受託給食企業に聞く「スマートミール認証取得までの道のり」/テスティパル フードケア事業部・安東祐子さん

テスティパル フードケア事業部・安東祐子さん
〈東洋インキ株式会社 関西支社寝屋川センターがスマートミール星2つの認証を獲得〉
健康経営の推進を背景に、社員食堂にスマートミールの設置を望む企業が増えている。制度開始から1年が経ち、コンソーシアムの事務局にも企業から「スマートミールを取得できる受託給食会社はどこか教えて欲しい」といった問い合わせがあるそうだ。

受託給食会社からの積極的な健康サポートのニーズも高まる中、第1回、第2回ともに受託事業所が認証を受け、顧客の健康経営をサポートしているのが関西の老舗給食会社テスティパルグループである。第2回認証では、東洋インキ(株)関西支社寝屋川センターの社員食堂が星2つの認証を受けた。認証取得までの経緯や反響、課題について、(株)テスティパルのフードケア事業部係長である安東祐子さんにインタビューを試みた。

〈課題は本社と現場の意見の相違〉
――スマートミールの認証取得はどちらの提案から始まりましたか

東洋インキ様からお求めをいただました。健康管理室があり医師・看護師が常駐するほど健康経営の意識が高い企業です。スマートミールについてもご存じでした。昨年の7月に関西支社寝屋川センターの食堂運営の受託が始まり、そのオープンの時期と第1回スマートミールの認証取得時期が重なっていたことから、第2回で認証を取得することを目指しました。

――応募はうまく進みましたか

用意しなくてはいけない書類が多いため最初は大変だと思いましたが、第1回認証取得で後輩が応募した際に手伝った経験があり、後輩に細かいことを聞きながら応募書類を作成したのでスムーズに進みました。また、スマートミールの事務局の方が親切で、相談を受け付けてくれたので、とても助かりました。東洋インキ様では食堂から離れた場所に喫煙ルームがあり分煙できていたので問題はありませんでしたが、喫煙ルームがあっても匂いが漏れている場合は、スマートミールの食環境として不可になるなど、資料に記載していない細かい部分も教わりました。

――社内での情報共有と事務局からのサポートが肝心なのですね

はい。ただ、課題もありました。本社の健康管理室が健康な食事の提供を要望するものの、現場はボリュームがあるメニューを好み、健康な食事に対してそこまで乗り気ではなかったからです。本社と現場の意見をどちらも大事です。両立させるために、食堂で提供する3定食のうち、1つはスマートミールの「ちゃんと」(1食あたりのエネルギーは450~650kcal未満)にして、残り2つはボリュームのあるものにしました。

ヘルシーメニューをただ提供するだけではダメです。定食が3つあっても、スマートミールが選ばれるためにはどうすれば良いかを考慮し、調理師泣かせではありますが、スマートミールはいろいろ食べられるワンプレートにしました。

テスティパルのスマートミールメニュー

〈ボリューム感の演出でスマートミールをアピール〉
――品目が多くて彩りもきれいですね

 
1定食なのに2定食分作っているような献立です。ヘルシーメニューでどうすれば満足感が得られるかを考えたときに、いろいろな料理を食べられればボリューム感を感じられ、お客様の満足度が上がると思いました。食材の品目が増えると彩りも良くなります。盛付けも素敵に見えるようこだわりました。
 
スマートミールの主食・主菜・副菜・汁物を単品で作ると、食材により栄養価が跳ね上がるため栄養価や原価を合わせるのが難しくなります。料理の種類を増やせばバランスが良くなります。このメニューは小鉢が2つ付く形態で、野菜・海藻・豆類が揃い、全体の栄養バランスが良いメニューになっております。
 
〈献立と提供方法の工夫で省力化も〉
――品目が増えて厨房は大変そうですね

 
調理師は献立に込めた思いを理解してくれて、細々したものを作るのにそこまで否定的ではありませんでした。調理師の能力が高く協力的だから提供できるメニューかもしれません。
 
手間のかかることをお願いしているので、せめて調理工程だけは重複しないよう、例えば1品が手間のかかるものであれば、もう一品は和えるだけでよいものにするなど、調理しやすいメニューにしています。
 
調理師同様、パートさんにも提供してもらいやすいように、厨房の設備をみて一方が冷たい料理なら、もう一方は温かい料理にするなど工夫し、提供のしやすさも考えました。
 
――取得された認証は星2つです。選んだオプション項目は
 
東洋インキ様側から、事業所の利用客数規模に合わせたオプションのご提案があり、そこから相談して選びました。
 
取得したのは、8、9、13、23、24、25の6項目です。毎日、十八穀米をセルフサービスで提供し、それを選択時に分かるようにしています。プライスカードにメニューの栄養価を提示し、栄養リテラシーの向上に努めており、卓上に調味料を置かず、一箇所に集約し減塩を促しています。
 
また、食環境改善に向けて定期的に打ち合わせを実施しており、東洋インキ様では従業員の方の意見を多く取り入れられております。
 
せっかくの機会なので星3つの認証の取得を目指しましたが、星3つはある程度食数の規模と出せる食事の種類がないと厳しいところがあります。というのも、食数が多ければ5つくらい定食を出せて、そのうち1定食くらいは週3回の大豆メニューを導入するなど健康志向の強いメニューでも受け入れられますが、食数が少なく定食が限られる事業所で極端にヘルシーなメニューを導入すると、お客様から敬遠される可能性があるからです。
 
