〈大豆ミートビジネス最前線〉不二製油、“黒子”だった大豆ミートに脚光、定着のカギはおいしさ

直営店「アップグレードプラントベースドキッチン」(大丸心斎橋店)の「大豆ミートスイートチリからあげアップグレードから揚げ~油淋鶏風~」
大豆ミートなどの代替肉が脚光を浴びている。世界に先駆けて大豆ミートを手掛けてきたのが不二製油だ。同社は1950年の創業来、植物性油脂と大豆食品を中心に、Plant-Based Food(PBF:植物性由来食品)の可能性を切り拓いてきた。植物性素材が人類の食糧不足を解決すると考え、地球環境負荷が低く栄養価の高い大豆に着目。1957年から60年以上、食品素材としての大豆の可能性を追求してきた。

その代表例が大豆ミートの素材である粒状大豆たん白で、初期の1969年には肉に近い食感に仕上げた肉状組織たん白製品「フジニック」を発売した。現在は約60種類もの粒状大豆たん白を、食品メーカーや外食、流通向けに業務用として提供している。需要増に対応するため、阪南工場(大阪府泉佐野市)に加えて、千葉工場(千葉市美浜区)内に粒状大豆たん白を製造する新工場を6月末に竣工し、生産能力を増強した。事業統括部門たん白素材・大豆食品グループリーダーの河合俊彦氏、開発部門たん白素材開発室長の中村靖氏に現況と展望を聞いた。

大豆ミートは、油脂分を除いた脱脂大豆や粉末状大豆たん白などを原料にエクストルーダーと呼ばれる装置にて組織加工され、繊維感を有した、肉に近い食感に仕上げた製品だ。同社は牛肉や豚肉、鶏肉といった肉の種類に合わせて食感の異なる粒状大豆たん白を展開し、トップシェアを誇る。粒状大豆たん白は元々、畜肉加工品の増量目的や品質安定化の機能剤として使われてきた。

大豆ミートブームについて河合氏は、「粒状大豆たん白は畜肉加工品に使われる黒子だったが、大豆ミート製品になって脚光を浴びている」と感慨深げに話す。中村氏は「健康志向の中、大豆ミートをはじめ、植物素材ベースの食品が積極的に発売さている。粒状大豆たん白市場は、2017年以降、年間1,000tほど伸びている」とその勢いを示す。

同社の粒状大豆たん白製品では、代替肉用途として、「アペックス」シリーズが特に伸長しているという。風味がよく、ジューシー感を付与する効果を持ち、また、繊維感に富み、歯ごたえのある食感を持つ。粒状大豆たん白の販売は近年好調に推移しており、コロナ禍に見舞われた今期も上期は前年を上回った。家庭用製品向けは伸長も、コロナ禍の打撃を受けた業務用製品向けは減少した。下期も不透明な状況が続くが、通期で売り上げアップを見込んでいる。

〈ユーザーの要望に応じた食感と風味を追求、味のレベル引き上げに力尽くす〉
商品開発の方向性は、食感と風味に尽きるという。「一般的な粒状大豆たん白は、脱脂大豆を原料に加工している。大豆の味が強めに出るため、ユーザーが大豆ミート製品をおいしく仕上げるには、工程を増やして処理する必要があるが、その手間をなかなかかけられない。そのため、大豆の風味を極力なくした、すっきりした風味の粒状大豆たん白が求められる。食感は、ハンバーグ、ミートボール、ソーセージ、薄切り肉などアイテムに応じて求められるものが変わってくる。要望に応じて、食感と風味を追求する」(中村氏)。

今後の展望について、「消費者はSNSなどさまざまな情報入手の手段を持っている。豆腐ハンバーグのような大豆たん白主体食品が現在の市場規模になったのをはるかに上回るスピードで、大豆ミートは定着するだろう」(河合氏)。

大豆ミートが定着するカギは、おいしさにある。中村氏は、「大豆ミート製品の味のレベルがポイント。豆乳には第1ブーム(1983年頃)があったが、当時は味のレベルが低く、すぐに落ち込んだ。現在の豆乳は第3ブームで、長く続いている。大豆ミートも、味のレベルが低い製品が出ると、豆乳の第1ブームのようになりかねない。ベジタブルレストランの中には、本当においしいメニューを提供しているところもある」とする。粒状大豆たん白のパイオニアとして、大豆ミート製品の味のレベルを引き上げるよう、力を尽くしていく。

〈大豆油糧日報2020年10月16日付〉