油脂原料の高騰が続く中、製油メーカーは2021年から計5回の価格改定を余儀なくされた。新興国の経済発展などで油脂需要は急増しているが、大豆や菜種、パームの農地拡大は環境保護の観点から今後増えることは期待できない。経済的に豊かになると肉食も増え、飼料需要でさらに農地が必要になる。ウクライナ問題が長引けば、ウクライナのひまわり油や菜種の輸出、今年の生産量に大きく影響するのは必至だ。ウクライナ問題の影響と足元の油糧原料を取り巻く環境、今後の対策などについて、油糧輸出入協議会の井上達夫専務理事に話を聞いた。

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――まずはウクライナ問題の影響を

近年のウクライナのひまわり種子の輸出は年間7万~19万t、ひまわり油の輸出は530万~680万t、両方を種子換算すると概ね1300万~1700万tに相当する。ひまわりの搾油設備はウクライナが優っており、搾油後に油で輸出する割合が多い。

菜種種子の輸出は240万~300万t、菜種油の輸出は13万~16万tで、両方を種子換算すると概ね270万~340万tに相当する。菜種は輸入国に搾油設備があるため、主に種で輸出されている。

ひまわりの油分は菜種に近いので、ひまわりと菜種の両方を合わせて菜種に換算すると、ウクライナは世界に概ね1600万~2000万t輸出していることになり、この数量は、カナダや欧州の総生産量に匹敵する程、大きな量である。

ウクライナ菜種は2021年初夏に、ひまわりは2021年秋に収穫され、種や油が輸出されて来たが、2月の戦争発生後、国内に残っていた菜種やひまわり油の船による大規模な輸出は止まり、鉄道も被害を受けている。戦時下のインフラ悪化で今後の搾油が滞る懸念もある。戦争が続けば、国内に残る数量、多ければ半年分が輸出されず、菜種換算800万~1000万tの世界への供給が減る恐れがある。

そして欧州・中近東・インドなどは、このウクライナの供給不足分を他産地の菜種・大豆・パーム油にて追加買付する。カナダ菜種の700万~800万tの減産が世界に大きな影響を与えたが、ウクライナが更に追加で大きな供給不足を起こす懸念に今後も警戒を続ける必要がある。

――長期化した場合に想定される状況は

春はひまわりの作付時期だが、果たして農家は肥料を入手できるのか、作付作業をできるのか。作付作業が滞れば、今年の秋の収穫が大幅に減産になる。菜種は初夏に収穫となるが、平穏な収穫作業は難しいだろう。農耕機械などのガソリンが不足する心配もある。秋の菜種の作付も、肥料やガソリンが不足すれば、ウクライナは今年の菜種やひまわりの収穫と、最悪は来年の菜種も大幅減産になる可能性がある。

上記の通りウクライナは大産地であるだけに、今後の供給がどれだけ減少するか、トウモロコシや小麦と合わせて極めてクリティカルな状況となろう。アナリストによると、ウクライナの西部を中心に、ひまわり作付見通しは現時点では40%減少と言われているが、戦争が長引けば更に減る恐れがある。大きく減少すれば、国内消費が優先されるので輸出分の減少の影響は大きくなる。この戦争がこの地で起こったインパクトは極めて大きい。

一方、ロシアからの供給は、同様にひまわり油の輸出が中心で、種子換算すると750万~900万t相当となる。菜種と菜種油は種子換算で200万~250万tで、両原料の合計では菜種換算で概ね1000万t以上に相当する大きな量である。ロシアから食糧輸出は継続されると期待したいが、同国への経済封鎖の行方次第で、悪影響が出る可能性を否定できない。この点も戦争が長引けば、世界への油脂供給は一層タイトになる大きな要因になろう。ウクライナ・ロシア両国の輸出供給力である3000万tが不安定である事は極めて重大事である。

欧州・中近東・インドなどは、ひまわり油の代替供給を大豆搾油、あるいは大豆油・菜種油・パーム油にてカバーすることになるが、現在は、米国の大豆在庫率は1ケタ台で余裕が無く、菜種は世界的に不足、ブラジルの大豆生産量も当初の期待から2000万t減少し、パラグアイ・アルゼンチンの量を合計しても昨年より供給が少ない。パーム油も供給タイトな状況が続く。輸出規制も起こる。ひまわり油の代替分を供給可能な余裕が非常に少ないため、全ての油脂の価格が高騰することになる。