〈3つの工夫でレベルアップ!〉
――献立で工夫した点は

 
主に3つ挙げられます。1つ目は、先述のとおり献立に飽きがこないよう少しずついろいろな料理を組み合わせる形態にしたことです。主菜も2種類の盛り合わせになっているので、魚と肉を一緒に提供することで、魚が苦手な方にも選んでもらえるよう内容を凝ることができます。
 
品目が多いと減塩効果も期待できます。品目のそれぞれに味がしっかりついているとどうでしょう。きっと、くどく感じると思います。一品一品は薄味でも、全体でバランスをとった味付けになっていれば、徐々に塩分の少ない食事に慣れることができます。
 
2つ目は、サイクル周期を長くとり、豊富なメニューを用意していることです。同じメニューがたびたび出てくると嫌になるもので、私自身、お金を出して選んだ昼食は覚えているので、またこのメニューが出てきた~と思われるのを避けるように、最低3ヶ月程度は同じものが出ないようにしています。豊富なメニューを揃えていると、旬の食材を使った料理を提供することもできます。またサイクルを決めることで、前回のサイクルのデータから食数を読むこともできます。ロス削減につなげるとともに、以前その組み合わせで食数が出なかった場合は、ボリュームのある2定食の内容を少し調整するなど戦略も立てやすいです。3つ目は、全体的な彩りを想像しながら献立を立てたことです。おいしさの一つに見映えがあります。見映えを良くすることで、喫食率の向上と満足度アップを目指しています。
 
〈平均食数は15%、健康な食事への関心の高まりも実感〉
――スマートミールの反響は

 
ヘルシーメニューの平均食数は全体の5~10%と言われていますが、ここでは約15%もあります。調理師に話を聞くと、7月のオープン後、徐々に食数が増え毎日選ばれる方もいて、健康な食事に関心を持つ方が増えているのを実感するそうです。以前まで揚げ物や丼を注文されていた方がスマートミールを選ばれているケースがあり、聞けばお得感があるとのこと(笑)。
 
――お客様からはどのような意見がありましたか

 
東洋インキ様に聞いたところ、「おいしくて栄養バランスが良く、健康面等に配慮した食事は良い事だと感じます。温かいものが出てくるのでありがたく食べさせてもらい満足しております。副食(主菜・副菜)で野菜もとれて、健康的にも良いと思います」とご回答いただきました。お客様の中には、最近野菜ばっかりだな~と感じている人やスマートミールに変更されたことに気付いていない方もおられるので、啓蒙とアナウンスを強化したいと思います。
 
また、スマートミールに限らず食事提供全般について意見を伺ったところ、
▽味付けしているおかずの場合にソースをかけるのか迷う時があるので、サンプル展示のところで味付け等の標示をすると分かりやすい
▽生姜焼き、麻婆豆腐、焼き魚などシンプルなメニューもあれば良い
▽てんぷらをオーロラソースだけでなく天つゆでも食べられたら嬉しい
▽うどんメニューをそばに変更できらありがたい
▽日によってはボリュームが無いように思えるので、ボリュームがありカロリーの低いものも検討してほしい
――など期待をいただいたので、できる限り対応したいと思います。
 
〈食の楽しさと健康の両立を目指して〉
――スマートミールの課題は?

 
ちょっとずつ増えていますが、さらに食数を増やすためには認知度向上が必要です。啓蒙とアナウンスは現在、掲示物や社内報に限られています。スマートミールはこういう食事で、栄養士がどういう思いを込めて献立を作っているのかをお客様に伝える機会があれば見方が変わると思うので、タイミングがあればセミナーの開催を提案したいと思います。
 
健康に強い関心がある方は、10人いれば大体2~3人くらいかと思います。スマートミールを食べていただいている方も本質的にその良さを知っている方は少ないのではないかと思い、直接その意味をお伝えする機会を持つことでより興味を持って食事を楽しんでいただけたらいいなと思います。14年間、主に事業所給食の献立作成に関わり、健康になってもらうための食事を提供していますが、私は楽しんで食事をすることが一番だと思います。食の楽しみを削らない程度で、楽しくておいしいのに、健康になった!というところを模索していきたい。そのために見た目やバラエティにこだわり、おいしさを追求していきたいと思います。

掲示メニュー

〈目指すは星3つ、ゆっくり健康な食事に慣れるのが大事〉
――今後、お客様への健康増進に向けて実施したいことは

 
オプションをさらにクリアして、星3つを目指したいと思います。この規模で星3つの認証はなかなかとれません。とれたらすごいことなので、東洋インキ様の協力をいただきながら頑張りたいと思います。
 
そして、スマートミールの認証取得を他の事業所でも展開したいと思います。しかし、これを実現するためには、お客様のご理解と事業所の設備、調理師の技量、食器が揃わなくてはいけないので難しいところもあります。
 
仮に本社様の意向があっても、働かれている方のニーズがあまりないことも厳しい理由です。確かに、世の中は健康志向になりつつありますが、調理師と話すと、ヘルシーメニューはなかなか売れないと言われ、やはり油ものが人気です。無理にヘルシーメニューを提供するのも良くありません。いつの間にかじわじわと健康な食事に慣れていくのがベスト。毎日ヘルシーではなく、週に何回かのペースで提供し、健康な食事のおいしさと魅力を訴えていきたいと思います。