深刻さを増す自然災害 無保険状態の飲食店は約3割、政府の補助を受けにくい現状も

2019年1~12月の飲食店動向(日本フードサービス協会調べ)
飲食店を取り巻く環境は徐々に厳しさが増している。特に、昨今は自然災害による被害は深刻さを増しており、事業を大きく左右されかねない事態はいつ起きても不思議ではない。農林水産省によると、昨秋に発生した台風15号と19号の影響で、農林水産関係の被害額は3,629億6,000万円になった。

飲食関係では、幸楽苑ホールディングスで自社工場が被災したことにより食材の供給が停止し、約240店舗で臨時休業を余儀なくされた。同社の資料によると、工場関連の復旧費用だけで3,555万円。物流や店舗などを含めると、2億9,930万円を特別損失として計上した。日本フードサービス協会の2019年1~12月の動向(によると、全体の売上高は1.9%増で伸長した。しかし、洋風・和風のファミリーレストラン業態や居酒屋業態などは売上高と客数ともに前年割れとなった。

〈ネットから加入可能、セット補償など利便性向上〉
2019年10月の軽減税率制度の導入以降はテイクアウトや宅配が伸長傾向にあり、一部の飲食店の客数は減少傾向にある。

その状態で災害に見舞われてしまった場合、復旧は困難になる。飲食関連の関係者によると「保険などの補償を受けられない状態で被災をしてしまったら、自力での復旧は難しい。貯えが少ない状態だったらなおさらだ」と話す。

企業の私的財産は自力復旧が原則だ。災害の場合は、中小企業庁で補助制度を行っている。しかし、テナントでの店舗運営の場合は補助を受けるためのハードルは高い。補助を受けるには、テナントの店主ではなく建物の所有者が申請する必要がある。テナントが被災した場合は、建物の所有者も被災しており、自分で手一杯になっていることが多い。

また、補助金は復旧費用の最大4分の3まで受けられるが、残りの4分の1を誰が負担するかという問題もある。そのため、申請を断念するケースも少なくない。

火災などの保険についても、無保険状態になる企業は少なくない。保険の加入は義務ではない。店舗側としては、必要だから加入するのではなく、不動産会社に言われて入るケースが多いようだ。必要性を感じていないものへの支出を抑えるために加入しない店や、忙しさから保険の更新を忘れる店もあり、2~3割の店が無保険状態になるという。

USEN-NEXT GROUP のUSEN少額短期保険の富田晃取締役は「飲食店のオーナーは、いわば一国一城の主。努力して自分の道を切り開いたからこそ、万一災害等で被災してももう一度やり直したいと考える人は多い」と力を込める。

最近ではネットから加入できる保険も少なくない。飲食店では忙しさから使える時間は少ないため、隙間の時間を使って申し込みできる点は支持を広げている。

USEN少額短期保険は、インターネットで保険契約が完結するため利便性は高く、店舗に対して万一の事故や災害により被った設備・什器などの損害補償に加えて店の家主や来店客に対する補償も行っている。また、少額短期保険では初めて食中毒に対する補償や休業損害補償も行っている。

エイ・ワン少額短期保険は、木造・非木造の区分や難しい見積りは必要なしで加入が出来る。オフィスや事務所などの事故やトラブルを幅広く補償する。

アクア少額短期保険のテナント保険は、事業者の什器備品の補償や、入居物件に生じた損害の修理費用の補償、貸主に対する賠償責任や業務中の事故による第三者への賠償をセットにした。

AIG損保で展開の「総合事業者保険(スマートプロテクト)」は業務災害や雇用リスク、賠償責任、財産の分野を、一つの保険契約で補償が可能だ。利用者にとって必要な補償を組み合わせられる。

2019年9~10月の台風などの影響で保険への注目は高まったという。USEN少額短期保険が展開する「お店のあんしん保険」では9月の加入者数は前年比150%増、10月は同164%増と急増した。

厳しい時代だからこそ、様々な手で事前の対策を打つことは重要になる。今の当たり前は、明日の当たり前ではないかもしれない。

〈冷食日報2020年3月11日付〉