マルハニチロ「食材流通ユニット」に改組し水産部門との協業進む/谷内業務用流通事業部長【冷食メーカーインタビュー】

マルハニチロ・谷内業務用流通事業部長
マルハニチロ・谷内業務用流通事業部長

――2022年度の業務用食品事業の総括

食材流通ユニットの業績は売上高10.7%増2,113億円、営業利益10億円減23億円と増収減益だった。増収については、取り巻く現状から値上げをさせていただいたことの結果であるが、減益については急激なコストアップ・為替変動などがあり、食品業界の常であるがリアルタイムにすぐ値上げはできず、どうしても遅れが出てしまうことによる。

ルート別の売上高前年比は、食材流通ユニット全体(ヤヨイサンフーズも含む)として給食・外食が114%、量販店水産売場が99%、量販店デリカが104%、生協宅配が101%、CVS(コンビニエンスストア)が101%、介護食が108%となった。やはり給食・外食ルートの復調がけん引した形となった。昨年度は人々がウィズコロナに慣れてきており、前年と比べて人流が回復し、ホテルの朝食や外食ルート向けが回復した。また、商品のカテゴリーとしては人手不足対応商品、仕込み済みの商品などが順調だった。

――前期の重点施策

従来の業務用食品部門と水産部門が一緒になって壁を取り払い「食材流通ユニット」に改組した初年度であり、総じて言えば大変評価を受けたと思っている。我々にお声がけいただければ水産品から食品まで対応できるということをお伝えすることができ、特に卸ルートには非常に好評だったと感じている。

とはいえ、加工品に比べて素材に近い商品は常に為替に敏感であり、急激な為替変動でお見積りが出しにくい状況にもなった。足元では以前に比べればまだ為替も落ち着いてきて、オファーを出しやすくなった。また、ご存知の通りあらゆるものの価格高騰から値上げ作業にも追われた1年でもあった。それでも大きな視点で見れば、この組織再編は正しかっただろうと思っている。

また、「高コスト体質からの脱却」と、「販売力の強化」という大方針を打ち出して取り組みを進めた。これはまだ道半ばであり、やり方を変えて、今期も継続して取り組んでいく。

後でも述べるが、「高コスト体質からの脱却」については、今期は「物流改革」として、在庫の管理に焦点を当てて取り組みを進め、総仕上げの年と位置づけている。

「販売力の強化」については、各地域に本社事業部の担当者を配置し、毎週の会議で全国の情報を共有しながら、お客様に有意義な情報等をスピーディに発信できる体制とした。こうした情報は大きな武器になると考えており、お客様と我々双方がウィン―ウィンの形で長くお付き合いできるようにしたい。

――足元の業務用市場

ウィズコロナが定着して人流が回復し始め、5月のコロナ「5類」移行からはほぼ日常を取り戻したようにも感じられる。東京の街でも、インバウンド需要の復活で回復基調だが、外食業界の人手不足は深刻で、問題になっている。

外食では、働く人が足りずに全店を営業できなかったり、宴会予約を受けられなかったり、間引くような形で営業せざるを得ないという話を聞く。コロナ禍では、営業の自粛や短縮で働く人を減らさざるをえなかったが、それが戻ってきていない。さらに外国人の働き手も円安でうまみが減ったこともあり、まだ戻っていない。

街中では多くの外国人を見かけるようになったが、国別でみるとまだ中国人が少ない。中国人観光客の団体ツアーが解禁されると、市場が大きく盛り上がることが期待できるだろう。

中食はコロナ以降、好不調の波が小さく、全体として順調に進捗している。ただ、コストアップが惣菜の事業でも課題で、我々が扱う水産物も価格の波が大きく、値上げをお願いせざるをえない中では一部では肉類に切り替えるケースもあった。また、価格が上昇する中、消費者の生活防衛意識の高まりから買い上げ点数が減る現象も出ている。

一方で、割安感のあるキャッシュアンドキャリーのルートは好調が続いている。ただ、今年度に賃金のベースアップがなされた企業も多く、それが数ヶ月遅れ、6月以降あたりから反映されることを考慮すると、市場がさらに盛り返す可能性もあるだろう。給食ルートは、学校給食はコロナ直後を除きすぐに戻ったが、産業給食は戻り切っていない。

