マクドナルド、世界100か国で“同じ味”を守る舞台裏 年1回の「官能評価」に密着
世界100か国・約4万1000店舗を展開するマクドナルド。ビッグマックやハンバーガーなど世界共通メニューは、どの国でも同じ品質・味を維持している。その“世界共通の味”を支える重要な仕組みが、年に1度実施される「官能評価(食味評価)」だ。
見た目や食感、香り・味など、人でしか判断できない品質を世界共通の基準と照らし合わせるもので、世界各国を巡回するグローバル品質担当者が、約1週間かけてビーフパティやバンズ、ポテト、野菜、ソースなど主要原材料を評価する。
一方で、期間限定商品や日本独自のレギュラーメニューなどは、日本で開発されており、味づくりも日本側に委ねられている。
食品産業新聞は7月15日、日本マクドナルドの総合研究施設で実施されたビーフパティの官能評価セッションを取材した。
ビビアン氏は約20年間にわたり、グローバルの品質担当として世界各国の官能評価を担当しており、日本でも毎年評価を実施している。
■年1回の官能評価、目的は「品質維持」と「知識継承」
日本マクドナルドによると、この年1回のグローバル官能評価には大きく二つの目的がある。
一つは、世界共通の「ゴールドスタンダード(目指すべき品質)」を改めて確認し、品質のぶれを防ぐことだ。
原材料は同じ規格でも、肉やレタスなどは産地や季節によって状態が変化する。そのため、「マクドナルド品質とは何か」という共通の物差しを毎年合わせ直し、課題があればサプライヤーとともに改善していく。
もう一つが、知識と経験の継承だ。近年は工場でも人材の流動性が高まっており、ベテランの経験を次世代へ引き継ぐことが重要になっている。
そのため、この評価会は毎年同じサプライヤーの品質担当者だけでなく、経験の浅い品質担当者も参加する。
日本マクドナルド サプライチェーン本部 食品安全・品質システム部の吉澤恒治部長は、「品質を技術的に確認するだけではなく、品質を維持できる人材を育てることも、このセッションの大きな目的です」と説明する。

■人が判断する「世界共通の物差し」
官能評価では、見た目や食感、香り・味などを人が評価し、世界共通の基準を満たしているか確認する。
重量やサイズなど数値化できる項目は工場で厳格に管理されており、この場で確認するのは、人の感覚でしか評価できない部分だ。
特徴的なのは、競合するサプライヤー同士でも、品質向上のために世界共通の基準品を共有していることだ。
毎年の評価で「最も基準に近い」と認められた原材料は、世界共通の基準となる「ターゲット」として認定され、そのサプライヤーは「ターゲットホルダー」となる。
ターゲットホルダーは、基準の製品として競合他社であってもこの「ターゲット」を提供する仕組みになっている。
こうした仕組みを支えているのが、フランチャイジー、サプライヤー、そしてマクドナルドが互いに協力して価値を高める「スリーレッグドスツール(三本脚の椅子)」という考え方だ。品質向上という共通の目的のもと、競合同士でも協力し合う文化が根付いているという。
各サプライヤーはターゲットを保有し、工場では定期的に試食しながら自社製品との違いを確認する。「ここが違う」「ここまで基準に近づいた」と比較を重ね、品質改善につなげている。
一方、グローバル担当者による評価は年1回だが、例えば各ビーフパティの工場では同様の官能評価を1日に十数回実施している。この日参加した担当者も、日頃から工場で品質管理を担っているメンバーだ。

■ライバル企業も一緒に議論、「世界共通の味」を磨く
評価では、各工場から無作為に選ばれた原材料を使用する。
長テーブルにはビビアン氏と複数社のサプライヤー担当者が並び、まず「ターゲット」を全員で試食。その後、どの会社の製品か分からない状態で各社のサンプルを評価し、ターゲットと一致しているか、どの程度の違いがあるかを確認しながら議論していく。
すべての評価終了後に初めて、どの会社のサンプルだったかが明かされる。
印象的だったのは、一方的に採点する場ではなく、ビビアン氏とサプライヤー担当者が積極的に意見を交わし、互いの評価を確認しながら議論を重ねていたことだ。
■「良いパートナーがいなければ品質は守れない」
評価終了後、ビビアン氏は品質管理で最も大切なことについて、「まず仕事を好きになること。そして食べることを楽しむこと」と語った。
そのうえで、「最も重要なのは人との関わりです」と強調する。
「私は香港を拠点に世界各国を回っていますが、日本チームとも強い信頼関係があります。一人が情熱を持っていても、良いパートナーがいなければ何も実現できません」
評価会は数カ月前から準備を始め、サンプル輸送や日程調整など、多くの関係者の協力によって成り立っているという。

■「先生と生徒ではなく、一緒に学ぶ仲間」
ビビアン氏は約20年間、品質評価に携わってきた。
以前は「教師が教え、生徒が聞く」という研修スタイルが一般的だったが、現在は違う考え方を重視している。
「先生と生徒ではなく、友人のような雰囲気を作りたい。その方が分からないことを質問しやすく、お互いに学び合えます」
評価結果が思わしくなくても、「一緒に改善方法を考えましょう」と声を掛ける。
「一度悪い結果が出たから終わりではありません。改善できると信じてもらうことが大切です」
■「20年担当しても、まだ学び続けている」
世界各国で品質評価を続けてきた現在も、「まだ学び続けています」と話す。
「『もう全て知っている』とは思いません。サプライヤーに『なぜこうなるのですか』と質問し、製造現場から学ぶこともたくさんあります」
世界中の商品を評価し続けた経験については、「練習を重ねるほど、良い品質と改善点を言葉で説明できるようになります」と語った。
世界中どこでビッグマックやチーズバーガーを食べても“同じ味”だと感じられる背景には、人の感覚を世界共通の「物差し」として磨き続ける仕組みがある。官能評価は、その物差しを未来へ受け継ぐための場でもあった。








