「日本の病院給食 維持は著しく困難」大阪・関西万博で有識者が課題共有

大阪・関西万博で開かれた「アジア栄養士フォーラム」のシンポジウム「未来の病院給食」
大阪・関西万博で開かれた「アジア栄養士フォーラム」のシンポジウム「未来の病院給食」

日本栄養士会は大阪・関西万博で8月5日、アジア11カ国・地域の栄養士会代表者が集まり、栄養課題を共有する「アジア栄養士フォーラム」を開催した。約120人が観覧する中、シンポジウム「未来の病院給食」で登壇した帝塚山大学名誉教授の河合洋見氏は、「日本の病院給食の維持は著しく困難な局面を迎えている」と課題を呈し、「合理的かつ大胆な改革が必要である」と訴えた。

河合氏は「全国のほとんど全ての病院給食は慢性的な赤字状態に陥っている。2024年推計値では、患者1人当たり約990円の赤字が見込まれ、100床規模の病院では、単純計算で年間約3,500万円の赤字となり、極めて深刻な状況である」と語った。

病院給食を取り巻く課題については、資料を示しながら具体的に説明した。

1つ目は、診療報酬の大幅な増額改定が見込めないこと。

【図1】病院給食の収支の現状(患者1人あたり/日)
【図1】病院給食の収支の現状(患者1人あたり/日)

「【図1】は、2003年、 2017年、2024年の患者 1人当たりの病院給食の収支を示している。2017年の収入の減少は、2006年の診療報酬大幅改定により、1994年に制定された特別管理(適時・適温)加算が廃止され、また食事料が1日算定から1食算定へと変更されたことによるものだ。その結果、収入は減少傾向を示し、さらに2016年には市販経腸栄養剤の使用が減額対象となった」。

2つ目は、人材不足で調理従事者の確保ができなくなること。

【図2】生産年齢人口の減少
【図2】生産年齢人口の減少

「総務省統計によれば、日本の生産年齢人口は毎年、約70万人減少すると見込まれている【図2】。その影響は給食調理従事者の確保に直結し、人材不足は今後さらに深刻化すると考えられる」。

3つ目は、人件費、食材費、光熱給水費の上昇による経営悪化。

【図3】最低賃金/ 時間(全国加重平均)の推移、【図4】食材費と光熱給水費の推移
【図3】最低賃金/ 時間(全国加重平均)の推移、【図4】食材費と光熱給水費の推移

「政府は2030年までに最低賃金を1,500円までに引き上げることを目標としており、実現すれば現状の約1.5倍となる。このことは人件費の大幅な増加につながると予想される【図3】。また、食材費や光熱給水費は2020年比で10% 以上の上昇がみられ、今後も継続すると考えられる【図4】」。

4つ目は、建築費の高騰で病院の新築・改築が困難となり、設備投資が停滞すること。

【図5】病院の建築費水準(単価/3.3平方メートル)の推移
【図5】病院の建築費水準(単価/3.3平方メートル)の推移

「病院建設費用も過去10年間で倍増しており【図5】、全国的に、新築・改築がとん挫している病院が増えている」。

河合氏は、そうした課題を示したうえで、「この難局を乗り越えるためには、従来の病院給食の概念を捨てて、新たなシステム構築を断行する必要がある」と切り出し、〈1〉栄養食事基準の簡素化および全国標準化〈2〉完全調理済冷凍食品やレトルト食品の活用〈3〉食品製造と食事提供を分業化〈4〉社会インフラを活用した病院食サプライチェーンの構築〈5〉厨房改革と省人化――の必要性を説明。

「現状維持や部分的改革では病院給食は存続できない。新たな発想による合理的かつ大胆なオペレーション改革が必要である」と話した。

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2016年には、全国学校栄養士協議会協力の『子どもが好んで保護者も納得!学校給食アレンジレシピ集』。
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