UCC、大型水素焙煎機の稼働で世界初の水素焙煎コーヒーの量産を開始、“おいしさと脱炭素”を両立し日常の一杯で水素社会へ

世界で初めて大型水素焙煎機で水素焙煎コーヒーの量産開始
世界で初めて大型水素焙煎機で水素焙煎コーヒーの量産開始

UCCグループは2025年4月、静岡県富士市のUCC富士工場で大型水素焙煎機「ハイドロマスター(HydroMaster)」の本格稼働を開始した。水素を熱源とした大型焙煎機によるコーヒーの量産は世界初となる。これは、同社が掲げる“2040年までにCO2排出量を実質ゼロにする(カーボンニュートラル)”という目標に向けた施策の一つで、環境とおいしさの両立を目指した取り組みだ。

UCCジャパン 上島昌佐郎社長
UCCジャパン 上島昌佐郎社長

UCCジャパンの上島昌佐郎社長は、4月23日に現地で行われた発表会で、「創業以来、コーヒーの新たな可能性を追求し、今までにない価値創造に挑戦してきました。水素焙煎は、コーヒーの味わいをより豊かにしながら、当社が掲げる2040年のカーボンニュートラル実現に貢献する技術です。私たちは、この革新的な取り組みを通じて、日常の一杯から未来を変えていきたいと考えています」と語った。

約4年の構想の末に実現したこの国産の大型焙煎機は、従来の熱源よりも高温と低温の温度調節幅が広く、水素特有の特性を活かした焙煎方法を可能にした。「水素焙煎はおいしい。しかも環境にいい。食品における本質的な価値と環境性能を両立できた非常にユニークな事例だと自負しています」と述べた。

■水素焙煎、技術の仕組みと味の進化

水素を燃料にすることで、焙煎時のCO2排出をゼロに抑えると同時に、天然ガスより自然発火温度が低い水素を使用することで、弱火など絶妙な火力コントロールができるため、これまで以上に豆の個性を引き出す“おいしさ”を実現できるという。この脱炭素と味の進化を両立させた、日本発の革新的な焙煎技術がついに量産フェーズに入った。

これまで“水素”といえば、トヨタの水素で走る自動車(燃料電池車)など、高額商品や未来のイメージが強かった。しかし今、一杯のコーヒーを選ぶことで、脱炭素社会づくりに参加できる時代が始まりつつある。

今回の水素焙煎機は、年間約6000tの焙煎が可能。水素は、山梨県産のグリーン水素(再生可能エネルギー由来)を活用し、トラックで1時間ほどかけて運ばれる。なお、水素に加えて従来の天然ガスも併用可能で、現在は切り替えながら運用している。

従来は、ガス焙煎機1台あたりで年間約570トンのCO2が排出されていたが、すべて水素焙煎にすれば、ゼロに抑えることができる。

■ おいしさの秘密は“火加減”にあり

大型水素焙煎機の熱風発生装置
大型水素焙煎機の熱風発生装置

水素焙煎の大きな特徴は、火力の微細な調整が可能な点にある。水素はガスに比べて燃焼制御性が高く、“とろ火”のような極めて弱い火加減でも安定して使用できる。これにより、焙煎の途中で一時的に温度を抑えたり、特定の温度帯を長くキープすることができる。

水素により、甘みや酸味、香りといった要素を引き出す焙煎プロファイルを、豆に合わせて精密に設計することが可能になり、これまでにない味のコントロールが実現し、特許を取得している。

開発には、技術部門に加え、社内のサイフォニスト・チャンピオンらが監修として参加。環境配慮だけでなく、味づくりとの両立に向き合った。

ただ、水素焙煎の技術はまだ進化の途中だという。UCCジャパンのサステナビリティ経営推進本部長の里見陵氏は、「焙煎プロファイルの自由度が広がったことで、甘みや香りなど、これまでにない味わいの可能性が見えてきました。今後さらにおいしさの幅を広げる挑戦が続けていきます」とする。

■ 試飲体験で分かった“違い”

「同じ豆でも、ここまで味が違うのかーー」。この日行われた試飲体験では、同じエチオピア・イルガチェフェ産の豆を使った水素焙煎と天然ガス焙煎の飲み比べが行われた。

「香りが華やかで、後味がすっきりしている」

「ベリーのような甘さがより前に出ている」

そんな声が参加者から上がった。見た目は同じでも、味はまるで違う。その差が、焙煎技術の進化を物語っていた。

さらに、毎日2杯の水素焙煎コーヒーを1年間飲むと、CO2削減量は“木を1本植えるのと同じ効果”になるという(673杯で植樹1本分、環境省発行「ゼロカーボンアクション30レポート2021」より)。味わいだけでなく、日々の習慣が環境貢献につながることも、この技術の魅力だ。

この革新性は日本国内の外食店やホテルなどの観光業だけでなく、海外展開を進める日本企業や、欧州・アジアの企業からも問い合わせが増えている。味とサステナビリティを両立する新しい価値提案として、水素焙煎は国内外で注目されている。

■ 商品展開は直営店と業務用から、丁寧に広げる理由

水素焙煎コーヒーの業務用・家庭用製品全7品
水素焙煎コーヒーの業務用・家庭用製品全7品

UCCは4月23日から、水素焙煎による新商品7品(豆、ドリップバッグ、リキャップ缶など)を順次発売している。直営店「カフェメルカード」(全15店舗)や公式オンラインストアで展開する。価格は従来比で1.3~1.5倍程度だが、将来的には「普及とともにもう少し手頃になる可能性もある」(UCCジャパン 里見陵本部長)という。

業務用では「カフェネイチャー」ブランドからシティローストとダークローストの2種を展開。すでにハードロックカフェ東京店(六本木)で同日から1週間、期間限定で採用されており、植物性バーガーとのペアリングで提供されている。

ただ、水素焙煎の新商品は、スーパーやコンビニエンスストアでは販売されない。その理由は、まず直営店や業務用を起点とした丁寧な説明と体験の提供を重視しているためだ。水素や焙煎という言葉自体が、まだ一般的になじみが薄く、これまでテスト販売していた際の試飲会でも、「水素ってふりかけるの?」「水素水でコーヒー豆を洗うんですか?」といった誤解があったという。

UCCジャパン サステナビリティ経営推進本部の里見陵本部長
UCCジャパン サステナビリティ経営推進本部の里見陵本部長

「棚に置いただけでは、どのような価値があるかは伝わりません。だからこそ、時間をかけてお客様に伝えながら広げていきます。一般小売店では3年以内を目途に展開したい」と里見氏。

UCCは、すでにトヨタなどの水素社会を推進する企業のほか、山梨県や福島県、東京都などの自治体との連携なども始まっている。水素焙煎コーヒーは、脱炭素に向けた取り組みの一環として、生活者が水素社会とつながる“入口”の役割も期待されている。

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創刊:
昭和26年(1951年)3月1日
発行:
昭和26年(1951年)3月1日
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