〈シグナル〉“五郎”スタイルで

 
ドラマ『孤独のグルメ』の主人公、井之頭五郎の食事シーンを、ふと思い浮かべることがある。松重豊さん演じる五郎が、仕事で訪れたさまざまな街で、どんなに空腹でも妥協せず嗅覚を利かせてたどり着いた店で、自由気ままに食す至福の時間を描くドラマだ。シーズン8まで続いたほど、人気を博した。
 
私は定額制動画配信サービスで2020年末からなんとなく見始め、気づけばはまっていた。おいしそうな料理と、それに真剣に誠実に向き合う姿に魅了されたようだ。たとえ行儀の悪い食べ方をしても気持ちのいい食べっぷりに見えるのは、松重さんのきれいな所作ゆえだろう。
 
五郎が店で発する言葉は、注文のときと、「いただきます」「ごちそうさまでした」だけ。あとは、表情とモノローグ(心の声)で語られる。一人黙々と料理を口に運び、表情筋を駆使して、おいしさを表現する。
 
食べたいものは次々と注文する。ランチでも、3000円超えはざらだ。下戸なのでお酒は飲めない(飲めても、きっと静かに味わうだろう)。黙々と幸せそうにたくさん食べる。しゃべって飛沫を飛ばすこともない。
 
コロナ下での外食のOKラインは個人の主観が大きく、「外食即アウト」という人もいれば、「複数人の会食もOK」という人もいるだろう。私の感覚では、五郎スタイルがコロナ下での外食のお手本のように見える。黙々とたくさん食べて、外食を応援したい。
 
〈食品産業新聞 2021年5月10日付より〉