ニチレイ 食嗜好分析ツール「conomeal(このみる)」開発、背景に産業構造の変化

ニチレイの食嗜好分析ツール「conomeal(このみる)」イメージ
ニチレイがAIを活用して開発した、食の嗜好を分析するツール「conomeal(このみる)」。一人一人に合ったレシピや食に関するレコメンドを配信できる。10月20日にインターネット上で行われた講演で、技術戦略企画部事業開発グループのアシスタントリーダー、関屋英理子氏はプログラミング経験やAIの知識がない状態で開発に取り組んだという。背景には産業構造の変化がある。関屋英理子氏は講演で以下のように語った。

〈ニチレイは冷食だけじゃない〉
これまで、主に冷食の開発や営業を実施したほか、3年半ほど農水省に出向し、日本食のPRなどを行いました。ニチレイに戻ってからは新規事業の開発を担当しています。

皆さんがニチレイという会社に抱くイメージは家庭用の冷凍食品というイメージが強いと思います。しかし、売り上げとしては全体の11%ほどです。コンビニのアイスコーヒー向けの氷や、寿司ネタもやっています。また、日本最大で世界第6位の低温物流会社もニチレイで、実はいろいろやっているんです。

現在、グループでデータやAIの活用に取り組んでいます。

実例として、1つは最適化技術です。食品工場の生産計画を、AIを活用して進めています。これまで熟練の人が作業を進めてきたが、16兆通りの生産計画はさすがに限界があり、需要変化に対応できる生産体制の構築と働き方改革を目指しました。作業時間は10分の1まで減らせました。

効率的でよい事例だと思う。

もう一つは画像認識技術です。機械メーカーと共同で鶏肉加工品のAI選別技術を開発しました。精度を上げてフードロスの80%削減を目指します。

〈2040年までに食品会社は赤字との分析〉
ここからは新規事業としてデータ活用に取り組んだお話をします。

食の嗜好性を分析する仕組みで、個人の「おいしい」を定量化できるよう、「このみる」を開発しました。

しかし、何故取り組んだのか。

まず、デロイトトーマツが2013年に出したデータでは、国内の食品会社は2040年までに赤字になるとのことです。国内市場がシュリンクして、海外など新たな市場を開拓する必要性があるという分析でした。これまでと同じ方向の拡大ではない、何かをしなくてはという焦りが生まれました。

また、あらゆる事業体が食品産業に参入していることも危機感として感じました。GAFA をはじめとするプラットフォーマーや、スタートアップ企業らの参入が進んでいます。今まで、食品産業は装置や技術が必要で参入障壁は高かったのですが、こうした流れからそうじゃなくなってきているように思いました。

パーソナライズ化の浸透も危機感として感じました。マスマーケットから個別最適化された食を求めるようになっています。小売りや外食は約30年前にPOS システムをいれて、何を買ったかの分析をしています。今は買った情報だけでなく他のビッグデータの活用に移行しています。これまでの産業と違う個別化された食の提供が必要と感じました。

直近では、デジタル化の加速で、食の調理や届け方も変化しています。新型コロナウイルスの影響もありイーコマースやデリバリーは浸透しました。料理の仕方や食材のデータなどを今から蓄積して将来に備えなければと感じました。

今であれば、グーグルで六本木を検索したとすると、場所だけでなくレストランの情報も表示されます。昔は場所を調べるツールでしたが、今はレストランの営業に加えて、テークアウトやデリバリーの情報も得られます。おすすめを聞くと提案もしてくれて、AIやデータが入ってきています。

スタートアップ企業ではロボットは鍋や包丁を持って料理を出来るよう取り組んでいます。

自動調理化や効率的な作業で調理時間を大幅に減らし、ドローンやバルーンなどの配達方法で、最短10分で納品できるサービスもあります。

産業構造が大きく変わっています。すべてが一つにつながり、それは大きなマスではなく、個をとらえたパーソナルとしてつながっているのです。デジタル化への対応は必要なことで、食嗜好の分析に取り組んだ背景にもなります。

〈冷食日報2020年10月23日付〉