2007年6月1日 「クラシエ」誕生、知育菓子「ねるねるねるね」がロングセラーへの道を歩み出した日【食品産業あの日あの時】

「ねるねるねるねは…ヒッヒッヒ…」
魔女が登場するおどろおどろしいCMを覚えている世代は、もう40代以上になるだろう。それもそのはず、1986年に誕生した「ねるねるねるね」(クラシエ フーズカンパニー)は来年で発売40周年。クラシエはアニバーサリーイヤーに向けて早くも各種施策を進行中だ。
2025年2月にスタートした「みんなでつくるねるねるねるね」プロジェクトではX(旧Twitter)で40周年記念フレーバーのアイデアを募り、子供たちの試食を経て2026年春の製品発売を目指すという。
粉末に水を混ぜて練るとふわふわと膨らみ、別の粉末を入れるとさらに色が変わる。付属のカラフルシュガーをディップして食べると「うまいッ(テーレッテレー)」。言葉で説明すれば「ねるねるねるね」はこんな商品だ。化学実験を思わせる摩訶不思議な菓子が開発された背景には、クラシエ(1986年当時はベルフーズ)という会社の成り立ちがあった。同社の源流となるカネボウハリスは、繊維産業で一時代を築いた鐘紡が食品事業に進出するために設立された会社だ。
1973年、カネボウハリスは粉末ジュース「渡辺のジュースの素」で知られる渡辺製菓を吸収合併。同社の持っていた粉末ジュースのノウハウが、カネボウハリス、のちのベルフーズにも受け継がれてゆく。余談だが現在も販売されるクラシエの「カップおしるこ」も、「渡辺のジュースの素」の技術を活かして誕生した商品だ。
「渡辺のジュースの素」は60年代、当時まだ高価だったRTD飲料に比べて安価(一袋5円だったことに加え、“自分で作る楽しさ”から子供たちの支持を集めた。カネボウ食品(当時)はこの点に着目し、1979年「プカポン」を発売。粉末を水に溶かすと色が変わり、発生した泡がラムネを包み込みプカプカと浮き上がるという、同社としては初めての“遊べるお菓子”だった。
以降カネボウ食品/ベルフーズ社は80年代を通じ、第二次ベビーブーム世代に向けた商品を次々と繰り出してゆく。「ムクムクソーダ」「ぶらんぶらん」「カチンカチン」「でろんでろん」「どこまででるでる」「なるなるみになる」「ぷにょぷにょぽっこん」などなど、ユニークなネーミングと商品企画力も際立っていた。いずれも「ねるねるねるね」同様、同社の持つ粉末ジュースやガムの技術を活かした製品だったが、競合他社が人気アイドルを起用したCMやアニメ番組とのタイアップで子供たちへのアピールを試みる中、ベルフーズの一連の商品は異彩を放ち、子供たちを魅了した。

発売初年度にピークの売上を記録した「ねるねるねるね」は、その後も80〜90年代を通じてお菓子売り場の定番商品として子供たちの支持を集め続けた。だが2000年代に入ると売上はゆるやかに下降線をたどり始める (日経クロストレンド「ロングセラー復活の軌跡」2019年10月2日)。同社の分析によれば、かつて「ねるねるねるね」に夢中となった世代が、「体に悪いものが入っているのでは」という誤解を持ったまま親となっていたことが遠因だった。
加えて2004年には、かねてよりカネボウグループ内にくすぶっていた経営問題が噴出。カネボウ本体は産業再生機構に支援を要請し、翌年、上場廃止に至る。「歯磨きガム」(1995年)「甘栗むいちゃいました」(1998年)などのユニークなヒット商品を送り出していたカネボウの食品事業もこの波に巻き込まれてゆく。
企業としては激動の時を迎えていた2005年、当時のカネボウは「知育菓子®」という言葉を商標登録。2007年6月1日からクラシエとして再出発した同社は「ねるねるねるね」に代表される同社の菓子類を「作りながら、遊びながら、楽しみながら自然と豊かな想像力が身についていくおかし」と定義し、ブランドの再構築に取り組み始めた。
2011年には「ねるねるねるね」のパッケージに「合成着色料、保存料不使用」のマークを付与。「健康に悪そう」という誤解の払しょくにつとめるとともに、知育菓子の持つ「個性を伸ばす」「失敗を楽しむ」「違いを尊重する」という価値を訴求することで「ねるねるねるね」の販売も上向き始めた。コロナ禍に自宅内で楽しめる商品に注目が集まったことなども追い風となり、現在では同社の知育菓子の四分の一近くを占める看板ブランドだ。
40周年に向け「ねるねるねるね」はすでに様々な仕掛けを始めている。今年1月にはスペイン生まれのキャンディ「チュッパチャプス」とのコラボ商品が登場したほか、3月には児童書『ねるねるねるねのおかしなおはなし』(講談社)も刊行。その世界観はかつての“怪しげなお菓子”から大きく広がりを見せている。
クラシエが2017年から掲げているビジョンは「CRAZY KRACIE(クレイジークラシエ)」。来年、まだ見ぬクレイジーな「ねるねるねるね」が登場し、子供だけでなく大人世代も驚かせてくれることを期待したい。
【岸田林(きしだ・りん)】