〈長期に渡る油糧原料供給の構造的な問題、需要の更なる増加、農地不足など懸念続く〉
――足元の油糧原料を取り巻く環境は


サステナビリティやSDGsを求める声が大きくなり、農地の新規開発は難しく、今までの様な作付面積の拡大は期待できない一方、CO2削減のため、バイオディーゼル用の需要は増加(石油価格の上昇も後押し)、人口増による需要の増加も続く。

また、世界の気候変動は激化しており、農作物への被害が大きくなっている。世界の乾燥地帯が増え農地に不適になり、温暖化の影響による多雨や熱波で昨年のカナダの様な異常高温など、想定以上の事態が起きている。世界経済の発展は歓迎されるが、一方で肉の需要は増え、飼料増産のため更に土地が不足する。

――日本の油糧原料の現況と今後の見通しを

菜種は昨年カナダが大減産となった。カナダの他に豪州から輸入されるが、干ばつが頻繁に起こるので恒常的には頼りにならない。中国・アジアの油脂需要は増え続け、大豆の搾油増と菜種・菜種油の輸入も増える見通しだ。米国では大豆油のバイオディーゼル需要が増え、不足分はカナダの菜種油輸入が増えるため、カナダの搾油需要が増える。

また、小麦価格や肥料コストが上がり、菜種への転作は進み難い。カナダ菜種はやはり今までの2000万t規模では足りなくなる。米国大豆の期末在庫率は引続き1ケタ台で、頼みの南米3国の今年の生産量は、前年より2300万t減少。パーム油はコロナ禍の下、労働者不足が続く。インドネシアは国内供給を優先してパーム油の輸出を制限している。

今までは南米大豆とパーム油が世界の供給を充たし、需要増加分を補って来たが、マレーシアとインドネシア政府はパーム農園の新規開発を規制し、今後パームの産地は殆ど増えない。両国はバイオディーゼル用にパーム油の使用を増やし、欧米以外の地域は需要が増え、供給は潤沢にはならない。ブラジルはアマゾン以外にも開発用の土地が有るが、SDGsの視点から新規開発が難しくなっており、農地確保の懸念が将来も続く。輸入する油脂原料の供給不安定は厳しくなるであろう。

――北米における搾油工場建設の影響は

カナダ菜種の今年の生産量は2000万t規模に戻ると期待されるが、当面の間はウクライナ問題で需給タイトが続く可能性が高い。更に、カナダで増設・建設が進む500万t規模の菜種の搾油工場は、米国の大豆搾油工場の増加と同様に、米国の需要増加を見越しており、バイオディーゼル政策が続けば、国内搾油需要のために輸出供給力は減少する。カナダの菜種生産量2600万tの目標は未だ現実味が見えないので、世界市場での油糧種子の供給は大きな懸念を抱え続ける恐れがある。

〈世界レベルの食糧対策は、遺伝子組換え技術の活用、バイオディーゼル利用の見直し〉
――日本の食料安全保障の課題は


食糧供給を極めて大きな割合で輸入する日本は、飽食スタイルを見直して無駄を減らし、600万t規模の食品ロスも削減し、輸入依存度を下げる努力が必要だ。更に、国内自給率の向上には、かつての様に大きな潜在力があった米の生産が、安全保障には使えると思われる。現在の生産・需要量から400万~500万tの余裕を持たせれば、小麦輸入に相当する代替量が期待できる。しかし、炭水化物とは違い油脂原料の代替供給は厳しい。国内のゴマや菜種生産を増やす事は難しく、大豆の増加も油の供給には効果が少ないので、供給を海外に依存する状況は改善されない。

結局、日本は世界全体の生産量増加と、バイオエネルギーなどの需要抑制に期待する他ない。

――世界レベルで考えられる・期待したい対策

バイオディーゼル需要、人口増加、経済発展、産地拡大の制限、異常気象頻発に対し、現在の生産技術では供給が追い付かない懸念がある。対応策として未だ可能性が残るのは、遺伝子組換え技術の除草剤耐性の次に、単収やサイズの向上、乾燥地への作付け、熱波への耐性などの遺伝子組換え技術が進み、産地問題、乾燥地の増加、異常気象に対抗できることを期待する。この様な遺伝子組換え技術を世界の各国政府も支援し、農業生産の潜在力を高める必要があろう。

同時に、例えば電気自動車などでバイオエネルギー需要を減らし、一方で遺伝子組換え農産物への消費者の理解・啓蒙を進める必要があろう。90億人になる世界人口を支える食糧供給のため、各国政府の共同対応に期待したい。

〈大豆油糧日報2022年5月9日付〉