昭和・平成の飲み方比較からみる令和のコーヒー、トレンドは“with”か

昭和・平成の飲み方比較からみる令和のコーヒー(画像はイメージ)
日本のコーヒー消費量は拡大傾向が続いており、2018年は47万213トンで10年前から約1割、20年前から約3割増加している。コーヒーは国内で最も飲まれている非アルコールの有価飲料であり、日本は、米国、ブラジル、ドイツに次いで世界4位のコーヒー消費国である。家庭でハンドドリップやコーヒーマシンが普及しているほか、40年以上前から喫茶店文化も根付いておりコーヒー好きが多い。
コーヒーの国内消費量推移

コーヒー各社で構成される日本家庭用レギュラーコーヒー工業会は、2019年秋に「レギュラーコーヒーに関する実態調査」を実施した。これは、昭和世代(31歳以上)と平成世代(30歳以下)の世代別の飲み方を比べて、昭和の喫茶店文化、平成のシアトル系コーヒーやサードウェーブを経て、新時代の「令和」のコーヒーのトレンドを占うものである(コーヒー好き国民の日本人10代~60代男女1,080名を対象)。
 
同調査の中で、世代による特徴が色濃く出たのは『レギュラーコーヒーを飲む目的』だった。
 
「リラックス、くつろぐなど、気分をOFFにするため」と回答したのが、昭和世代の73.6%に対し、平成世代は61.1%にとどまり、「集中力を上げたり、やる気を出すなど、気分をONにするため」としたのは、昭和世代の39.2%に対し、平成世代は57.1%にのぼった。
 
背景には、昭和と平成の時代ごとに、日本人とコーヒーとの関わり方が変化したことがありそうだ。

「あなたがレギュラーコーヒーを飲む目的を教えてください」アンケート結果

【昭和時代】
コーヒーの消費量が劇的に伸びたのは、高度経済成長期。海外から洋食の外食チェーンの上陸や、スーパーマーケット、コンビニエンスストアなどの流通革命も起こり、コーヒーの存在がより身近になった時代。
 
「コーヒー」の中身のこだわりは強くなく、大量生産、大量消費の時代だった(ファーストウェーブと呼ばれる時代)。そんな中、コーヒーの役割は、いわば生活の句点(。)のような、小休止したり、癒しを求めたいときのアイテムだった。
 
【平成時代】
バブル崩壊、失われた20年、リーマンショックに加え、数々の天災など日本全体がやや元気がなくなった時代。
 
コーヒーは、シアトル系のカフェチェーンの上陸を契機にファッションアイテムとなり(セカンドウェーブ)、シングルオリジンやさまざま抽出方法で楽しむようになり、提供側、飲用側それぞれが個性を表現するアイテムとなった(サードウェーブ)。コーヒーの役割は、生活の読点(、)のような、次に向けてスイッチを入れ、元気を出して前に進む起爆剤だった。
 
ただ、海外から相次いで上陸したカフェの中には閉店しているところもあり、残っている店舗もコモディティ化との戦いの真っ只中だ。スーパーなどで展開する家庭用のレギュラーコーヒーも、産地や製法にこだわったサードウェーブ系商品が思うようには販売が伸ばせていない状況となっている。
 
では、【令和時代】には、どのようなコーヒーが求められるのだろうか。
 
2020年に創業100周年を迎えるキーコーヒーで、コーヒー教室シニアインストラクターを務める金井育子さんは、「主張しすぎない飲みやすいもの、様々なシーンでくつろげる味わいが今後は好まれるのではないでしょうか」と話す。
 
昭和、平成、令和のコーヒーの変遷を見続けてきた、金井さんに話を聞いた。
 
==最近のコーヒーの状況を教えて下さい。
 
コーヒーは嗜好品で、とても多様化しています。そのため、豆や器具にこだわる方もいれば、コーヒーはくつろいでホッとしたい時に飲むので、個性的な味・香りは疲れてしまうという方もいらっしゃいます。現在、スペシャルティコーヒーやプレミアムコーヒーがとてもフォーカスされていますが、当社のコーヒー教室に来られる方々でそのようなコーヒーに興味をもっていらっしゃる方は、100人規模のセミナーだとしたら10人くらいにとどまります。
 
