家庭用コーヒー市場に新たな切り口続々、健康・タイパで生活者に提案、原料豆高騰下で価値磨く

コーヒーの原料豆価格が高止まりする中、家庭用市場では“価格以外の価値”にも着目した製品づくりが進んでいる。UCC上島珈琲、味の素AGF、キーコーヒー、ネスレ日本といった主要メーカーは、この1年以内に健康志向や利便性を高めた新製品を投入。
国際相場では、アラビカ種が2024年12月に約300セント/ポンドを超え、2025年2月には431セント/ポンドまで上昇(昨年比2.2倍相当)。2025年9月も400セント/ポンドを上回っている。原料高騰という逆風の中、コーヒー各社は生活者が家庭でより良いコーヒー体験ができるような製品提案を強化している。

UCC上島珈琲は、2024年9月、新たな機能性表示食品として「UCC &Healthy スペシャルブレンド」を発売した。これは、コーヒー由来成分「トリゴネリン」が、BMIが高めの人の安静時エネルギー消費の向上をサポートする旨を表示する製品。
トリゴネリンはコーヒー生豆に多く存在するが、焙煎すると減少しやすい性質がある。UCCは、焙煎・ブレンド技術を最適化することで、香りやコクを損なわず機能性を保つ設計を見つけた。同社は現在、「原材料はコーヒー豆のみ」の機能性表示食品「UCC &Healthy」レギュラーコーヒーシリーズを拡張している。R&D本部研究開発部の植田恵美氏は、「コーヒー由来成分トリゴネリンに着目。焙煎・ブレンドを工夫し、香味を保ちながら届出表示に沿った設計にした」と話している。

味の素AGFは今年8月、健康総合企業タニタとのコラボレーションにより、「ブレンディ」スティックシリーズから、タニタカフェ監修の〈ホッとよりそうカフェオレ カフェインレス〉と〈ホッとよりそうミルクティー カフェインレス〉を発売した。1日不足分の鉄分、カルシウム、ビタミンD(20~40代女性の食事摂取基準〈国民健康・栄養調査〉から算出)と高たんぱく質が摂れる設計。
同社執行役員コンシューマービジネス部長の伊藤英郎氏は、「単なるカフェではなく、カフェインレスのカフェオレと紅茶に、不足しがちな栄養素を配合した。『休息』『健康』『応援』『自分らしさ』といったメッセージを込め、不調を抱える女性が“心も体もほっとできる”ような新しいカフェとして提供したい」と話す。

一方、時短や手軽さといったタイムパフォーマンス(タイパ)面で価値向上を訴求する製品も目立っている。キーコーヒーは2025年9月、簡易抽出型コーヒー「JET BREW(ジェットブリュー)」を発売。お湯に沈めて上下にスイングする浸漬法を採用することで、最短約10秒で抽出できる構造を実現した。
ティーバッグタイプのコーヒーで課題だった“フィルターの浮き”を抑え、短時間でも安定した味わいを楽しめるように工夫したという。同社R&Dグループリーダーの阿部祐美子氏は、「忙しい毎日を送られている生活者にふさわしい、新しい価値のコーヒーを提示したい」と語る。

ネスレ日本は、冷水でもすぐ溶ける「ネスカフェ アイスブレンド」(今年3月発売)で、新しい家庭用コーヒーの形を提案している。世界に先駆けて導入した「クリスタルフローズン製法」により、従来はお湯で溶かして氷を入れる必要があったアイスコーヒーを、水だけで手軽に作れるようにした。
日本のコーヒー飲用の約4割はアイス(消費者行動研究所「飲み物調査」2024年)で、特に20代男性の65%、20代女性の44%がアイスを選ぶとされている。同社のレギュラーソリュブルコーヒー&液体飲料ビジネス部長の吉永祐太氏は、「既存製品との食い合いはほとんどなく、20~30代の新規ユーザーを獲得できた」と話す。
原料生豆が高騰する中、家庭用コーヒー各社は、品質を落とさずに提供することに取り組んでいる。それに加え、健康・時短・嗜好といった多面的な付加価値で製品価値を高め、自社ならではの特徴を打ち出す。生活者の「せっかく飲むなら自分らしい一杯」のニーズに応えるため、コーヒーの価値を向上させる各社の取り組みが活発化している。