開始4分で1億円突破、キリン「人生を共に生きるウイスキー」に共感が集まった理由

「人生を共に生きるウイスキー」、熟成途中のサンプルとフルボトル(イメージ)
「人生を共に生きるウイスキー」、熟成途中のサンプルとフルボトル(イメージ)

◆クラファン4分で1億円、物語に共感が集まった

キリンビールが、社内の新規事業提案制度から生まれたプロジェクトで新たな一歩を踏み出した。ウイスキーの熟成とともに人生の節目をともに過ごす「人生を共に生きるウイスキー」は、6月6日にクラウドファンディングを実施し、開始からわずか4分で目標金額の1億円を突破した。

これは応援購入サービス「Makuake(マクアケ)」での歴代過去最速記録となった。また、応援購入額は2億6000万円を突破し、「Makuake」単日での最高額で達成した。前例のない挑戦に多くの共感が集まった。1本あたり税込11万円、予定本数2,500本という高価格・限定性にもかかわらず、すべて完売となった。

新しい価値を正面から生活者に届けようとするキリンの姿勢がにじむ取り組みだ。このサービスは、子どもの誕生や結婚、退職など人生の節目に合わせて、20年間にわたって熟成されるウイスキーを届けるというもの。

購入者には御殿場蒸留所(静岡県御殿場市)で蒸留されたモルト原酒が送られ、3年、7年、10年、13年、16年と、節目の年ごとに熟成途中のサンプル(各50ml×2本)が届けられる。20年後にはフルボトル(700ml)として手元に届く設計だ。

「主役はウイスキーではなく、お客様の人生。時間の積み重ねが記憶になり、やがて一生忘れられない乾杯につながる。そんな体験を届けたかったんです」

そう語るのは、企画の起案者であるキリンビール マーケティング本部 事業創造室主務/チームリーダーの小島亨介さんだ。酒を文化として届けてきたキリンだからこそ、その体験に意味を込められると信じて取り組んだという。

◆「柱に刻んだ線」がヒント、時間に価値を宿す発想

キリンビール マーケティング本部の小島亨介さん
キリンビール マーケティング本部の小島亨介さん

もともと小島さんは、ビール酵母の研究開発に携わっていた。論文や特許など“成果”は出ていたが、「自分の研究は社会に価値を届けられているのか」と疑問を抱くようになった。
「特許になっても、世の中に出ない技術では意味がない。価値を“届ける”人間にならなければと思い、経営を学び始めました」

そして、自身の子どもの誕生をきっかけに、“記録を形に残したい”という思いが生まれた。ヒアリングの中で出会ったのが、毎年家の柱に子どもの身長を刻んでいたというエピソードだ。その柱を、家の建て替え時にも捨てられず、新居の一部に再利用したという話に、小島さんは強く惹かれた。

「他人から見ればただの木。でも、その人にとっては家族の時間が詰まった宝物なんです。時間の積み重ねが、価値になる。その感覚をお酒で表現したいと思ったのが始まりでした」

クラウドファンディングでは、「子どもの誕生にあわせて購入した」「記念日のために申し込んだ」といった声が数多く寄せられた。一方で、フルボトルが届けられるのは20年後のため、「定年祝い」などは難しいと感じられていたが、「このウイスキーのために生きる目標ができた」「20年後に孫と飲みたい」などの声が寄せられ、年上の世代からも好評だったという。

「われわれの説明よりもずっと、お客様自身が価値を感じて“買いたい”と思ってくれた。それが何よりうれしかった」と小島さんは語る。

◆挑戦を支えた社内文化、「価値は共に育てていく」

今回のプロジェクトは、2021年にスタートしたキリン社内の新規事業の提案制度から生まれた。

小島さんが提案したアイデアは、約100件の中から選ばれ、最終審査を通過。そこから4年間、ビールのサブスク型サービス「ホームタップ」の業務と並行しながら実現に向けて構想を練り、社内外の調整をしてきた。

企画の磨き上げや顧客インタビューなどを丁寧に積み重ねていった。社内の関係部門とも連携を重ね、ようやく「価値を届けられる」と確信を得てから、2025年6月のクラウドファンディングへと踏み出した。

キリン社内では、「開始4分で1億円突破」という結果に驚きが広がったという。今後の展開に向けた期待も高まっている。

「これは単なる“発売して終わり”の商品ではありません。20年間、お客様とつながり続けるサービスです。届けるだけでなく、一緒に育てていく存在でありたい。お客様の人生を少しでも豊かにできるような乾杯を、必ず届けます」。

◆20年後、乾杯は“積み重ねた時間”の証になる

「人生を共に生きるウイスキー」(フルボトル)
「人生を共に生きるウイスキー」(フルボトル)

2025年分は即完売し、今年の再販はない。

ただ「買えなかった」「またやってほしい」といった声が多く寄せられており、2026年の本格展開に向けて準備が進められている。次回は、より多くの人にこの“時間を共にする体験”が届くよう、体制を整えていく考えだ。

小島さんが心に残ったと語ったのは、子どもの成長を刻み続けた柱が、新しい家にも引き継がれたという話だった。目に見えるキズに、家族の時間が刻まれていく。このウイスキーもまた、そうした“かけがえのない時間”を記録する存在になるかもしれない。

20年後、フルボトルを手にしたとき、それぞれの時間がどれだけ大切だったかを、静かに思い出すきっかけになるだろう。

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2006年9月に酒販免許が実質自由化されたことはご存知でしょうか。お酒を購入する場所は「酒屋」からスーパーやコンビニに変わりました。いま、売場だけでなくメーカーや卸売業者など酒類業界にも変革の波が一気におしよせています。ビールメーカーはオープンプライスを導入したり、同業他社にM&Aを仕掛けたりと「横並び」と言われた業界構造が音を立てて崩れています。末端小売6兆円という巨大な飲酒市場をめぐってビジネスに勝ち抜くためには日々の新鮮な情報が欠かせません。情報力が企業の業績に直結する時代に、酒類業界のスタンダード紙である酒類飲料日報の購読を是非お奨めいたします。

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昭和42年(1967年)8月
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