キリンビバレッジ・堀口英樹代表取締役社長インタビュー 「利益ある成長」を継続、「収益性高め新しい価値を創出」

キリンビバレッジ・堀口英樹代表取締役社長
――今年を振り返っていかがですか。

中期経営計画の2年目ということで、昨年から利益ある成長を掲げ、その実現に邁進してきた。利益ある成長は2つの柱で実現することを目指しており、強固なブランド体系の構築と、収益性の高い事業構造への転換を進めた。第3四半期までの実績としては、減収・増益という形となった。トップラインは目標に到達しなかったが、営業利益は収益構造がかなり回復してきたこともあり、計画を上回る形で進捗した。

生茶デカフェとファイア

――強固なブランド体系構築に向けた活動について。

強固なブランド体系の構築では、大きくは主力ブランドの「午後の紅茶」、「生茶」、「ファイア」の3つと、それにプラスして健康領域でのチャレンジがある。

「午後の紅茶」は、16年に30周年を迎えて過去最高となったが、31年目の今年も過去最高となる見込みであり、そうなるとドライ商品は8年連続で前年を上回る。

基盤4品の「午後の紅茶ストレートティー」、「同ミルクティー」、「同レモンティー」、「同おいしい無糖」が堅調だったことが大きい。1ー11月累計では前年比3%増となった。ミルクとレモンはCVS で、おいしい無糖は量販チャネルで好調だった。さらに、新商品と冬場のホット商品がさまざまなチャネルで導入されたことも好調要因だ。今年のチャレンジは、東京・代官山にコンセプトショップを10月に開店したこと。コミュニケーションは、南阿蘇を舞台にしたCM が好評だった。

「生茶」は、昨年リニューアルし、ブランド再生ということでスタートした。今年3月に中味のブラッシュアップや容器展開を増やし、よりコアなファンを獲得できた。ただ、夏場以降は天候不順や市場の価格がやや低下する中でダウントレンドになった。販売目標を2,920万箱に上方修整したが達成は厳しい状況だ。

トピックスとしては、5月に「生茶デカフェ」を発売したところ、既存のカフェインレス商品よりも2倍以上の販売数量になった。コミュニケーションも強化しており、甘みや旨みなど、「生茶」の物性を訴求する活動を行った。また、東京・原宿に「お茶のいろはby Namacha」というコンセプトショップ(体験型ミュージアム)をオープンし、ファン拡大と情報発信に取り組んだ。

「ファイア」は、10月にフルリニューアルした。ターゲットをヘビーユーザーにぐっと絞って展開し、1日に何本も飲む人から支持されるように味覚を変更した。ヘビーユーザーの方たちの共感を得やすい癒しの世界にシフトしたのが大きいと考えており、テレビCM とSNS の両方で展開することで顧客接点が広がり、質的な広告評価も高まったと考えている。しかし、販売数量の進捗はやや厳しい状況だ。その後10月に台風が連続してやってきて、自販機チャネルが打撃を受けた。残念ながら年間目標の達成は難しい。ここがまさに18年に向けての大きな課題となった。引き続き粘り強くやっていきたい。健康軸の商品も注力している。キリングループは、CSVの中で3つの大きなテーマを掲げているが、そのうちのひとつが健康だ。

キリン サプリなど

当社は現在、特に商品としての展開に注力しており、今年は「キリン サプリ」シリーズを3商品投入した。その中でも特に疲労感を軽減する「同 ブラッドオレンジ」が好評だ。

ほかに、プラズマ乳酸菌を配合したグループ横断で商品展開を行う「iMUSE(イミューズ)」があり、当社は1月16日から「イミューズ レモンと乳酸菌」を発売する。同乳酸菌を使用した商品では「まもるチカラのサプリ」をすでに発売しているが、今年は昨年に比べて約3割増の販売動向となっている。

――収益性の高い事業構造への転換について。

営業利益率の改善がひとつの指標になるだろう。今年も選択と集中でかなり進めてきた。商品として「生茶」や「午後の紅茶」などの販売構成比が増えることで、製造効率がアップし利益を押し上げられた。17年の営業利益率は5%後半程度になるとみられる。

要因としては、小型容器を中心に目標を管理したことがかなり進んだことが挙げられる。小型容器はCVS や自販機チャネルが主となるチャネルだが若干苦戦した。しかし、量販チャネルは逆に小型容器の比率が上昇している。一方で大型容器は価格是正が続いており良い傾向だ。

水も価格の水準が維持できている。これからは小型のハイアンドローがポイントになるだろう。

さらに、資材のコスト削減も進んだ。また、一昨年の課題となっていた余剰商品の廃棄削減が大きく改善している。そして、炭酸の大型容器を若干小さくすることで、積載効率を上げることもできた。

あとはアライアンス効果で、ダイドードリンコとのコラム交換が進み、先方の自販機で「午後の紅茶」を、我々の自販機でダイドーのコーヒーを販売したところ、お互いのシナジーを生み出し、パーマシンが向上した。

――自販機やEC の取り組みは。

10月までの状況では、市場同様に前年実績より微減している。キリンビバレッジバリューベンダーが15年7月に誕生し、きめ細かい自販機のマーケティングが可能になるとともに、自販機のオンライン化によりオペレーションが効率化したほか、パーマシンの高い設置先へのコラムマーケティングが進み、活動の質が高まっている状況だ。

あとは、「タピネス」(LINE を利用した自販機のコミュニケーションサービス)を新たに立ち上げた。来年春に2万台を達成する考えだ。利便性を高めるだけでなく、お客様とのコミュニケーションやプロモーションの観点でも強化する。

タピネス

成長するEC チャネルならではの商品開発にも取り組んでいる。「ムーギー」や「ヨサソーダ」などは、遊び心のあるパッケージデザインも好評で、秋冬デザインは昨年の倍以上の売り上げとなった。販路もさらに拡大したい。

――“利益ある成長”への取り組みにより得られた成果は。

ある程度の収益性は新しい付加価値を生み出すための投資につながる。そして、好循環に回り始めたことで社員のモチベーションが上がり、明るさやアイデアが生まれ、組織が活性化してきている。

商品のSKU が減っているが、それによりひとつの商品に資源(ヒト、モノ、カネ)が集中できるようになった。開発にしても時間をかけてコンセプトを作り、質が高まっている。また、継続して広告などブランド投資ができるようになっている。

――持続可能な社会に向けての取り組みは。

グループでもCSV ということで、健康、地域社会、環境をテーマに取り組んでいる。当社は、健康では、技術力を背景にした商品開発でお客様の健康に貢献する商品を展開する。地域では、「午後の紅茶」の茶葉で、スリランカの農園でレインフォレストアライアンス認証の支援を行っている。環境では、CO2削減につながる再生可能エネルギーを活用し、湘南工場は電力のリソースを水力発電に変更した。

〈酒類飲料日報2017年12月26日付より〉