を営んできたわけで、一大意思決定でもあり、その決断に敬意を表したい。このことは、今後の環境変化に向かっていくときの一つの覚悟につなげていく。

また100年間は決して平たんではなかった。昭和の大争議、関東大震災、そして第2次世界大戦があった。これらを克服し、国際化、多角化を進めてきた。私はその半分もいないが、大変な100年だったと思う。

もちろん、これからの100年もいろいろなことがおきる。その変化に対して、常に挑戦していくこと。どうやって伝統を守ってきたのかと聞かれるが、伝統は守ろうとして守れるものではなく、常に革新に挑戦してその積み上げが結果として伝統になる。今後も挑戦を続ける。

――4月からの新中計は
グループ全体の収益性を上げていくという目標は今中計と変わらない。そのためには海外の成長を継続させていくことと国内においてはより生産性を上げること。現在のグローバルビジョン(2020年最終)を新しい長期ビジョンにすることになるが、目標としたキッコーマン醤油のグローバル化は達成していないので、より具体的に示していくことになる。

〈「減塩の方がおいしい」を造る〉
――いつでも新鮮シリーズの今後の見込みは

密封ボトル製品は各社が参入し、量販店の醤油売場は様変わりした。消費者にとって1LPETの特売はあまり魅力のあるものではなく、むしろ量は少なくても最後までおいしい方が好まれてきた。将来的に家庭用の半分くらいは鮮度容器になるのではないか。その中で先発メーカーである我々は、バラティー化で醤油の価値を用途別などいろいろな形で提案する。また醤油加工品もあり、横への広がりは期待できる。例えば昨年、「牡蛎しょうゆ」を発売した。

海外への密封容器の普及は、醤油のおいしさを完全に分かっているわけではないので、もう少し時間がかかる。アメリカの日系スーパー向けに一部輸出を始めているが、一般の量販ではまだないようだ。

醤油は全体として減塩の方向に向かっているが、少し物足りないという声もある。それならむしろ減塩の方がおいしいといわれるような醤油を造っていきたい。

――うちのご飯の成長戦略は
簡便惣菜の素のマーケットの可能性が大きいので、各社が参入した。しかし淘汰も進んでいる。当社でも品種の改廃は常に行われている。この市場は新しいメニューを間断なく提案していくこと。調理方法にしても炒めだけでなく、煮物系などいろんな角度から新しい商品開発を行っている。レンジアップ商品の再挑戦も考えられる。

――ワインについては
日EUのEPAが合意し19年からワインの関税が完全撤廃される見込みだ。ワイン大国のヨーロッパからのものは1本当り100円程度下がるといわれる。そこで我々の本来のワインビジネスはどうあるべきか、を考えた時に、日本の風土に育ったぶどうを我々の醸造技術で造った高品質の日本ワインを大切にする。

さらに進めてボトルの輸入ワインは子会社のテラヴェールに委譲する。業務用を中心に行うことになる。キッコーマンのルートでは日本ワインが中心となる。調理効果の高い調理用ワインも展開していく。

ワインの品質は8割がぶどう原料で決まる。日本の中で欧米品種や甲州など日本独自の品種があるが、自家栽培や契約栽培を増やしていきたい。

――豆乳は好調ですが
今まで豆乳マーケットは10万t、20万tの節目の時は直後に縮小した。今回の30万tの時は踊り場が1年あったが、落ちずにまた成長しそうだ。アーモンド飲料、ライスミルク、甘酒など健康飲料が多様化して一時的に豆乳のスペースが減ったが、豆乳の地力があったことで、17年は売り場が増えるなど復活した。アイテムも増加した。次への40万tに対して期待を抱かせるような年だった。

当社はトップメーカーであり市場の牽引役を果たさなければならない。そこで豆乳のテレビCMを積極的に入れているし、調理用など飲用以外の用途への広がりを持たせるように努めている。

――20年のオリンピックのオフィシャルパートナーとしての具体的な活動は
宣伝活動に関してはカテゴリーを超えないとか、表現の仕方などに制約がある。その制約の中で醤油、つゆの契約カテゴリーで販売促進に使えることはないか模索している。もう少し近づけば具体的なことをお知らせできる。JOCからの要請で何人か出向させているので、教育効果も期待している。

〈事業活動そのものがESG〉
――物流費の上昇が課題ですが

人手不足や労働法制などにより社会的な問題となっている。環境の変化に対して我々の体制をどうやって対応していくかとなる。配送ロットなど足元でできる課題については流通の理解もありかなり改善されてきた。しかし今後は日本の物流を抜本的に考える必要があり、1企業でできる問題ではない。業界を越えた取組みが必要だ。物流セクションを中心にプロジェクトチームを組んで様々な角度から検討している。

――生産の方向は
醤油の製造技術は革新を続けてきたが、これからは人に代わるAIやIoTなど設備投資をする以上は生産性の向上が伴う必要がある。現時点点では人手不足を余り感じていないが、いずれそういう時が来るだろう。

――海外での活動の留意点は

日本食レストランはすでに10万店を超えたともいわれるが、中には怪しいのもあるようだ。我々が行うべきことは日本食を正しく伝えること、特にすしや刺身など生ものを扱う店には食中毒を出したらたいへんなので、食材を扱う知識は常に発信している。

ヨーロッパではシェフを対象にすし講座を行っている。それが最終的にビジネスにつながっていけば結構なことだ。日本食卸業務はアメリカ中心で7~8%成長している。

欧州でもミラノ万博を機にミラノにも拠点を作った。

――ESGについての考えは

100年の歩みの中で環境問題や社会貢献、ガバナンスなどはいわゆるESGは事業活動の中で行ってきた。だから取り立てて事業活動とは別に社会、環境、ガバナンスで何をするかということはない。例えば当社のキッコーマン病院。現在は地域医療としての社会に貢献していると思うが、もともと社内の厚生施設として100年以上前に作ったもの。基本的にESGの問題は事業運営の中で当然やっていかなければいけないこと。またそれをきちんと行っていないとサステナブルな経営とは言えない。事業活動そのものがESGに適ったものでなければ、次の100年はないだろう。

――フードロスの考え方は

食品を扱う企業にとってフードロスは社会的ロスだと思う。もったいないの精神で考えたい。いわゆる3分の1ルールについても流通を含めて議論されているのはいいことではないか。我々としても賞味期限を年月日から年月にする、賞味期限をもっと延ばすなどに取り組みたい。これらを消費者にどう啓蒙(けいもう)していくか。こうした取り組みで少しでもロスがなくなればいいことだ。

〈食品産業新聞2018年1月1日付より〉