“観光立国”で高まるムスリム対応の重要性、広がらないハラールに訪日客の不満も

ハラール関連商品展示会「ハルフェスト東京2018」で紹介された食品(南薩食鳥の展示)
ハラールに関する商品などを紹介する展示会「ハルフェスト東京2018」が、11月27~29日の3日間、東京流通センター(東京都大田区)で開催された。今後国内で大型のスポーツイベントも控えており、海外からの訪日客は増える見込みだ。国は観光立国を挙げており、世界人口の2割以上を占めるムスリムへの対応は重要になるが、国内の動きはまだ鈍い。
約1万6000人の来場を見込み開催された「ハルフェスト東京2018」

約1万6000人の来場を見込み開催された「ハルフェスト東京2018」

〈増えるイスラム人口と訪日外国人〉
内閣府が発足した、観光戦略実行推進タスクフォースが今年5月に発表した資料によれば、2010年時点で世界のイスラム教徒は16億人以上いるという。ムスリムによる旅行市場規模(国内・海外)は、2015年で世界市場の11.2%にあたる1,510億ドルを占め、2021年には2,430億ドルに拡大すると予想している。
 
日本国内でもイスラム人口は増えつつあり、現在は約20万人が住んでいる。訪日外国人の旅行者数も大きく増加しており、2017年のマレーシアから来た旅行者数は前年比12%増の約44万人、インドネシアからは同30%増の約35万人となっている。
 
2019年にラグビーのワールドカップ、2020年には東京オリンピック、2025年に大阪で万博が決まるなど、海外からも多くの人が集まるビッグイベントが控えている。ハラールの普及活動に努めるジャパン・ハラール・ファンデーション(JHF)によると、東京オリンピックで訪日する約1万2,000人のアスリートのうち、66%にあたる約8,000人がムスリムになると見ている。そのため、幅広い人が食事できるよう対応を進める必要がある。
 
〈メーカー各社も提案 業務用冷凍食品など〉
「ハルフェスト東京2018」では、メーカー各社も今後を見据えた提案を行っていた。食用鶏などを扱う南薩食鳥(鹿児島県南九州市、徳満義弘社長)は、ハラール認証を取得しており、鶏肉を使ったハムやソーセージなどの加工肉や、冷凍肉などを紹介した。取り組みを始めてから7年、利益以上に「日本に住むムスリムの人に食べてもらいたいという思い」(同社営業課長)で続けているという。
 
今年5月に日本のセントラルキッチンでハラール認証を取得したキュアテックス(東京都世田谷区、江守剛社長)は、マレーシアにある認証を取得したキッチンからさまざまなソースを輸入。日本で冷凍のカレーなどに加工して提供している。日本食の料理人が手掛ける冷凍の和食メニューもある。また、販売だけでなくコンサルタントのような形で、ホテルなどでハラールを扱う際の注意すべきことを教えている。

「ハルフェスト東京2018」キュアテックスの展示

「ハルフェスト東京2018」キュアテックスの展示

SCミート(千葉市花見川区、鈴木良夫社長)は、スーパーなどでムスリムの人が気軽に食べられるよう、価格をスーパーで販売している和牛と同等に抑えた冷凍の牛肉などを提案した。比較的高所得の人も日本国内に来ていることに着目して取り組む。
 
農(みのり、千葉県横芝光町、ミヤ・マムン社長)は、オリンピックなどで今後増える需要を見据え、ハラールの冷凍肉などを提案した。将来的にはハラールの冷凍米飯の販売も計画している。介護食などを手掛けるグローバルキッチン(東京都港区、亀井泰人社長)は、日本食をメインとした調理済み冷凍食品を紹介した。
 
〈広がらないハラールに訪日客からは不満の声〉
大手食品メーカーや飲食店などでも取り組みが見られるが、日本ではまだ積極的な企業や飲食店はそう多くないという。JHFによると、現在ハラール認証を取得している飲食店は、全国でわずか178店舗。その多くが東京と大阪に集中しているという。
 
ある来場者は「富士山に観光に行った際、ツアーで配られる弁当以外に食べるモノがなくて本当に困った」と話す。観光庁が2017年に発表した訪日外国人消費動向調査によると、訪日前に期待していたことに「日本食を食べること」と回答した人は、マレーシアからの訪日旅行者の72.3%、インドネシアからの訪日旅行者の68.1%に上る。しかし、訪日経験のあるムスリムや、ムスリム向けのツアーを扱う旅行会社からは「食べ物やその成分の表示が不十分」、「食事ができる店が少ない」という声もある。
 
〈高い参入障壁の一方、利益に結びつかず撤退する企業も〉
日本国内でも、オリンピックなどで対応が求められるが、国としての動きはまだないという。JHFの高橋敏也氏は「国としてもムスリムに関するデータは集めていて、必要なのは分かっている」と話す。しかし、オリンピックだけでも競技場や選手の宿泊施設の建設などに手間が掛かり「食事については後回しになってしまっている」とため息をもらす。
 
東京や大阪ではホテルの稼働率が8割を超えており(観光庁調べ)、ハラール対応の必要性を感じていないところもある。必要性を感じている宿泊施設でも「何に取り組むべきか分からない」ため、参入障壁になっている。食品メーカーも、認証取得や設備の維持に安くないコストが必要だが、利益に結びつかないため、積極的ではない。「数年前にブームになったが、今はやめる企業も出てきている」(業界関係者)。
 
〈“理解すること”が第一歩〉
一方で、より積極的に取り組むレストランもある。横浜市内のホテルにあるレストラン「フローラ」では、ハラールだけでなく、ヴィーガン(絶対菜食主義者)やベジタリアンらにも対応したメニューを提供できるようにした。レストランはホテルの中にあるため、ルームサービスも同じものが提供できる。
 
日本ではアレルギーを除けば食事に制限がある人は多くはない。しかし、世界には文化や宗教などの都合で食事の選択肢が狭まる人がいる。理解しようとすることが、取り組みを広げることの第一歩かもしれない。
 
〈冷食日報 2018年11月29日付より〉