昭和の時代にコーヒーを好きだった方でも、今の時代のコーヒーは煎り(焙煎度)が深くて苦手と言われる方もいますし、反対に、もともとコーヒーが苦手だった人も、シアトル系カフェのデザートのようなコーヒーメニューが好きという方もいらっしゃいます。昭和から平成にかけて大きく変わったのは、平均的なコーヒーのレベルが格段に上がっていることです。コーヒー生豆を収穫した後の処理方法が研究され、技術の向上もあって生豆のマイナス面が出ないような焙煎方法を採用するようになりました。現在では、コンビニエンスストアやファーストフードのコーヒーも以前に比べておいしくなっています。
 
==コーヒー教室にはどのような方が来られますか。
 
コーヒーは雑誌でも特集されるようになり、インターネットで情報を得やすくなったこともあって、すごく専門的な情報や器具がどなたでも手に入るようになりました。ただ、その情報の中には正しく網羅されていないものも見受けられます。受講者の中には、その点でとまどって情報を求めて参加する方もいらっしゃる。コーヒーは嗜好品であり多様化しているため、コーヒー教室のセミナーでは、参加者に寄り添って会話をし、体験をしてもらうことで望まれているものを導き出すことに取り組んでいます。また、中高年の方では、自分自身はコーヒーが飲めないが、自宅でお客様や家族にコーヒーを出したいという時に、苦すぎたり、淹れ方によって味が変わったりすることがあったため、教室で基本的なことを学びたいというニーズがあります。いろいろと試す中でご自身が飲めるコーヒーに出会えたということも少なくありません。
 
==コーヒー豆は売り場にいろいろな商品が並んでいますが、トレンドは。
 
レギュラーコーヒーの“苦さ”に関しては皆さんわかると思いますが、“酸味”をどこまで受け入れて下さるのかは人それぞれだと思います。われわれのようなコーヒー会社は、モカのような酸味をブレンドで使ってアクセントにしていますが、嗜好品なのでモカのフルーツのような酸味や、マンデリンのスパイシーな酸味を好きな方もいれば、ダメな方もいる。お料理にピーマンが入っていたらすぐにわかって敬遠する人もいるように、そこの部分のはざまだと思います。
 
また、スーパーや量販店で展開するコーヒー豆は、不特定多数の方に販売するため、飲んでいただいてまた飲みたくなるような設計を目指すのでマイナス面がない商品が好まれるように感じます。その意味では、個性が強いものよりも、やや昭和時代に遡った味わいに戻ってきています。当社もこのようなトレンドに応えるため、創業時のブレンドを研究して味わいに磨きをかけ、苦みを抑えた味わいの“SINCE(シンス)1920”シリーズを2019年秋から発売したところ人気商品となっています。
 
==今後のコーヒーに求められる役割をどのように考えられますか。
 
これからは、あまり主張しない“飲みやすい”コーヒーが求められる傾向にあると思います。ペットボトルのコーヒー商品も人気ですが、軽い味わいが受け入れられているからでしょう。これまでのように飲んで気持ちをリセットしたり、スイッチを入れるという飲まれ方もあるでしょうが、それ以上に生活者の皆様に寄り添い、様々なシーンでコーヒーを飲んでくつろいだり、リラックスできるものが支持されるのではないでしょうか。
 
令和時代のコーヒーには、主役というよりもバイプレーヤーとして、生活に寄り添う“with”のような役割が求められているようだ。共働き家庭の増加や働き方改革などにより、オフィスでも家庭でも忙しく過ごしている人が増えており、コーヒーだけを楽しむというよりも、コーヒーを飲んで癒されながら何らかの作業を行う傾向にある。さまざまなシーンで気軽に飲みやすい味と香りを提供することで、より生活者にとって身近な存在になれば、コーヒーの消費量はさらに高まる可能性がある。