〈SDGsの活動もパートナーとともに積極的に進めたい〉

ウィズコロナの中である程度テレワークも減ったとはいえ、全体的に見ればコロナ前とは働き方が変化しており、やむを得ない面もある。

――今期の重点施策について

商品の重点カテゴリーとしては、ネギトロ等のマグロ加工品、焼そばなど6カテゴリーを選定して進めることを全国支社に発信しており、強い商材をより強くする方針だ。原料調達と生産能力の課題を、グループシナジーを含めたサプライヤーの確保で対応していく。

それから、これまであまり前面に出していなかったが、当社の業務用は冷食事業だけでなく常温食品事業も手掛けており、業務用向けの缶詰や、ツナ、フルーツミックスなどのレトルトパウチなどの商品を持っている。これらの商品でもマーケットでお役立ちできると判断しており、常温食品分野にも力を入れたい。

商品企画の面では、手間削減や利便性を高めるなど、よりお客様の困り事に対応できるものを開発していく。

また、2022年は値上げのお願いに奔走した1年だったが、値上げとセットで「こうしたらもっと売れますよ」という提案が必ずしも充分ではなかったという反省もある。そうした付加価値のある提案を付け加えていくことも課題だろう。

――今期の「物流改革」の内容

物流改革と言っているが、まずは適正在庫にするということを考えている。冷凍品は賞味期限が1年など長いため、在庫が放置されるケースがある。売るために買ったものなのだから早く売るべきだということだ。担当者を付けて在庫管理を徹底することで、高コスト体質からの脱却に結びつけていく。

物流の2024年問題への対応では、荷物のカートンモジュール化を進めており、今年度中にすべて対応する運びで予定通り進んでいる。それに加え、トラックの手積みをやめてパレット単位にしようということなので、少量多品種だと効率が非常に悪くなるため、アイテム集約ということも必要になってくる。

とはいえ、数量は多くないが収益が上がるアイテムもあり、単純に量の問題ではなく収益を見ていかねばならない。もちろん、工場の生産性向上という意味でも小ロットの商品は生産ライン切り替えで時間のロスが出てしまう。アイテム集約は重要だ。

――生産面での概況

直営工場で言えば、宇都宮工場のマグロ加工品と、山形・大江工場の焼そばラインはほぼフル稼働の状況になっている。稼働時間の延長を視野に検討中だが、人手不足の環境は変わらず、機械でできることは機械化するという形で生産現場と相談を進めている。

――業務用食品事業の中長期的な方向性

やはりメインとなる商材のさらなる拡大、強いものをより強くという方向性で収益を最大化していくことが中心となる。また、水産品では水産事業部と一緒になった社内キャンペーンを進めるなど、協業をより深めていく。骨なし切り身などの水産加工品は従来、業務用食品部門と水産部門で重複している部分もあったが、原料調達や生産は彼らに任せ、一方で全国での販売は食品部門で担うなど、より一層の連携を強めていく。

また、社会貢献する企業の一員としてSDGs活動を進めているが、環境にやさしい商品、たとえば脱プラスチックや認証原料を使うとなるとすべてコストアップになってしまう。残念ながら現時点では価格優先のお客様も多い。それでもこれは地球を守る全国民の活動として、それを求めるお客様を見つけ出して一緒に仕事をしていくことが大切だと思っている。そういうパートナーとビジネスを通じて、お互いに苦労してでも前に進めていきたい。今はどうしても物価高の側面はあるが、人々の意識は確実に高まってきており、どこかで流れが変われば良いと思う。

〈冷食日報2023年7月20日付〉

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近年の冷凍食品をめぐる情勢は、共働き世帯の増加や家族構成の変化、また飲食店や量販店の惣菜売場の多様化によって需要が増加しています。一方で、家庭用冷凍食品の大幅値引セールの常態化はもとより、原料の安定的調達や商品の安全管理、環境問題への対応など課題は少なくありません。冷食日報ではこうした業界をめぐるメーカー、卸、そして量販店、外食・中食といった冷凍食品ユーザーの毎日の動きを分かりやすくお伝えします。

創刊:
昭和47年(1972年)5月
発行:
昭和47年(1972年)5月
体裁:
A4判 7~11ページ
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