三菱食品 市場ニーズの変化にデジタル活用で対応、「新たな卸売業」への転換図る/森山透社長・2021新春インタビュー

三菱食品・森山透社長
――2020年の振り返りを

新型コロナウイルス感染症の影響により、生活者の意識・行動が本質的に大きく変わった1年となった。

感染拡散予防のためにマスクを肌身離さず、ソーシャルディスタンスを保ち、3密を回避する。食料や日用品の買い出しは、ネットや宅配で注文、買い物はなるべく近くの小売り店舗へ行き速やかに終わらせ、極力外出を自粛するなど。

さらには、誰も動かない「ゴールデンウィーク」、緊急事態宣言解除後も静かな「お盆」、東京都のGoToキャンペーン除外で始まった「シルバーウィーク」など、大型連休も以前とは全く違うものとなった。

仕事においても、働く場所が、会社の事務所から、テレワークにより自宅へと移り、社内外のオンライン会議は当たり前のようになった。

食品業界においては、外出自粛に伴い、買いだめ需要や内食需要の増加が発生する一方で、飲食店への時短要請や小中学校の一斉休校などの影響も受け、業務用は大きく落ち込んだ。

そのような環境下において当社では、2020年度の施策として「卸事業の再強化」、卸事業に続く新たな事業の柱として「川上寄り事業の拡大」、「デジタルを活用した構造改革」に取り組んできた。

――貴社施策「卸事業の再強化」について

働く環境が大きく変わる中で、“より良い”営業スタイルへの進化のために、オンラインも併用して商談密度を高め、デジタル取組提案を推進してきた。物流面において、以前から取り組んできたことでもあるが、納品時間や回数、発注単位の見直しなどの物流与件の緩和を進め、検品レスや伝票レスなどのデジタル化の推進を進めている。

――「川上寄り事業の拡大」について

特にオリジナル商品開発において、コロナ禍により家飲み需要が増えている中、酒類で伸長している缶チューハイなどのRTD市場に対し、新たに菓子メーカーとのコラボ商品を発売した。好調に推移すると共に、新たな市場の創出に繋げている。

また、今年取扱いを開始した、創業160年以上の歴史と、全世界で累計10億本以上の販売数を誇るドイツ産スパークリングワインの「ヘンケル」の展開に注力している。

更に、常温帯のクラフトビール市場にチャレンジする「J-CRAFTホッピング」や、著名な酒場ライター吉田類氏をアイコンに起用した、全国の地酒を自宅にいながらにして味わっていただける小容量の清酒シリーズ「蔵べる」を発売、引き続き新たな価値を創出すべく商品開発に注力していく。

――「デジタルを活用した構造改革」について

昨年4月に新たにチーフ・デジタル・オフィサー(CDO)を新設し、データとデジタルの活用による構造改革を一気に進め、生産性の抜本的な向上と、事業構造の転換、加えて需要創造の取組を社内・社外・業界の3つの観点で進めている。

「社内」では、業務の効率化と高度化を進めると共に、デジタル化推進に向けた経営基盤改革を、「社外」では効率化に加えてデジタル技術を活用した新たな価値・機能提供などを、そして「業界連携」ではEDIなどの非競争領域について業界全体で連携することによる食品流通業界全体の効率化を図っている。

そして現在、この前提となるデジタル人材の育成にも取り組んでいる。社内に向けたテーマとして「デジタル技術を活用して生き残る。そして成長しよう」と号令をかけ、社員一人ひとりが「自己変革」し、各自が抱えている課題をどう解決するか知恵を絞り、成功事例を積み上げるよう言っている。

〈コロナ禍の中で「食」が生活・心を豊かにする「拠り所」に〉
――2021年度の施策について

当社は次の中期経営計画に入り、その内容については現在策定中だ。だが、生活者の消費動向は感染拡大の状況で大きく変わることが昨年証明された中で、食のインフラを支える当社として、様々なシナリオを想定しておかなければならない。

1つ目にネット・宅配の浸透、拡大が更に進むものと想定される。コロナ禍で生協宅配に加え、外食デリバリーが伸びたことは周知の通りだ。この先の収束が不透明な中、またネットの便利さを享受した生活者の購買行動変化によって、リアル店舗におけるデジタル化含め、ネット活用は進んでいくだろう。

2つ目に景況感低下の影響で節約志向がより一層強まる。食品業界では正月、卒業・入学シーズンは大きなイベントだが、大人数による外食は難しいだろう。家ナカ消費は、旅行や外食の支出を抑えた分、家庭の食卓で少し贅沢しようとする需要はあり得るだろう。長期化するコロナ禍で人々は「食」に対し生活・心を豊かにする「拠り所」としての役割を求め行動する傾向が強まっていくのではなかろうか。

当社としては昨年のコロナ禍で掴んだ市場動向や生活者の調査・分析により捉えた意識・行動の変化などから、その不満やニーズを的確に捉え、取引先と一緒になって最適解を提案して行く事が重要と考えている。

食品流通の起点である生活者のライフスタイル、行動・価値観の変化を捉えた新たな提案と売場展開を実現し、取引先、そして生活者の皆さんのお役に立てる需要創造の取り組みをデジタルの活用をもって更に強化し、推進していきたい。

また、業界での物流やデジタル関連を含めた非競争領域においては連携を推進していきたく、持続可能な食品流通構築の為にも具体化を進めたいと考えている。

SDGsについても、昨今どの企業でも取り組みを進めているが、当社としても、社会的な体面を保つためではなく、企業の利潤追求と社会課題の解決を両立するポジティブな考え方として、経営に組み込みたいと考えている。

そして、当社が進む方向性を示す指標として、2030年度に向けて掲げた目標を着実に進めていきたいと考えている。

――今後の方向性について

図らずもコロナ禍が「デジタル化」の追い風となっており、産業構造が変化している中、当社が持つ多数の取引先との繋がりを武器に、デジタルによって「新たな卸売業」へと転換し、取引先や流通の課題解決、業界全体の最適化を図る役割を発揮できると考えている。これは当社が企業ミッションとして掲げている「中間から中核へ」そのものだと考えている。

5月に移転した新本社で、勤務場所だけでなく働き方も変わった。社員一丸となって心機一転、従来の習慣や慣行を一旦忘れ、新たな気持ちで変革に向かって進めてまいりたい。

〈冷食日報2021年1月13日付〉